裁判例結果詳細
最高裁判所判例集
- 事件番号
平成29(行ケ)10213
- 事件名
審決取消請求事件
- 裁判年月日
平成30年9月10日
- 法廷名
知的財産高等裁判所
- 裁判種別
- 結果
- 判例集等巻・号・頁
- 原審裁判所名
- 原審事件番号
- 原審裁判年月日
- 判示事項
- 裁判要旨
特 判決年月日 平成30年9月10日 担
許 当 知財高裁第2部
権 部
事 件 番 号 平成29年(行ケ)第10213号
○ 特許法159条2項により読み替えて準用される同法50条ただし書に当たる場合
であっても,特許出願に対する審査・審判手続の具体的経過に照らし,出願人の防御の
機会が実質的に保障されていないと認められるようなときには,同法159条2項によ
り準用される同法50条本文に基づき拒絶理由通知をしなければならず,しないことが
違法になる場合もあり得る。
○ 拒絶査定の理由が拡大先願(特許法29条の2)であるところ,刊行物 に基づく 新
規性欠如(同法29条1項3号)及び進歩性欠如(同条2項) を理由として, 拒絶理由
通知をすることなく拒絶査定不服審判請求と同時にした限定的減縮を目的とする補正を
却下し,同請求を不成立とした審決には,特許法159条2項により準用される同法5
0条本文所定の手続を怠った違法があるとされた事例。
○ 発明の名称を「スロットマシン」とする発明について, 審決には, 相違点の看過が
あり,その相違点が容易想到であるとも認められない から,新規性及び進歩性の判断に
誤りがあるとされた事例。
(事件類型)審決(拒絶)取消 (結論)審決取消
(関連条文)特許法159条1項,2項,50条,53条1項,17条の2第1項3号,
4号,第5項2号,第6項,126条7項,29条1項3号・2項
(関連する権利番号等)特願2014-224539号,不服2016-18811号,
特開2008-284231号,特願2010-194145号
判 決 要 旨
1 本件は,発明の名称を「スロットマシン」とする本願発明についての拒絶査定不服審
判請求不成立審決に対する取消訴訟である。
原告は,拒絶査定不服審判請求と同時に本件補正をしたが,審決は,本件補正後の特許
請求の範囲の請求項1記載の発明(以下「本願補正発明」という。)は刊行物1記載の引
用発明1又は引用発明2と同一であり,仮に相違する点があるとしても,引用発明1又は
引用発明2から当業者が容易に想到し得たなどとして,本件補正を却下し,拒絶査定不服
審判請求を不成立とした。
原告は,取消事由として,①本件補正の却下に当たり刊行物1に基づく拒絶理由通知を
行わなかったことによる手続違背,②独立特許要件違反の判断(新規性・進歩性判断)の
誤りを主張した。
2 本判決は,以下のとおり判示して審決を取り消した。
(1) 取消事由1(拒絶理由通知欠缺による手続違背)について
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ア 特許法50条本文は,同法159条2項により拒絶査定不服審判において査定の
理由と異なる拒絶の理由(以下「新拒絶理由」という。)を発見した場合に準用されてお
り,出願人の防御の機会の保障という趣旨は,拒絶査定不服審判において新拒絶理由が発
見された場合にも及ぶものである。
また,従前の拒絶理由通知に示されていなかった新たな刊行物(以下「新規引用文献」
という。)に基づく独立特許要件違反を理由として,拒絶査定不服審判請求時に行われる
補正(以下「審判請求時補正」という。)が却下され,補正前の特許請求の範囲の記載(以
下「補正前クレーム」という。)に基づいて拒絶査定不服審判請求不成立審決がされてし
まうと,審決取消訴訟において補正後の特許請求の範囲の記載(以下「補正後クレーム」
という。)に基づく独立特許要件違反の判断の当否や補正前クレームに基づく拒絶理由の
判断の当否を争うことはできるものの,審査段階における特許法17条の2第1項3号所
定の補正の場合とは異なり,新規引用文献に基づく拒絶理由を回避するための補正をする
機会が残されていない点において,出願人にはより過酷である。
さらに,平成5年法律第26号による特許法の改正(以下「平成5年改正」という。)
は,特許法17条の2第5項2号所定の特許請求の範囲の減縮(以下「限定的減縮」とい
う。)を目的とする審判請求時補正においては,審査段階における先行技術調査の結果を
利用することを想定していたことが明らかであり,これを却下する際に,独立特許要件の
判断において,審査段階において提示されていなかった新規引用文献を主たる引用例とす
るなど,審査段階において全く想定されていなかった判断をすることは,平成5年改正の
本来の趣旨に沿わないものということができる。
加えて,平成5年改正が目的とする審理が繰り返し行われることを回避することにより,
審査・審判全体の効率性を図ることは,重要ではあるが,新規引用文献に基づく独立特許
要件違反を理由として審判請求時補正を却下せずに,この新規引用文献に基づく拒絶理由
を通知したとしても,限定的減縮である審判請求時補正による補正後クレームについて,
特許法17条の2第3項~6項による制限の範囲内で補正することができるにすぎないか
ら,審理の対象が大きく変更されることは考え難く,そのような審理の繰返しを避けるべ
き強い理由があるとはいえない。
以上の諸点を考慮すると,特許法159条2項により読み替えて準用される同法50条
ただし書に当たる場合であっても,特許出願に対する審査・審判手続の具体的経過に照ら
し,出願人の防御の機会が実質的に保障されていないと認められるようなときには,同法
159条2項により準用される同法50条本文に基づき拒絶理由通知をしなければなら
ず,しないことが違法になる場合もあり得るというべきである。
イ 本件拒絶査定の理由は,拡大先願(特許法29条の2)であるのに対し,審決が
拒絶査定不服審判請求と同時にした限定的減縮を目的とする本件補正を却下した理由は,
刊行物1を理由とする新規性欠如(同法29条1項3号)及び進歩性欠如(同条2項)で
あって,適用法条も,引用文献も異なる。刊行物1は,本件補正を受けた前置報告書にお
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いて初めて原告に示されたものであるが,刊行物1に基づく拒絶理由通知はされていない
ことから,原告には,刊行物1に基づく拒絶理由を回避するための補正をする機会はなか
った。
以上に照らすと,審決時において,原告の防御の機会が実質的に保障されていないと認
められるから,審判合議体は,同法159条2項により準用される同法50条本文に基づ
き,新拒絶理由に当たる刊行物1に基づく拒絶理由を通知すべきであった。それにもかか
わらず,上記拒絶理由通知をすることなく本件補正を却下した審決には,同法159条2
項により準用される同法50条本文所定の手続を怠った違法がある。
(2) 取消事由2(独立特許要件違反の判断〔新規性・進歩性判断〕の誤り)について
ア 引用発明1の「チャンスゾーン演出」は,本願補正発明の「特定演出」に相当し
ないから,本願補正発明は,引用発明1と同一ではない。
また,引用発明1において,本願補正発明の「特定演出」に係る構成を採用することを,
当業者が容易に想到し得たことを認めるに足りる根拠はない。
イ 引用発明2の「ボーナスに当選している旨」の「報知」は,本願補正発明の「特
別演出」に相当しないから,本願補正発明は,引用発明2と同一ではない。
また,引用発明2において,本願補正発明の「特別演出」に係る構成を採用することを,
当業者が容易に想到し得たことを認めるに足りる根拠はない。
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- 参照法条
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