裁判例検索

裁判例結果詳細

最高裁判所判例集

事件番号

 平成30(ネ)10092

事件名

 不正競争行為差止等請求控訴事件

裁判年月日

 令和元年8月21日

法廷名

 知的財産高等裁判所

裁判種別

結果

判例集等巻・号・頁

原審裁判所名

 東京地方裁判所

原審事件番号

 平成27(ワ)16423

原審裁判年月日

判示事項

裁判要旨

 不 判決年月日 令和元年8月21日 担
競 当 知財高裁第1部
法 事 件 番 号 平成30年(ネ)第10092号 部
○ 一審被告らが,本件ソースコードの変数定義部分を参照した可能性を否定できない
ものの,当該変数定義部分は営業秘密とはいえない以 上,これのみをもって,本件ソー
スコードを使用したとは評価できず, 不競法2条1項7号,同項8号 の不正競争行為が
あったとは認められないとされた事例。
(事件類型)不正競争行為差止等請求 (結論)原判決一部取消
(関連条文)不競法2条1項7号,同項8号
判 決 要 旨
1 本件は,一審原告が,一審被告Aが一審原告の営業秘密である 字幕制作ソフトウェア(原
告ソフトウェア)のソースコード(本件ソースコード)を不正に取得又は開示し,一審被告B
が,字幕制作ソフトウェア(被告ソフトウェア)の制作に当たって本件ソースコードを取得又
は使用したことが,不競法2条1項4号,5号,7号及び8号に規定する不正競争行為のいず
れ か に 該 当 す るこ と を理 由 と し て , 一審 被 告ら に 対 し , 被 告ソ フ トウ ェ ア の 生 産 等の 差 止め ,
被告ソフトウェアのプログラムを収納した記録媒体の廃棄,本件ソースコードの使用の差止め,
本件ソースコードを収納した記録媒体の廃棄,原告ソフトウェアに含まれるファイル「Tem
plate.mdb」を利用して原告ソフトウェアとの互換性を確保しようとする行為の禁止
を求めるとともに,損害賠償を請求した事案である。
原判決は,本件ソースコードの一部が営業秘密に該当し,一審被告Aがその情報を一審被告
Bに開示したことは同条1項7号の不正競争行為に,一審被告Bがその情報を取得し,被告ソ
フトウェアに用いて販売したことは同項7号の不正競争行為に,それぞれ該当するとして,一
審被告らに対し,被告ソフトウェアの生産等の差止め 及びその記録媒体の廃棄,本件ソースコ
ードの一部の使用の差止め及びその記録媒体の廃棄を認めるとともに,損害賠償請求を一部認
容し,一審原告のその余の請求を棄却した。
そこで,一審原告及び一審被告らは,いずれも,原判決を不服として,控訴を提起した。
2 本件判決は,概要,以下のとおり判示して,一審被告らの控訴に基づき,原判決中,一
審被告らの敗訴部分を取り消して,一審原告の請求をいずれも棄却し,一審原告の控訴を棄却
した。
(1) 本件鑑定の結果によれば,鑑定対象とされた300組のソースコードのペアは,類似箇
所1ないし4について,共通ないし類似すると判断されたことが認められる。
そこで,かかる鑑定結果を踏まえて,一審被告らが本件ソースコードを使用したと評価する
ことができるかについて,以下検討する。
ア 類似箇所1について
類似箇所1に係る本件ソースコードと被告ソフトウェアのソースコードとの共通点⑦によ
-1-
れば,一審被告らが,本件ソースコードの変数定義部分を参照した可能性は否定できない。
しかし,類似箇所1に係る本件ソースコードは,変数定義部分であり,字幕データの標準値
を格納する変数を宣言するもので,処理を行う部分ではないこと,変数は,いずれも字幕を表
示する際の基本的な設定に関する変数であること,変数名は,字幕制作ソフトで使用する一般
的な内容を表すものであること,変数のデータ 型は,マイクロソフト社が提供する標準のデー
タ型であること,注釈の内容も,変数名が表す字幕の意味をそのまま説明したものであること
が認められる。類似箇所1に係る本件ソースコードの情報の内容(変数定義)自体は,少なく
とも有用性又は非公知性を欠き,営業秘密とはいえない。
一審被告らが,類似箇所1に係る本件ソースコードの変数定義部分を参照して,被告ソフト
ウェアのソースコードを作成したとしても,このことから他の部分を参照したことまで推認さ
れるものではない上,それ自体が営業秘密とはいえない変数定義部分を参照したことのみをも
って,本件ソースコードを使用したとも評価できない。
イ 類似箇所2,3について
類 似 箇 所 2 ,3 は ,そ れ ぞ れ , 字 幕デ ー タの 標 準 値 を 格 納す る オブ ジ ェ ク ト の 代入 演 算子 ,
比較演算子のオーバーロードを定義するものであるから,類似箇所1と同じ変数が使用される。
これらの変数は,誤入力を避けるために類似箇所1をコピーして作成したと考えるのが自然で
あり,類似箇所2,3は,類似箇所1に基づいて発生したものと解される。
ウ 類似箇所4について
類似箇所4は,字幕データの標準値をmdb形式のデータベースに格納するためのプログラ
ムに関し,本件ソースコードと被告ソフトウェアのソース コードにおいて,52個のフィール
ド名が一致したというものであるところ,フィールド名自体は,誰でも見ることができるmd
bファイルから参照可能である。
また,Template.mdbのセマンティクスは,本件ソースコードを使用しなくても
把握可能であるものと認められるから,一審被告らが,旧SSTとの互換を得るため,mdb
ファイルを参照してMdb.cppファイルを実装していることは,本件ソースコードを使用
していることを意味するものではない。
エ さらに,本件鑑定の結果によれ ば,鑑定の対象となったソースコードのうち99%以上
が非類似とされる。
(2) 以上によれば,類似箇所1については,一審被告らが本件ソースコードの変数定義部分
を参照したことにより生じた可能性を否定できないものの,当該変数定義部分は営業秘密とは
いえない以上,これのみをもって,本件ソースコードを使用したとは評価できない。
そうすると,一審被告A の行為は,不競法2条1項7号の営業秘密の使用に該当せず,一審
被告Bについても,同項8号の不正競争行為は認められない 。
-2-

参照法条

全文