裁判例結果詳細
最高裁判所判例集
- 事件番号
平成30(ネ)10089
- 事件名
損害賠償請求控訴事件
- 裁判年月日
令和元年9月18日
- 法廷名
知的財産高等裁判所
- 裁判種別
- 結果
- 判例集等巻・号・頁
- 原審裁判所名
東京地方裁判所
- 原審事件番号
平成28(ワ)39372
- 原審裁判年月日
- 判示事項
- 裁判要旨
そ 判決年月日 令和元年9月18日 担
の 当 知財高裁第1部
他 部
事 件 番 号 平成30年(ネ)第10089号
○ 企画型住宅の設計,販売 に係る販社である被控訴人らが,販社契約上の義務に違反
して,控訴人の商品の展示場で勧誘した顧客に自らの商品である建物を 販売するなど し
たことに関し,賠償額の予定を定めた違約金規定の適用がないものについて も,控訴人
の財産的損害の発生を認めた上, 民訴法248条に基づき相当な損害額として建物1棟
につき100万円の損害を認定した事例。
(事件類型)損害賠償 (結論)原判決変更,当審追加請求につき一部認容
(関連条文) 民法166条1項,415条,709条,719条1項,724条,商法5
22条,民訴法248条
判 決 要 旨
1 本件は,ログハウスを中心とする企画型住宅の設計をし,販売会社(販社)を通じ
て顧客に販売している控訴人が,控訴人の販社であった被控訴人らにおいて,控訴人の商
品の展示場で勧誘した顧客に自らの商品である建物を 販売するなど したことは,販社契約
上の義務の違反に当たると主張して,① 平成12年から平成17年まで控訴人の販社で
あった被控訴人秀和住研に対し,債務不履行による損害賠償請求権に基づき,419万2
894円及びこれに対する遅延損害金の支払を求め,② 平成17年以降控訴人の販社と
なった被控訴人秀和については債務不履行による損 害賠償請求権に基づき,その債務を連
帯保証した被控訴人秀和住研については保証債務履行請求権に基づき,被控訴人らに対し,
1億1788万3739円及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。
原審は,控訴人の被控訴人らに対する各請求をいずれも理由がないものとして棄却した
ことから,控訴人が本件控訴を提起した。
控訴人は,当審において,債務不履行による損害賠償請求を主位的請求とし,予備的に,
不法行為による損害賠償請求として上記主位的 請求と同額の金員(ただし,遅延損害金の
割合は年5分)の支払を求める請求を追加する旨の申立てをした。
2 本判決は,概要,以下のとおり判示するなどして, 原判決を変更し, 当審における
請求を一部認容した。
⑴ 債務不履行による損害賠償請求について
控訴人の主張する債務不履行による各損害賠償請求権のうち,本件建物1,3ないし2
7の建築に係るものは,時効により消滅した。
本件建物29については,専従義務,顧客情報漏洩禁止義務及び他社競合商品取扱禁止
義務に違反したものとして,本件違約金規定に基づき, 400万円の賠償を求めることが
できる。
本件建物28については専従義務 及び顧客情報漏洩禁止義務の違反,本件建物30につ
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いては顧客情報漏洩禁止義務及び 契約終了後の競業避止義務の違反が認められるが,本件
違約金規定の適用はなく,損害は,以下のとおり各100万円と認められる。
ビッグフット事業では,展示場に来場し又は資料請求をした顧客をデータベースに登録
し,直ちに販売ができなくても,
「ストック顧客」と呼んで活用を図っ ていたというのであ
るが,‥ストックされた顧客情報は,将来ビッグフット商品を 販売することのできる可能
性を含んでいるという意味において財産的価値を有し,この点からすれば,被控訴人らが
各顧客に自らの提供する建物を販売したことは,上記の可能性を低下させ又は失わせるも
のとして,控訴人に対して財産的損害を生じさせたというべきである。
なお,被控訴人らは, 財産的損害の発生を争い,本件各建物の建築等をした相手は,ビ
ッグフット商品を購入するには資力の面で支障があった顧客に限られるから,控訴人に損
害は生じない旨主張するが,顧客が安価な商品を選択する理由には,客観的に資力が足り
ないということのほかにも様々 なものがあり得るところであり,本件において控訴人に損
害が生じないと断定することはできない。
‥将来ビッグフット商品を販売することのできる可能性の低下ないし喪失という 損害の
性質上その額を立証することは極めて困難であると認められる。
販社契約に基づくビッグフット商品の販売件数と顧客登録との相関関係を示す的確な証
拠はない。
そこで,上記財産的損害については, 将来ビッグフット商品を 販売することのできる可
能性の金銭的評価であることを踏まえつつ, 秋田及び青森における販売実績として,販売
されたビッグフット商品の契約額の平 均が2000万円程度であること‥ ,ビッグフット
商品の建築請負契約を締結することができた場合には,販社から控訴人に対し,請負代金
の3~4%のロイヤリティが支払われ,控訴人が提供するキットが用いられることにより,
控訴人に利益が生じること, 控訴人と被控訴人らとの間では, 他社競合商品を取り扱った
ことに対する違約金として,請負金額の20%とする旨の本件違約金規定が有効に設けら
れ,違約金の額が400万円と算定される例(本件建物29)があったこと,その他本件
に現れた一切の事情を総合的に考慮し, 口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,
民訴法248条により,相当な損害額は各建物につき100万円‥と認める。
⑵ 不法行為による損害賠償請求について
各販社は,平成18年6月15日以降,過去にビッグフット商品の販売の勧誘をし,登
録された顧客に対して,ビッグフット商品とは別の商品を販売してはならないという注意
義務を負うに至ったものであり,被控訴人秀和が, 代表者を共通にする被控訴人秀和住研
に,ビッグフット展示場に来場した顧客との間で本件建物10ないし30の建築請負契約
を締結させたこと,及び,被控訴人秀和住 研が建築請負契約を締結したことは,いずれも
商取引の公正を著しく害する違法性を有するものというべきである。
損害は,⑴と同様,各100万円と認められる。
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- 参照法条
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