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最高裁判所判例集

事件番号

 令和1(行ケ)10095

事件名

 特許取消決定取消請求事件

裁判年月日

 令和2年3月12日

法廷名

 知的財産高等裁判所

裁判種別

結果

判例集等巻・号・頁

原審裁判所名

原審事件番号

原審裁判年月日

判示事項

裁判要旨

 特 判決年月日 令和2年3月12日 担
許 当 知財高裁第1部
権 事 件 番 号 令和元年(行ケ)第10095号 部
○ 発明の名称を「多結晶質シリコン断片及び多結晶質シリコンロッドの粉砕方法 」と
する発明について,請求項1の記載からは,粉砕工具の「工具表面」に「含有」される炭
化タングステン粒子の「質量により秤量」したメジアン粒径の意義が明らかであるとは
いえず,明細書を参酌してもその意義を理解することはできないから,明確性要件を充
足しないと判断された事例。
(事件類型)特許取消決定取消 (結論)棄却
(関連条文)特許法36条6項2号
(関連する権利番号等)特許第6154074号
(特許取消決定)異議2017-701223号
判 決 要 旨
1 本件は,発明の名称を「多結晶質シリコン断片及び多結晶質シリコンロッドの粉砕方法」
とする特許に係る特許異議の申立てについて,本件特許の請求項1ないし4,8,11に係る
部分を取り消した決定に対する取消決定取消訴訟である。
原告は,取消事由として,明確性要件及びサポート要件 の判断の 誤りを主張した。
2 本判決は,明確性要件の誤りについて,概要,以下のとおり判示し,原告の請求を棄却
した。
(1) 明確性要件の判断基準
特許法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関し,特許を受けようとする発明が明確
でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は,仮に,特許請求の範囲に
記 載 さ れ た 発 明が 明 確で な い 場 合 に は, 特 許が 付 与 さ れ た 発明 の 技術 的 範 囲 が 不 明確 と なり ,
第三者の利益が不当に害されることがあり得るので,そのような不都合な結果を防止すること
にある。そして,特許を受けようとする 発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だ
けではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時におけ
る技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者の利益が不当に害されるほどに不
明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2) 本件発明の明確性
ア 特許請求の範囲の記載及び技術常識
請求項1には,「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」との記載があ
るところ,請求項1の記載自体から,この炭化タングステン粒子は,「少なくとも二個の粉砕
工具」の「工具表面」に「含有」されるものであることを理解することができ,また,上記炭
化 タ ン グ ス テ ン粒 子 は, 第 1 の 粉 砕 工具 の 表面 に は 9 5 重 量% 以 下含 有 さ れ , そ の 粒 径 が1 .
3 μ m 以 上 で ある こ と, 第 2 の 粉 砕 工具 の 表面 に は 8 0 重 量% 以 上含 有 さ れ , そ の粒 径 が0 .
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5μm以下であること,粒径はメジアン粒径であること,炭化タングステン粒子のメジアン粒
径が1.3μm以上あるいは0.5μm以下であることは,炭化タングステン粒子を「質量に
より秤量」して測定するものであることが理解できる。
しかしながら,請求項1の記載からは,粉砕工具の「工具表面」に「含有」される炭化タン
グステン粒子の「質量により秤量」したメジアン粒径の意義が明らかであるとはいえない。
また,本件特許の出願当時において ,炭化タングステンを含んでなる表面を有する粉砕工具
の工具表面に含有される炭化タングステン粒子につき,質量により秤量したメジアン粒径を得
ることができたとする当業者の技術常識を認めるに足りる証拠はない。
イ 本件明細書の記載
本件明細書には,「炭化タングステンを含んでなる表面を有する」「粉砕工具」の「工具表
面」の炭化タングステン粒子が,コバルトである結合剤と焼結により一体化していることが開
示されている。そして,本件明細書には,コバルト結合剤と焼結により一体化した「粉砕工具」
の「工具表面」に「含有」される炭化タン グステン粒子の「質量により秤量」したメジアン粒
径について,定義や測定方法の記載はない。
ウ 以上によれば,本件明細書の記載を考慮し,出願当時の技術常識を基礎としても,本件
発明の「炭化タングステンを含んでなる表面を有する」「粉砕工具」の「工具表面」に「含有」
される炭化タングステン粒子の「質量により秤量」したメジアン粒径の意義を理解することは
できず,本件発明の技術的範囲は不明確といわざるを得ないから,本件 発明に係る特許請求の
範囲の記載は,明確性要件を充足しないというべきである。
-2-

参照法条

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