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最高裁判所判例集

事件番号

 令和1(行ケ)10120

事件名

 審決取消請求事件

裁判年月日

 令和3年5月19日

法廷名

 知的財産高等裁判所

裁判種別

結果

判例集等巻・号・頁

原審裁判所名

原審事件番号

原審裁判年月日

判示事項

裁判要旨

 特 判決年月日 令和3年5月19日 担
許 当 知財高裁第3部
権 部
事 件 番 号 令和元年(行ケ)第10120号
○ 油冷式スクリュ圧縮機の発明に 関し,逆スラスト力の発生という技術的課題を有し
ている公知の発明に,バランスピストンに圧力を作用させるための空間に油を加圧する
ことなく導く配管を設けるという周知技術を適用することによって ,そのような空間で
あるスラストピストン室へ液体を導く経路を非加圧の経路とする本 特許 件発明の構成を
容易に想到することができたとし ,これを容易想到でないとした審決の判断に誤りがあ
るとして審決を取り消した事例。
(事件類型)審決(無効)取消 (結論)審決取消
(関連条文)特許法29条2項 123条1項2号
(関連する権利番号等)特許第3766725号 無効2018-800099号
判 決 要 旨
1 被告は,発明の名称を「油冷式スクリュ圧縮機」とする 発明に係る特許(特許第37
66725号,請求項の数2,以下「本件特許」という。)の特許権者であるところ,原
告は,請求項1に記載された発明 (以下「本件特許発明」という。) に係る特許を無効
とすることを求めて無効審判を請求したが( 無効2018-800099号),請求不
成立の審決を受けたため,その取消しを求めて本件訴訟を提起した。
2⑴ 本件特許発明と公知である甲1発明との間には,スクリュ圧縮機の バランスピスト
ンのスラスト軸受側の空間に油を導く経路に関して ,本件特許発明においては ,加圧
することなく油を導く経路を設けているのに対し, 公知である 甲1発明においては,
ポンプにより加圧された油を導く経路を設けているという相違点があった。 本件特許
の無効論に おける最大の争点は,上記相違点に係る本件特許発明の構成の容易想到性
の有無であった。
⑵ 甲1発明は,中間ハウジング内部のマニフオールド ,ポンプ等により構成される液
体分布機構を備えるものであ った。審決は,甲1発明において ,「コンプレツサ内の
必要な全ての個所」に供給する液体の一部 について ,あえて,マニフオールド を迂回
してスラストピストン室に供給するための経路を新たに設けることは ,コンプレツサ
外部に位置 する液体パイプ接合の数を最少にするという,中間ハウジング及び マニフ
オールドの採用意義に反する ものである とし,また,甲1発明において,上記相違点
に係る本件特許発明の 構成をとるために ,液体をポンプで加圧せずに マニフオールド
に供給するという手段も考えられるが ,ポンプで液体を加圧しているのは ,スラスト
ピストンに適当な力を与えるためのみならず ,コンプレツサ内の必要な全ての個所に
液体流を供給するためでもあるから ,「液体をポンプによって加圧した上で マニフオ
ールドに供給するようにした」こと自体が ,中間ハウジング及びマニフオールドの設
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置前提となるものであり,液体をポンプで加圧せずにマニフオールドに供給すること
は,中間ハウジング及びマニフオールド の採用意義に反するものであるとした。そし
て,甲1発明において ,液体を加圧することなくスラストピストン室に導く構成を採
用することに阻害要因があるから ,仮に,液冷式スクリュ圧縮機において ,バランス
ピストン室に油溜まり部の油を加圧することなく導入することが周知の技術であった
としても,甲1発明に このような周知技術を適用することはできず ,当業者といえど
も上記相違点に係 る本件特許発明の構成を容易に想到することができないと判断し ,
無効請求は不成立であると判断した。
⑶ これに対し, 本判決は,スクリュ圧縮機において,バランスピストンに圧力を作用
させるための空間に,圧縮機から回収された油を加圧することなく導く配管を設ける
ことは本件特許の出願日前に周知の技術事項であった と認定した。そして,逆スラス
ト力が発生するという課題は ,スクリュ圧縮機一般に生じる課題であって ,甲1発明
についてもそのような課題を認識 することができ,そのような課題を解決するために
非加圧経路を設ける動機付けが生じる として,そのような課題を解決するために,上
記の周知の技術事項を適用し,スラストピストン室へ液体を導く経路を非加圧の経路
とすることは,当業者が容易に想到することができたものであるとして ,本件特許は
特許無効審判により無効にされるべきものであると判断し ,審決の前記⑵の判断は誤
りであるとしてこれを取り消した。
本判決は ,マニフオールドへの液体の集約に関し ,ポンプにより加圧された液体を
供給する経路をマニフオールドを経由しないように設けることは 甲1の技術思想に反
するとしても,ポンプにより加圧されない液体の経路をポンプ及びマニフオールドを
経由しないように設けることは 甲1発明によって排斥されていないとした。 また,甲
1発明は,コンプレツサ外部へのガス及び液体の漏れを防ぐという課題の解決のため
に中間ハウジング内部のマニフオールド ,ポンプ等により構成される液体分布機構を
備えるものであるとし,スラストピストン室へ非加圧の経路を設けるためにケース内
部にパイプの分岐を設けたとし ても,コンプレツサ外部へのガス及び液体の漏れが必
然的に増大することはないから ,それは甲1発明の技術思想に反することはないとし
た。さらに,本判決は ,ポンプやマニフオールドを経由しない非加圧経路を採用する
ことについて,コンプレツサの機能不全を生じるという阻害事由はないとした。
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参照法条

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