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最高裁判所判例集

事件番号

 令和4(ネ)10059

事件名

 損害賠償請求控訴事件

裁判年月日

 令和4年12月26日

法廷名

 知的財産高等裁判所

裁判種別

結果

判例集等巻・号・頁

原審裁判所名

 東京地方裁判所

原審事件番号

 令和1(ワ)35186

原審裁判年月日

判示事項

裁判要旨

 パ
ブ 判決年月日 令和4年12月26日 担
リ 当
シ 事 件 番 号 令和4年(ネ)第10059号 部 知財高裁第2部



○ 音楽事務所と実演家との間で締結された専属的マネージメント契約におけ
る、契約終了後の競業避止義務を規定する条項が、職業選択の自由ないし営業の
自由を制約するもので公序良俗に反して無効であると判断された事例
○ グループ(バンド)の各構成員が、グループ名に係るパブリシティ権及び実
演家人格権(氏名表示権)を有すると認められた事例
(事件類型)損害賠償請求事件 (結論)原判決変更
(関連条文)著作権法90条の2、民法90条、709条、710条、憲法22条1項
(原判決)東京地方裁判所令和元年(ワ)第35186号・令和4年4月28日判決
判 決 要 旨
1 本件は、音楽事務所であるY社との間で専属的マネージメント契約(本件専属契約)
を締結し、本件グループ名を用いてバンド活動に従事していたX1~4 (Xら) が、同契
約終了後、本件グループ名を用いてバンド活動を継続しようとしたところ、Y社 及び同社
代表者のY2が、 関係者らに対し、 同バンドは同契約によって契約終了後6か月間、Y社
の承諾なしに実演を目的とする契約を締結することが禁止されており、Y社は 承諾してい
ない、本件グループ名に係る商標権はY社に帰属しておりXらが本件グループ名 を使用す
ることを許諾していないなどと 通知(本件各通知) をしたこと 等が、Xらの営業権、パブ
リシティ権、営業の自由、名誉権、実演家人格権(氏名表示権)を侵害する不法行為に当
たるとして、Xらが、Yらに対し、連帯して、損害賠償金 各99万円及びこれに対する遅
延損害金の支払を求めた事案である。
2 原判決は、本件各通知の一部におけるY社が商標権を取得しているかのような記載
及びY社が本件グループ名について利用の許諾をできる地位にあるかのような記載はいず
れも虚偽であり、Yらが上記各通知を送付したことによりXらの営業権を侵害したとして、
Xらの請求を22万円及び遅延損害金の支払を求める限度で一部認容し、双方が控訴した。
3 本判決は、次のとおり、①本件専属契約 における競業避止義務条項(本件条項)は
無効であり、②本件グループに係るパブリシティ権及び 実演家人格権(氏名表示権)はX
らに帰属し、また、本件専属契約終了後にXらに よる行使を制限する根拠となる約定等も
存在しないことから、 Y社にはXらによる本件グループ名の使用を制限する権原はないと
して、Yらによる本件各通知等は、Xらによる本件グループ名を用いたバンド活動等を不
当に妨害するものであって不法行為に当たると判断し、Xらの請求を全部認容するのが相
当であるとして原判決を変更した。
(1) 競業避止義務条項について
-1-
本件条項は、本件専属契約の終了後 6か月間にわたり、Xらの実演家としての活動を広
範に制約し、Xらが自ら習得した技能や経験を活用して活動することを禁止するものであ
って、Xらの職業選択の自由ないし営業の自由を制約するものである。そうすると、 本件
条項による制約に合理性がない場合には本件条項は公序良俗に反し無効と解すべきであり、
合理性の有無については、本件条項を設けた目的、本件条項による保護されるY社の利益、
Xらの受ける不利益その他の状況を総合考慮して判断するのが相当である。
Yらは、本件条項について、先行投資回収のために設けたものであると主張していると
ころ、Xらの需要者(Xらのファン)に訴求するのはXらの実演等であって、Y社に所属
する他の実演家の実演等ではないのであるから、本件 条項によりXらの実演活動を制約し
たとしても、それによってY社に利益が生じて先行投資回収という目的が達成されるなど
ということはなく、本件条項によるXらの活動の制約とY社の先行投資回収には何ら関係
がないというほかない。・・・そうすると、その余の点につき検討するまでもなく、本件
条項による制約には何ら合理性がないというほかないから、本件条項は公序良俗に違反し
無効であると解するのが相当である。
(2) 本件グループ名の使用について
ア パブリシティ権
人の氏名、肖像等(併せて「肖像等」)は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、
人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有すると解され、肖像
等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を
排他的に利用する権利(パブリシティ権)は、肖像等それ自体の商業的価値に基づくもの
であるから、上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる 。
実演家団体に付されたグループ名についても、その構成員の集合体の識別情報として特定
の各構成員を容易に想起し得るよう な場合には、芸名やペンネーム等と同様に、各構成員
個人の人格権に基づき、グループ名に係るパブリシティ権を行使できると解される。
本件グループは、 従前の活動状況等に照らすと、一定の顧客吸引力を有すると認められ
るというべきであり、・・・ 本件グループ名は、その構成員で あるXらの集合体の識別情
報として、その構成員であるX らを容易に想起し得るものであったと推認される。 そうす
ると、Xらは、本件グループ名についてパブリシティ権を行使することができる。
他方、パブリシティ権は人格権に基づく権利であってY社に譲渡できるとは考え難い上、
本件契約書 の記載を総合しても、 Y社に、本件専属契約終了後、本件グループ名について
のパブリシティ権を行使する権原があるとは認められない。
イ 実演家人格権(氏名表示権)
実演家人格権である氏名表示権(著作権法90条の2) についても 、本件専属契約終了
後において、 Y社に、一身専属権である実演家人格権としての氏名表示権、すなわち、本
件グループの実演時に本件グループ名を表示するか否か等を決定する 権利が帰属すること
はないから、Y社は、本件グループ名について氏名表示権を行使することもできない。
-2-

参照法条

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