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高等裁判所 判例集

事件番号

 昭和59(う)1630

事件名

 証券取引法違反、商法違反被告事件

裁判年月日

 昭和63年7月26日

裁判所名・部

 東京高等裁判所  第二刑事部

結果

高裁判例集登載巻・号・頁

 第41巻2号269頁

原審裁判所名

原審事件番号

判示事項

 一 証券取引法一二五条二項一号後段、同条三項と憲法一四条
二 証券取引法一二五条二項一号後段にいう「有価証券市場における有価証券の売買取引を誘引する目的」の意義
三 証券取引法一二五条二項一号後段にいう「相場を変動させるべき取引」の意義
四 証券取引法一二五条二項一号後段にいう「一連の売買取引」の意義
五 証券取引法一二五条二項一号後段にいう「相場を変動させるべき一連の売買取引」の趣旨
六 証券取引法一二五条三項にいう「相場を安定する目的」の意義
七 証券取引法一二五条三項にいう「一連の売買取引」の意義
八 証券取引法一二五条三項にいう「相場を安定する目的を以てする一連の売買取引」の趣旨
九 証券取引法施行令二〇条一項に定める「有価証券の募集又は売出しを容易にするために行なう場合」に当たる安定操作が犯罪とされていない理由
一〇 証券取引法一二五条三項には同条二項一号後段に規定されている「有価証券市場における有価証券の売買取引を誘引する目的」の規定がない理由
一一 証券取引法一二五条二項一号後段違反の罪が成立するとされた事例
一二 証券取引法一二五条三項違反の罪が成立するとされた事例
一三 有価証券市場における一連の売買取引をする証券取引法一二五条二項一号後段違反の罪、同条三項違反の一連の売買取引をする罪と、身分によつて構成すべき犯罪

裁判要旨

 一 証券取引法一二五条二項一号後段、同条三項は、法の下の平等に反するものではない。
二 証券取引法一二五条二項一号後段にいう「有価証券市場における有価証券の売買取引を誘引する目的」とは、有価証券市場における当該有価証券の売買取引をするように第三者を誘い込む意図であつて、故意である当該有価柾券の相場を変動させるべき一連の売買取引又はその委託若しくは受託の事実の認識と相おおうものではない。
三 証券取引法一二五条二項一号後段にいう「相場を変動させるべき取引」とは、有価証券市場における相場を支配する意図をもつてする、相場が変動する可能性のある取引をいう。
四 証券取引法一二五条二項一号後段にいう「一連の売買取引」とは、社会通念上連続性の認められる継統した複数の売買取引をいい、有価証券市場における売買取引であることを要しない。
五 証券取引法一二五条二項一号後段に「相場を変動させるべき一連の売買取引」というのは、一連の売買取引が全体として相場を変動させるべきものであれば足りる趣旨であつて、一連の売買取引に含まれる個々の売買取引がそれぞれ相場を変動させるべきものであることを必要とするものではない。
六 証券取引法一二五条三項にいう「相場を安定する目的」とは、現にある有価証券市場における相場を一定の範囲から逸脱しないようにする意図であり、次にくる「一連の売買取引」にかかつて、その行為を目的の内容に即応するように規定し方向づける働きをする主観的構成要件要素である。
七 証券取引法一二五条三項にいう「一連の売買取引」とは、社会通念上連続性の認められる継統した複数の売買取引をいい、現にある相場を一定の範囲から逸脱しないようにするのにふさわしいもののことである。
八 証券取引法一二五条三項に「相場を安定する目的を以てする一連の売買取引」というのは、一連の売買取引が全体として現にある相場を一定の範囲から逸脱しないようにするのにふさわしいものであれば足りる趣旨であつて、一連の売買取引に含まれる個々の売買取引がそれぞれ現にある相場を一定の範囲から逸脱しないようにするのにふさわしいものであることを必要とするものではない。
九 証券取引法施行令二〇条一項に定める「有価証券の募集又は売出しを容易にするために行なう場合」に当たる安定操作が犯罪とされていないのは、企業が有価証券の募集又は売出しをする場合には、大量の有価証券が有価証券市場に放出され、一時的に供給過剰の現象を生ずることがあるため、自然の取引、成り行きに任せておくと、その有価証券の価格が下落して、有価証券の募集又は売出しが困難になるおそれがあることから、右の場合に限り人為的に相場の安定を図る取引を許容しようとすることによるのである。
一〇 証券取引法一二五条二項一号後段と同条三項は、ともに一連の売買取引等を禁止して、有価証券市場における自由で公正な取引や投資家の利益を保護しようとするものであるが、前者では、一連の売買取引が有価証券市場外におけるものでもよいことから、その売買取引によつて変動させられる相場を有価証券市場における有価証券の売買取引に反映させようとすることを違法としてとらえているため、「有価証券市場における有価証券の売買取引を誘引する目的」の存在を必要とし、これを要件としているのに対し、後者では、一連の売買取引が有価証券市場におけるもので、その取引自体によつて有価証券市場における売買取引に影響をもたらすので、更に、そのうえに、右の目的の存在を要件とする必要がないのである。
一一 被告会社の役員らが証券取引所の会員である証券会社の支店長らと共謀の上共同して、被告会社が三〇億円の資金を調達するため時価発行公募を含む一二億円の増資をするに際し、有価証券市場における被告会社の株式の売買取引を誘引する目的をもつて、権利落の前日までの約二箇月間に、有価証券市場において、被告会社の株式について、買い上がり買い付けないし買い支え及び仮装売買をし、当初は一株一八〇円程度であつたものを二五六円にまで高騰させたとき(判文、原判文参照)は、証券取引法一二五条二項一号後段違反の罪が成立する。
一二 被告会社の役員らが証券取引所の会員である証券会社の支店長らと共謀の上共同して、被告会社が三〇億円の資金を調達するため時価発行公募を含む一二億円の増資をするに際し、被告会社の株式の相場を安定する目的をもつて、証券取引法施行令二〇条一項に定めるところに違反して、権利落後の約三八日間に、有価証券市場において、被告会社の株式について、買い指値以下の売り注文を買いさらうなどの方法により、株価を二二〇円から二三三円くらいの範囲に安定させたとき(判文、原判文参照)は、証券取引法一二五条三項違反の罪が成立する。
一三 有価証券市場における一連の売買取引をする証券取引法一二五条二項一号後段違反の罪、同条三項違反の一連の売買取引をする罪は、刑法六五条一項にいう身分によつて構成すべき犯罪である。

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