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高等裁判所 判例集

事件番号

 昭和49(の)2

事件名

 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反被告事件

裁判年月日

 昭和55年9月26日

裁判所名・部

 東京高等裁判所  第三特別部

結果

高裁判例集登載巻・号・頁

 第33巻5号511頁

原審裁判所名

原審事件番号

判示事項

 一 石油元売り業者らが石油製品につき私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下独禁法という。)二条六項の「事業者が、他の事業者と共同して対価を引き上げ」るいわゆる共同行為をしたと認められた事例
二 独禁法二条六項の「相互にその事業活動を拘束し」にあたるとされた事例
三 独禁法二条六項の「公共の利益に反して」の意義
四 独禁法八九条一項一号後段(昭和五二年法律第六三号による改正前のもの)所定の不当な取引制限の罪はいわゆる共同行為の内容の実施を成立要件とするか(消極)
五 独禁法八五条三号の合憲性
六 独禁法九六条に基づく公正取引委員会の有効な告発があつたとされた事例
七 株式会社の吸収合併が不成立であり被吸収会社が存続するとされた事例
八 事業者である法人の従業者が同法人の業務に関して同法人が独禁法三条に違反して不当な取引制限をしたことになる行為をしたときの同法人及び同従業者に対する罰条
九 独禁法八九条一項一号後段(昭和五二年法律第六三号による改正前のもの)所定の不当な取引制限の罪の構成要件である「公共の利益に反して」及び「競争を実質的に制限する」の犯罪構成要件としての明確性と憲法三一条

裁判要旨

 一 本件各値上げにつき、関係被告人らは、自発的に値上げを図つて値上げの内容を合意し、その後通商産業省担当官により右合意の内容が了承されたものであつて、通商産業省担当官が油種別価格一般について主体的、積極的な介入をしたことはなく、その了承を得なければ値上げができないわけではなかつたから、その過程において通商産業省担当官の行政介入が行なわれ、被告人らの行為に一部行政協力的なものがあつた(判文参照)けれども、そのため本件各共同行為の認定を左右するに足りない。
二 被告人らは、本件関係各共同行為をしてこれに従つて事業活動をすることがそのそれぞれ所属する被告会社に有利であると考え、その内容の実施に向けて努力する意思をもち、かつ、他の被告会社らにおいてもこれに従うものと考えて右各共同行為をしたものであるから、本件各共同行為の遵守確保のために被告会社ら間においてこれを遵守する旨の誓約書の交換やこれに反した行為に対する違約金等の反則罰の定めはなく、右共同行為からの脱退が自由であり、右共同行為の内容がすべての場合直ちに実現されなかつたとしても、本件各共同行為は独禁法二条六項の「相互にその事業活動を拘束」するものであると認められる。
三 独禁法二条六項の「公共の利益に反して」とは、同法一条所定の同法の趣旨、目的に反することをいい、原則としては同法の直接の法益である自由競争秩序に反することであるが、形式的に右に該当する場合であつても右法益と当該行為によつて守られる利益とを比較衡量して全体的にみた同法の右の趣旨、目的に反しないと認められるような例外的なものを公共の利益に反しないものとして同法の適用から除く趣旨で不当な取引制限の構成要件とされたものである。
四 独禁法八九条一項一号(昭和五二年法律第六三号による改正前のもの)所定の不当な取引制限の罪は、公共の利益に反して一定の取引分野における競争を実質的に制限する内容の拘束力ある共同行為が行なわれれば直ちに成立し、共同行為によつてもたらされる競争の実質的制限の外部的表現である共同行為の内容の実施をその成立要件とするものではない。
五 独禁法八五条三号は、憲法一四条、三一条、三二条、三七条及び七七条一項に違反しない。
六 本件告発状は、公正取引委員会委員長の署名押印を欠き、方式に違反するが、同委員会の作成に係ることが明らかであつて、同委員会の告発の意思が認められる事情がある(判文参照)から、本件においては、右告発状により独禁法九六条に基づく有効な告発があつたと認められる。
七 江東区の九州石油株式会社が千代田区の九州石油株式会社を吸収合併することを内容とする合併契約書が作成され、所要の手続を経て合併登記及び千代田区の九州石油株式会社の解散登記がなされたが、江東区の九州石油株式会社の前身である不二運輸株式会社は、株主総会において解散を決議して解散登記を了し、清算結了の登記は未了であつたものの、実質的な清算手続を終了したものであつて、その時点で消滅して以後不存在となつたものであり、江東区の九州石油株式会社も不存在の会社であると認められるから、右合併は成立せず、従つて千代田区の九州石由株式会社の右解散登記は実体関係を欠く無効なものであつて、同会社は引続き存在するものと解するのが相当である。
八 事業者である法人の従業者が、同法人の業務に関して、同法人が独禁法三条に違反して不当な取引制限をしたことになる行為をしたときは、同法人は同法九五条一項(昭和五二年法律第六三号による改正前のもの)(右改正前の八九条一項一号後段)により、同従業者は同法八九条一項一号後段(右改正前のもの)、九五条一項(右改正前のもの)によりそれぞれ処罰される。
九 独禁法八九条一項一号後段(昭和五二年法律第六三号による改正前のもの)所定の不当な取引制限の罪の構成要件である「公共の利益に反して」とは、同法一条所定の同法の趣旨、目的に反することであり、同「競争を実質的に制限する」とは、一定の取引分野における有効な競争を期待することがほとんど不可能な状態をもたらすことであると解され、通常の判断力を有する一般人にとつて、具体的場合に当該行為が右各構成要件に該当するかどうかを判断することはさほど困難ではないと考えられるから、右規定は、右各構成要件が不明確であるため罪刑法定主義に反して憲法三一条に違反するものではない。

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