裁判例結果詳細
高等裁判所 判例集
- 事件番号
昭和29(う)2374
- 事件名
暴力行為等処罰に関する法律違反被告事件
- 裁判年月日
昭和31年5月8日
- 裁判所名・部
東京高等裁判所 第一一刑事部
- 結果
棄却
- 高裁判例集登載巻・号・頁
第9巻5号425頁
- 原審裁判所名
- 原審事件番号
- 判示事項
一、 警察署の警備係巡査が司法警察および予防警察の措置をなす目的をもつて大学の学内団体が大学当局の許可の下に大学教室内で開催している演劇場に立ち入ることが違法と見られる場合
二、 右のように違法に大学の教室内に立ち入つた警察官に対し同大学の学生が大学の自治を保全する意図の下にその氏名担当職務潜入目的等を知る目的で単独行為としてその片腕をおさえて退出を止め警察手帳の呈示を促すためにその着用のオーバーコートの襟を手で引つ張ることは犯罪を構成するか
- 裁判要旨
一、 自治を認められた大学の教室内で、学生団体が大学当局の許可の下に演劇開催中、警察署の警備係巡査が司法警察および予防警察の措置をなす目的で、その会場内に立ち入るには、その旨を大学当局に少くとも告知すべきであるから、右警察官が大学当局や右団体の代表者等には何等の連絡もとらないまま右演劇場内に立ち入る場合は、大学の自治を紊し、わが国現行憲法を頂点とする全法律秩序に違反して違法である。
二、 法益に対する不法侵害行為に対しては、之を阻止排除する権利を一般的に認むべきであるが、その阻止排除の方法および程度は、公共の秩序即ち憲法以下法律全体によつて企図せられている均衡と調和との維持を紊さない範囲内に止まるべきである。しかして、防衛せられる法益が、侵害排除行為によつて害せられる法益に比して、相当優越する場合には、その防衛行為を法律上容認することが公共の秩序を保持する所以であるから、該防衛行為は刑法上正当行為として違法を阻却せられねばならない。
されば、違法に大学の教室内に立ち入つた警察官に対し同大学の学生が大学的自治を保全うる意図の下に、その氏名、担当職務潜入目的等を知る目的で単独行為として、もの片腕をおさえて退去を止め、警察手帳の呈示を促すために、その着用せるオーバーコートの襟をで引つ張つた場合には、それによつて齎らされる大学自治保全の法的価値は、それによつて害せられる警察官の個人的法益の法的価値に比して著しく優越しているから、該行為を法律上容認しても公共の秩序は紊されないので、それが外観上犯罪類型に該当しても、該行為は刑法上違法性を阻却せられ、犯罪を構成しない。
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