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高等裁判所 判例集

事件番号

 昭和26(行ナ)17

事件名

 審決取消請求事件(※高等裁判所判例集の裁判月日が12月9日とあるのは12月7日の誤りである。)

裁判年月日

 昭和28年12月7日

裁判所名・部

 東京高等裁判所  第三特別部

結果

 その他

高裁判例集登載巻・号・頁

 第6巻13号868頁

原審裁判所名

原審事件番号

判示事項

 一、 潜在的競争関係の有無
二、 経済学上の子会社と競争関係
三、 一定の取引分野における競争の実質制限の意義
四、 全国商品量の三分の一の支配と競争の実質制限の成否
五、 改正独占禁止法附則第四項の対象
六、 不当な取引制限の意義
七、 違反行為の排除措置としての将来の行為の禁止
八、 拘束条件附取引に対する排除措置
九、 同上
一〇、 違反行為の排除措置として一定事項の報告を命ずることの当否

裁判要旨

 一、 甲会社は映画の製作配給興行等の事業を営み、乙会社は映画の製作販売等の事業を営むものであつて、乙会社は自らは映画の配給業務を行わず、そのままの機構では映画の配給を行うことができないとしても配給業務に通暁した者を多少加えれば事業活動の施設又は態様に重要な変更を加えないでも映画配給業務を行うことができる状態にある場合は、この甲会社と乙会社とは、映画配給の取引分野において潜在的競争関係にあるものと解すべきである。
二、 経済学上乙会社が甲会社の子会社というべきであるとしても、旧独占禁止法第一〇条第一三条第一四条の場合を除いては、それだけで両者の間に同法にいう競争関係がないとすることはできない。
三、 一定の取引分野における競争を実質的に制限するとは、競争自体が減少して特定の事業者又は事業者集団がその意思である程度自由に、価格、品質、数量その他各般の条件を左右することによつて市場を支配することができる状態をもたらすことをいい、かかる状態においては、これらの者に対する競争者はこれらの者の意思に拘りなく自らの自由な選択によつて価格、品質、数量等を決定して事業活動を行いこれによつて十分な利潤を収めその存在を維持するということはもはや望み得ないことになるのであり、いかなる状況にいたつてこのような市場支配が成立するとみるべきかは相対的な問題で一律には決し難く、その際の経済的諸条件と不可分であり、たんに市場におけるその者の供給(又は需要)の分量だけからは決し得ない。
四、 甲会社と乙会社の製作する映画が日本全国で製作される映画の総数の三分の一を占めるという事実だけでは、甲会社が乙会社の製作映画をすべて自ら配給することが、映画配給の取引分野における競争を実質的に制限するものとはいえない。
五、 昭和二八年法律第二五九号私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律附則第四項は、公正取引委員会が右改正法施行後審決をするにあたつて法律を適用すべき場合について規定したものであり、右施行の際現に係属する審決不服の訴において裁判所が審決の適否を判断するにあたつて基準とすべき法律が新旧いずれであるかの問題まで立法によつて解決をはかつたものではない。
六、 独占禁止法上不当な取引制限とは、相互に競争関係にある独立の事業者が共同して相互に一定の制限を課し、その自由な事業活動を拘束するところに成立し、その各当事者に一定の事業活動の制限を共通に設定することを本質とするもので、当事者の一方だけにその制限を課するものは、その制限の相互性を欠くから、不当な取引制限とはならない。
七、 独占禁止法違反行為があるとき公正取引委員会が命ずるその違反行為を排除するために必要な措置とは、現在同法に違反してなされている行為の差止、違反行為からもたらされた結果の除去等、直ちに現在において違反行為がないと同一の状態を作り出すことのみに止まるものではなく、いつたん違反行為がなされた後なんらかの事情のため現在はこれが継続していないがいつまた復活するかわからないような場合には、現に排除の必要が解消したものとはいえず、将来にわたつて右の違反行為と同一の行為を禁止することは、違反行為の排除のために必要な措置というべきである。
八、 相手方とその顧客との取引を不当に拘束する条件をつけて相手方に資金を供給するという違反行為(不公正な競争方法)の排除措置として、相手方とその顧客との取引を不当に拘束すること自体を禁止するのは失当である。
九、 前項の違反行為がある場合、その排除措置として、相手方に合併を強要し又は相手方の映画の配給を妨害する等いかなる方法をもつてしても相手方の経営に干渉するような行為をしてはならないと命ずることは、違反行為と必然の関係がなく、その排除措置としては必要の度を超え独断に過ぎるものである。
一〇、 公正取引委員会が一定の独占禁止法違反行為の排除のため必要な措置として将来の行為の禁止すなわち不作為を命じた場合、この命令が忠実に守られているかどうかを看視する意味で当事者に一定事項の報告義務を課することは、右排除措置に附随する処置として許さるべきものである。

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