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高等裁判所 判例集

事件番号

 昭和27(う)2626

事件名

 名誉毀損被告事件

裁判年月日

 昭和28年2月21日

裁判所名・部

 東京高等裁判所  第八刑事部

結果

 棄却

高裁判例集登載巻・号・頁

 第6巻4号367頁

原審裁判所名

原審事件番号

判示事項

 一、 親告罪における適法かつ有効な告訴の要件
二、 雑誌の編集局長または編集責任者と右雑誌の発売頒布による名誉毀損の結果に対する責任
三、 刑法第二三〇条ノ二にいわゆる公共の利害に関する事実に係る場合に該当しないとした一事例
四、 刑法第二三〇条ノ二第一項の事実の真否の判断と真実の証明
五、 刑法第二三〇条第一項所定の犯罪の成立に必要な故意とその責任を阻却される場合

裁判要旨

 一、 親告罪について捜査機関に対し一定の犯罪事実を申告し、犯人の訴追を求める意思表示があつたものと認められるかぎり、適法かつ有効な告訴があつたものと認められ、この場合において、被告訴人の氏名の指定を欠き、またはこれを誤記してもその効力に影響をおよぼさない。
二、 人の名誉を毀損する記事を掲載した雑誌が発売頒布された場合において、直接その発売頒布がその職責でもなく、また事実上みずから発売頒布したものでなくても、雑誌の編集局長または編集責任者として編集会議においてその編集方針、企画、調査、取材すべき事項およびその担当記者等の討議決定に参与し右決定に基き担当記者が調査取材した結果を執筆した原稿を点検し、右記事を雑誌に掲載することを決定した者は、右雑誌が編集発行され、発売頒布された場合に、右発売頒布による名誉毀損につき認識があつたものとして、その責に任ずべきである。
三、 「インチキブンヤの話昭電事件に暗躍した新聞記者」と題し、昭電事件につき各新聞社の幹部が相当のもみ消し料を貰つているらしいが、読売の竹内社会部長もくさいと社内ではにらまれている旨の記事を摘示公表することは、公共の利害に関する事実に係る場合には該当しないと解するのが相当である。
四、 刑法第二三〇条ノ二第一項により事実の真否を判断するにあたつては、裁判所は証拠調の一般原則に従い、諸般の証拠を取り調べ真相の究明に努力し、その結果その事実が真実であることが積極的に立証された場合においては無罪の言渡をなすべく、右事実が虚構または不存在であることが認められた場合はもちろん、真偽いずれとも決定されないときは真実の証明はなかつたものと判断すべきものである。
五、 刑法第二三〇条第一項所定の犯罪は、人の名誉を害する虞あることを認識しながら、人の名誉を害する虞ある事実を公表することによつて成立し、意識的に虚偽の事実を作りあげてこれを発表すること、または事実の真偽を良心的に調査しないであえてこれを公表することを要するものではない。ただある事実を公表した者が、その事実を真実なりと信じかつ、かく信ずるにつき過失がなかつたものと認められるかぎり故意の責任を阻却されることがあるにすぎない。

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