裁判例結果詳細
高等裁判所 判例集
- 事件番号
昭和24(行ナ)3
- 事件名
最高裁判所裁判官國民審査の効力に対する異議事件
- 裁判年月日
昭和24年12月5日
- 裁判所名・部
東京高等裁判所 第四特別部
- 結果
棄却
- 高裁判例集登載巻・号・頁
第2巻3号325頁
- 原審裁判所名
- 原審事件番号
- 判示事項
一、 憲法違反を理由として法律の無効を主張する訴の許される場合
二、 裁判の対象となり得べき争訟の要件
三、 民衆的訴訟を提起し得る場合
四、 国民審査無効の訴の提起と罷免を可とされた裁判官のなかつた場合
五、 罷免を可とされた裁判官のなかつた場合における國民審査無効訴訟の出訴期間とその起算日
六、 法に欠陥ある場合と裁判官の任務
七、 国民審査制度の立法理由
八、 国民審査制度の本質
九、 国民審査の制度と裁判宮弾劾の制度
十、 国民審査制度における投票の目的
十一、 総選挙と国民審査の同時投票と投票強制
十二、 投票用紙持ち帰り禁止と投票強制
十三、 氏名連記の投票用紙と投票強制
十四、 裁判官の裁判上の意見と審査公報の記載
- 裁判要旨
一、 ある法律が憲法に違反するから無効であるということを理由とする訴は、一般的抽象的にある法律の無効の確認又は宣言を求めることでは許されないのであつて、何等か具体的な権利義務に関する争がある場合に、その理由においでのみ許されると解すベきである
二、 裁判所の裁判の対象となり得べき争訟は、(イ)「事件」即ち社会に発生した事実又は出来事によつて社会の秩序又は人の利害に不均衡を生ずるに至つた事柄か、または「争」即ち互に主張の相一致しない当事者が現に抗争している状態であり、(ロ)その「事件」「争」には互に具体的な利害につき対立又は紛争を生じた当事者が存在し、(ハ)かかる対立又は紛争は当事者の権利義務に関して生じたもので、(ニ)その対立紛争には法律の適用によつて具体的に解決調整され得べき争点が在り、(ホ)右の解決調整は裁判所が終局的に為し得るものであることを必要とする。
三、 いわゆる民衆的訴訟とは、一般国民が国民としての公共的行政監督的な地位から、行政法規の違法な適用に対し、これを是正するために提起する訴訟であつて、性質上当然には「一切の法律上の争訟」中に包含されない。ただ法律に特別の規定ある場合にのみ、その提起を許されるものである。
四、 最高裁判所裁判官国民審査決第三六条は、審査人に関する限り、国民審査が適法に行われたか否かを監督するために、公共的の見地から一般審査人に訴を提起することを許す規定であつて、単に罷免を可とされた裁判官のある場合にのみこれを許したものではない。
五、 罷免を可とされた裁判官のなかつた場合に、一般審査人が国民審査無効の訴を提起することのできる期間は、審査の結果の公表が周知の状態に置かれた日から三十日内と解すべきものである。
六、 ある法律の一部分に、その本質に属せざる事項について当然法規としてあるべき明確な文字をたまたま欠くか或はそれが不明瞭な場合に、その法律全体の本来の目的と精神に従つて、現われていない法を探究し補充して、当該法律の機能を万全ならしめることは、裁判官に課せられた重要な任務の一部である。
七、 特定の最高裁判所裁判官が任命されてその地位についたのは、内閣の判断するところであるから、広く国民一般から見て、果してそれが適当であるかどうか、或は当時適当であつたが、その後も適当であるかどうかの判断を求めるため、公務員の選定罷免に関する国民固有の権利に基き、その意見を問う機会を置く趣旨から、国民審査の制度が生れたと見るべきである。
八、 最高裁判所裁判官の国民審査制度の本質は、裁判官の任命が確定した後、その地位に在る裁判官に対し、將来に向つて、これを罷免するかしないかを国民に問う一種の解職投票の制度であつて、すでに成立した任命そのものの効力には直接関連をもたない。
九、 裁判官弾劾制度は、法定の事由によつて一定の手続により裁判官を罷免するのであり、国民審査制度は、法定の事由はないが、投票により国民の信任を失つた裁判官を罷免するのであり、両者は並行して存在する異なつた制度である。
十、 国民審査制度においては、特定の裁判官を罷めさせたいという具体的意見を持つている審査人に「罷免を可とする投票」をさせるのが主目的であつてかかる意見を持たない審査人の投票は、法の本質上当然に要求されるものでなく、又必要不可欠なものでもない。即ち「罷免を可とする以外の投票」は、結果としてすベて「罷免を可としない投票」と見る基本的見地に立つのである。
十一、 投票所に出頭した選挙人に同時に審査の投票用紙を交付すること自体は、何等審査の投票を強制するものとはいえない。
十二、 投票用紙の持ち帰りを禁止していることは、棄権を認めないことでもなく、また投票用紙の返還を禁ずる趣旨でもないから、直ちに投票の強制ということにはならない。
十三、 国民審査の制度は「罷免したい」という意思の投票を求めるのであり、本来罷免を可としないという積極的の投票はないのであるから、投票用紙が連記であつても、何等他の裁判官に対しての投票を強制することにはならない。
十四、 審査公報に裁判官の裁判上の意見の記戦がなくても、不適法とはいえない。
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