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高等裁判所 判例集

事件番号

 昭和36(ネ)1196

事件名

 約束手形金請求事件

裁判年月日

 昭和39年6月15日

裁判所名・部

 大阪高等裁判所  第九民事部

結果

高裁判例集登載巻・号・頁

 第17巻5号261頁

原審裁判所名

原審事件番号

判示事項

 一、 信託法第一一条の法意
二、 振出人が約束手形用紙の金額欄を空白にしその下に算用数字で鉛筆書きで金額を記載して振り出した場合手形金額は白地であると認めた事例
三、 振出人が約束手形用紙の支払期日欄の「支払期日昭和 年 月 日」の各空欄に鉛筆書きで算用数字で年月日を記載して振り出した場合支払期日について確定の日付を記載したものと認めた事例
四、 手形変造の立証責任
五、 手形金額の白地補充権濫用の立証責任

裁判要旨

 一、 信託法一一条は、非弁護士が弁護士代理の原則(民訴七九条一項)に反して他人のため訴訟行為をしたり、非弁護士が弁護士法七二条に反して他人のため法律事務を業として取り扱う場合、又は、なんびとであるを問わず、他人間の法的紛争に介入し、その解決について司法機関を利用しつつ、不当な利益を追求する場合には、そのような他人の権利について訴訟行為をすることは不当であつて法律上容認することができないものであるとし、このことを前提に、その基本の要素である権利の他人性を信託形式の利用によつて排除して右法原則の適用を免れようとする脱法行為を防止することを目的としたものと解するのが相当である。
二、 約束手形の金額は、必ずしも本文中に文字で記載しなければならないものではなく、要は社会通念上からみて、一定の金額の手形上の記載が振出人の手形金額記載の意思の体現であると解されるかぎり、手形上の記載の部位や書体のいかんを問わないし、又その記載の用具は、鉛筆書きで足るが、しかし、振出人において、将来補充されることを予想し、金額欄をことさら空白にし、その下方に補充される金額の限度を示すおぼえとして、鉛筆書きで算用数字で金額を記載したと認められるとき、右算用数字による金額は、振出人の手形金額記載の意思の体現であると解することはできず、金額白地の約束手形として振り出されたものと認めるのが相当である。
三、 約束手形の支払期日の記載について、手形法は、その書体や用具について、算用数字による記載は認めず、鉛筆書きは許さないと解すべき理はないから、振出人が約束手形用紙の支払期日欄の「昭和 年 月 日」とあるその各空欄に、鉛筆書きで、算用数字で補充がなされ、その体裁上一定期日を記入したものと理解される以上、振出人の主観が、将来手形取得者が鉛筆書きどおり支払期日を書き込むことを期待したとしても、右記載は、これだけで、確定の支払期日を記載したものと認めるのが相当である。
四、 手形変造の法律効果を主張する者は、その要件事実として、手形債務者として署名した特定の者の署名当時における手形文言について立証責任を負うものと解するのが相当である。
五、 手形金額についての白地手形取得者の補充権の濫用の事実、すなわち特定の手形の白地金額の補充について白地署名者と相手方間に特定の金額に限定する旨の合意があり、右手形取得者が悪意で右合意金額を超えて金額欄を補充したとの要件事実は、これを主張する者において立証責任を負うものと解するのが相当である。

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