裁判例結果詳細
高等裁判所 判例集
- 事件番号
平成14(ネ)321
- 事件名
損害賠償請求事件
- 裁判年月日
平成16年7月9日
- 裁判所名・部
広島高等裁判所 第2部
- 結果
- 高裁判例集登載巻・号・頁
第57巻3号1頁
- 原審裁判所名
広島地方裁判所
- 原審事件番号
平成10(ワ)52
- 判示事項
1 第2次世界大戦中に日本に強制連行された中国人を劣悪な環境下で発電所建設工事に従事させた行為につき雇用契約関係に準ずる法律関係があったとして安全配慮義務違反の債務不履行が認められた事例
2 第2次世界大戦中の中国人に対する強制連行及び強制労働に伴う安全配慮義務違反の債務不履行を理由とする損害賠償請求権の消滅時効の起算点
3 安全配慮義務違反の債務不履行による損害賠償請求に対する消滅時効の援用が著しく正義に反し条理にもとるとして権利の濫用に当たるとされた事例
4 日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明による同国国民個人の損害賠償請求権の放棄の有無(消極)
- 裁判要旨
1 第2次世界大戦中に,労働力の不足を補うために中国人を被控訴人の管理下に置き,日本に強制連行して,被控訴人の指揮監督により発電所建設工事に従事させたことなど,判示の事情の下では,被控訴人との間には安全配慮義務の発生が問題となる雇用契約関係に準ずる法律関係が成立し,劣悪な環境下で過酷な労働を強いた被控訴人の一連の行為は債務不履行に当たる。
2 第2次世界大戦中の中国人に対する強制連行及び強制労働に伴う安全配慮義務違反の債務不履行を理由とする損害賠償請求権の消滅時効の起算点は,日本国と中華人民共和国との間の平和友好条約が発効して日本と中華人民共和国の国交回復を経た上,同国において中華人民共和国公民出境入境管理法が施行され一般市民の海外渡航が可能になった昭和61年2月である。
3 判示のように強制連行及び強制労働がそれ自体著しい人権侵害である上,その被害による経済的困窮や国内状況等のために控訴人らによる損害賠償請求権の行使は困難であったもので,控訴人らが権利の上に眠ってきた者とはいえないこと,事実関係の調査や補償交渉等における被控訴人の不適切な態度が控訴人らの権利行使を妨げたとも評価できること,被控訴人は中国人労働者を用いたことに関し戦後国家補償金を取得して利益を得ていることなど,時効を理由に控訴人らの安全配慮義務違反の債務不履行に基づく損害賠償請求権を消滅させることが著しく正義・公平・条理等に反する特段の事情が認められる場合には,被控訴人の消滅時効の援用は権利の濫用として許されない。
4 外国人の加害行為によって被害を受けた者が個人として加害者に対して有する損害賠償請求権は固有の権利であって,その属する国家が他の国家との間に締結した条約をもって放棄させることは原則としてできず,日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明第5項は,そこに明記されていない同国国民個人の有する損害賠償請求権の放棄までも含むものではない。
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