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高等裁判所 判例集

事件番号

 昭和58(う)333

事件名

 業務上過失致死、同傷害被告事件

裁判年月日

 昭和63年6月28日

裁判所名・部

 福岡高等裁判所  第三刑事部

結果

高裁判例集登載巻・号・頁

 第41巻2号145頁

原審裁判所名

原審事件番号

判示事項

 一 過失犯において注意義務が認められるための前提要件
二 多数の死傷者を出した出火原因不明の百貸店火災について、消防法上の管理権原者でも防火管理者でもない会社の取締役及び従業員たる火元責任者に過失の注意義務が認められた事例

裁判要旨

 一 過失犯において注意義務が特定の者に認められるためには、その者が過失事故発生当時の具体的状況下において、法令、契約、慣行あるいは条理に基づいて注意義務を負う立場にあることを要する。
二 百貨店を営む株式会社の取締役である被告人甲は、会社が、消防法令とは別個に、雇用契約に付随し信義則上従業員に対して負う安全配慮義務及び営業活動の当然の前提として条理上客に対して負う安全確保義務の履行としての店舗建物の消防計画の作成、同計画に基づく従業員に対する消火、通報及び避難誘導の訓練の実施等に関与すべき立場にあり、現実に防火管理上種々の助言や指導(本文参照)を行つていた本件においては、右の各義務を履行するため、取締役会において、積極的に問題点を指摘し、必要な措置をとるよう決議を促して、代表取締役に決議を実行させることにより、又は、代表取締役に意見を具申し、その統括的な義務履行を促すよう助言して補佐することにより、右消防計画の作成等を行うべき注意義務がある。
会社の営業部第三課長である被告人乙は、店舗建物三階の火元責任者の地位にあり、会社の防火管理者が定める各課毎の消防編成により火災の通報、消火、延焼防止などについて日頃から部下従業員を指導すべき立場にあつたときは、火災発生時において、部下従業員を指揮して三階の各防火シヤツターを閉鎖し、もつて延焼防止などを図るべき注意義務がある。

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