裁判例結果詳細
高等裁判所 判例集
- 事件番号
昭和49(ネ)299
- 事件名
損害賠償請求事件
- 裁判年月日
昭和53年5月24日
- 裁判所名・部
札幌高等裁判所 第四部
- 結果
- 高裁判例集登載巻・号・頁
第31巻2号231頁
- 原審裁判所名
- 原審事件番号
- 判示事項
一 国会議員の立法行為又は立法不作為と国家賠償法の適用
二 憲法におげる選挙権の保障の中には投票の機会の保障を含むか
三 衆議院議員、参議院議員並びに地方公共団体の議会の議員及び長の選挙における投票の方法を立法するについての憲法上の制約
四 国会の立法不作為の憲法適合性と裁判所の判断権
五 いわゆる在宅投票制度を設ける立法をしなかつたことが違憲、違法であるとされた事例
六 国会議員が違憲、違法に在宅投票制度を設ける立法をしなかつたことによつて選挙権を侵害したことにつき故意又は過失があつたとはいえないとされた事例
- 裁判要旨
一 国会議員の立法行為又は立法不作為についても国家賠償法一条一項の適用がある。
二 憲法における選挙権の保障の中には投票の機会の保障も含まれる。
三 国会は、衆議院議員、参議院議員並びに地方公共団体の議会の議員及び長の選挙における投票の方法については、選挙が、正当、公正に行われ、選挙人による候補者の自由選択のための投票の秘密が犯されないようにするために合理的と認められる已むを得ない事由のない限りは、すべての選挙人に対して投票の機会を確保するように立法すべき憲法上の義務を負う。
四 国会が憲法上義務づけられた立法をするのを故意に放置する場合は、裁判所は国会の当該立法不作為の憲法適合性を判断することができる。
五 昭和四四年以降昭和四七年一二月一〇日までの間に国会がいわゆる在宅投票制度を設ける立法をしないで故意に放置していたことは、判示のような(判決理由参照)「疾病等のため投票所に行くことができない在宅者」に対する関係において、そのうち衆議院議員及び参議院議員の各選挙についてのものは、憲法一三条、一四条一項、一五条一項、三項、四四条但し書、四七条に、そのうち地方公共団体の議員及び長の各選挙についてのものは、憲法一三条、一四条一項、一五条一項、三項、九三条二項にそれぞれ違反し、右の者の選挙権を侵害したものとして違法である。
六 昭和二七年法律第三〇七号公職選挙法の一部を改正する法律による在宅投票制度廃止のうち、地方公共団体の議員及び長の選挙についてのものには、前記の合理的と認められる已むを得ない事由があつたと認められること、国会における右法律案の審議過程において、国会議員は、在宅投票制度を廃止しても違憲問題を生ずるとは全く考えていなかつたこと、少なくとも昭和四七年末頃までは憲法上の普通平等選挙の保障には選挙権の行使の機会平等の保障も含まれるとする判例や学説はなかつたこと、昭和四四年以降昭和四七年一二月一〇日までの間に、ほとんど大部分の国会議員は、在宅投票制度を設ける立法をしないことが前記「疾病等のため投票所に行くことができない在宅者」に対する関係で違憲、違法であることを予め知ることができなかつたと認められること、その他判示のような事情(判決理由参照)のもとにおいては、国会議員が違憲、違法に在宅投票制度を設ける立法をしなかつたことによつて右の者の選挙権を侵害したことにつき故意又は過失があつたとはいえない。