裁判例結果詳細
高等裁判所 判例集
- 事件番号
昭和38(う)404
- 事件名
業務上過失致死傷被告事件
- 裁判年月日
昭和41年3月31日
- 裁判所名・部
高松高等裁判所 第三部
- 結果
- 高裁判例集登載巻・号・頁
第19巻2号136頁
- 原審裁判所名
- 原審事件番号
- 判示事項
一、 乳児用調整粉乳の製造にあたり第二燐酸ソーダが安定剤として原料牛乳に添加使用される場合の同薬剤に含有する砒素が人体に及ぼす影響
二、 化学上第二燐酸ナトリウムと称し得ない薬剤が薬品業界においては第二燐酸ソーダとして取引される慣習の存否
三、 工業用第二燐酸ソーダの発注に対しては非第二燐酸ソーダの納入される危険性が存在すること
四、 右危険発生の予見可能の有無
五、 右予見の対象
六、 食品製造業者が安定剤として食品に第二燐酸ソーダを添加使用する場合の業務上の注意義務 ○判決要旨
一、 昭和三〇年当時我が国の薬品業界に出廻つていた第二燐酸ソーダは、その砒素含有率〇・〇三%以下のものに過ぎなく、乳児用調整粉乳(ドライミルク)の製造にあたり、原料牛乳一〇、〇〇〇瓦に対し一瓦の割合(〇・〇一%)の第二燐酸ソーダを添加使用する限りにおいては、よつて製造される乳児用調整粉乳は、砒素に関する限り、人体に無害である。
二、 ある薬剤が、第二燐酸ナトリウム(第二燐酸ソーダ)の組成分子である燐酸ナトリウムを若干量含有し、第二燐酸ソーダの主用途である清缶剤及び洗滌剤等の原料として用い得られるからといつて、化学上第二燐酸ナトリウムと称し得ない薬剤である以上、薬品製造業者及び販売業者がこれを第二燐酸ソーダとして取引するような慣習は、我が国の薬品業界には存在しない。
三、 工業用第二燐酸ソーダの発注に対しては、第二燐酸ソーダでない薬剤(非第二燐酸ソーダ)が、第二燐酸ソーダの標示を附せられて納入される危険がある。
四、 右危険発生の予見は可能である。
五、 食品製造業者が食品に安定剤として添加使用するため第二燐酸ソーダのつもりで発注購入した薬剤が、非第二燐酸ソーダであり、かつ、その薬剤中に多量の砒素を含有していたため、右食品を飲食した者らに致死傷事故が発生した場合、右危険の予見の対象は、その薬剤が第二燐酸ソーダでない性質不明の薬剤であるかも判らないということで足るのであつて、必ずしも人体に有害な程度の砒素を含有するものであるかもしれないとの点にまで及ぶことを必要とするものではない。
六、 食品製造(加工)業に従事する者が、食品に安定剤として第二燐酸ソーダを添加使用する場合には、誤用を避けるため、まず規格品使用の業務上の注意義務があり、これに違反して工業用第二燐酸ソーダを使用するときには、使用前容器毎に、それが間違いなく第二燐酸ソーダであるかどうかを確認するため、適切な化学的検査を実施すべき業務上の注意義務がある。
- 裁判要旨
- 全文