裁判例結果詳細
行政事件 裁判例集
- 事件番号
平成13(行ウ)7
- 事件名
公文書非公開決定処分取消等請求事件
- 裁判年月日
平成14年9月25日
- 裁判所名
奈良地方裁判所
- 分野
行政
- 判示事項
1 県土地開発公社がした用地先行取得における契約書等の文書のうち,対象地が個人所有の場合に係る印影,印鑑登録証明書及び住民票の各情報が,奈良県情報公開条例(平成13年3月奈良県条例第38号による改正前)10条2号所定の非開示情報(個人識別情報)に該当し,住所及び氏名の各情報が,同号所定の非開示情報(個人識別情報)に該当しないとされた事例
2 県土地開発公社がした用地先行取得における契約書等の文書のうち,対象地が個人所有の場合の補償対象物件に係る位置図,平面図,丈量図,買収単価,補償額積算単価,買収価格,補償価格,建物の構造並びに工作物の内容等及び登記簿謄本の各情報が,奈良県情報公開条例(平成13年3月奈良県条例第38号による改正前)10条2号所定の非開示情報(個人識別情報)に該当しないとされた事例
3 県土地開発公社がした用地先行取得における契約書等の文書のうち,対象地が個人所有の場合の当該個人の金融機関名,支店名,預金種別及び口座番号等,取引金融機関に関する情報が,奈良県情報公開条例(平成13年3月奈良県条例第38号による改正前)10条2号所定の非開示情報(個人識別情報)に該当するとされた事例
4 県土地開発公社がした用地先行取得における契約書等の文書のうち,対象地が法人所有の場合の当該法人の議事録,金融機関名,口座番号等及び印影の各情報が,奈良県情報公開条例(平成13年3月奈良県条例第38号による改正前)10条3号所定の非開示情報(法人等情報)に該当するとされた事例
5 県土地開発公社がした用地先行取得における契約書等の文書のうち,対象地が法人所有の場合の対象物件に係る位置図,平面図,丈量図,買収単価,補償額積算単価,買収価格,補償価格,建物の構造及び工作物の内容の各情報が,奈良県情報公開条例(平成13年3月奈良県条例第38号による改正前)10条3号所定の非開示情報(法人等情報)に該当しないとされた事例
6 県土地開発公社がした用地先行取得における契約書等の文書のうち,対象地が法人所有の場合の対象物件の所在地,地番及び公簿地積の各情報が,奈良県情報公開条例(平成13年3月奈良県条例第38号による改正前)10条3号所定の非開示情報(法人等情報)に該当しないとされた事例
7 県土地開発公社がした用地先行取得における契約書等の文書のうち,不動産鑑定評価書(表題及び題目を除く),宅地価格評定表,宅地価格比準総括表,事例カード,土地調査表,建物等補償報告書等の各情報が,奈良県情報公開条例(平成13年3月奈良県条例第38号による改正前)10条7号所定の非開示情報(意思形成過程情報)に該当しないとされた事例
8 県土地開発公社がした用地先行取得における契約書等の文書のうち,?契約の対象地が個人所有の場合の当該個人の住所及び氏名,?対象地の位置図,買収価格等,?土地の所在地,地番,地積,不動産鑑定評価書(表題及び題目を除く),宅地価格評定表,宅地価格比準総括表,事例カード,土地調査表,建物等補償報告書等の各情報が,奈良県情報公開条例(平成13年3月奈良県条例第38号による改正前)10条8号所定の非開示情報(事務事業情報)に該当しないとされた事例
9 奈良県情報公開条例(平成13年3月奈良県条例第38号による改正前)に基づいてされた県土地開発公社の用地先行取得における契約書等の開示請求に対し,県知事がした一部非開示決定は違法であるとしてされた国家賠償請求が,棄却された事例
- 裁判要旨
1 県土地開発公社がした用地先行取得における契約書等の文書のうち,対象地が個人所有の場合に係る印影,印鑑登録証明書及び住民票の各情報につき,奈良県情報公開条例(平成13年3月奈良県条例第38号による改正前。以下同じ。)10条2号は,個人に関する情報であって,特定の個人が識別され,識別され得るものを非開示情報として規定するが,個人の権利や利益の観点から保護に値しない個人情報まですべて非開示にすべきことを定めているのではなく,法的保護に値する個人に関する情報を開示してはならないことを定めているとした上,前記各情報のうち,印影,印鑑登録証明書及び住民票の各情報は,いずれも特定の個人が直接識別される情報であり,一般に個人はこれらをみだりに公開されないという期待を持つものであることが明らかであって,その期待は各情報の社会生活上の役割の重要性等からすれば法的保護に値することは明らかであるなどとして,同号所定の非開示情報(個人識別情報)に該当するが,前記各情報のうち,住所及び氏名の各情報は,いずれも特定の個人が直接識別される情報であるものの,既買収地に関する情報であり,既買収地の対象者の住所及び氏名は,事業の完成により不動産登記簿の閲覧等によって容易に明らかとなるものであるから,前記条例10条2号ただし書ア所定の例外的開示情報(法令等の規定により何人でも閲覧することができる情報)に該当し,現時点では法的保護の必要性はあるとはいえないとして,同号所定の非開示情報(個人識別情報)に該当しないとした事例
2 県土地開発公社がした用地先行取得における契約書等の文書のうち,対象地が個人所有の場合の対象物件に係る位置図,平面図,丈量図,買収単価,補償額積算単価,買収価格,補償価格,建物の構造並びに工作物の内容等及び登記簿謄本の各情報につき,奈良県情報公開条例(平成13年3月奈良県条例第38号による改正前。以下同じ。)10条2号は,個人に関する情報であって,特定の個人が識別され,識別され得るものを非開示情報として規定するが,個人の権利や利益の観点から保護に値しない個人情報まで,すべて非開示にすべきことを定めているのではなく,法的保護に値する個人に関する情報を開示してはならないことを定めているとした上,前記各情報は,いずれも個人の財産や所得に関する情報であるが,その一部に関するものであって,当該個人の財産や所得の全体を明らかにするものではないところ,登記簿謄本は,一般に閲覧が可能なものであるから,前記条例10条2号ただし書ア所定の例外的開示情報(法令等の規定により何人でも閲覧することができる情報)に該当するものであり,位置図,平面図及び丈量図は,取引当事者の主観や個別事情に影響されない客観性の高いものであり,また,買収単価,補償額積算単価,買収価格及び補償価格は,対象となる土地の正常な取引価格又はそれに関連するものであり,取引当事者の主観や個別事情を排除した客観的な算定評価に基づくものであることなどからすれば,これらはいずれも個人のプライバシーとして保護する必要性の高い情報であるとはいえないなどとして,前記条例10条2項所定の非開示情報(個人識別情報)に該当しないとした事例
3 県土地開発公社がした用地先行取得における契約書等の文書のうち,対象地が個人所有の場合の当該個人の金融機関名,支店名,預金種別及び口座番号等,取引金融機関に関する情報につき,奈良県情報公開条例(平成13年3月奈良県条例第38号による改正前)10条2号は,個人に関する情報であって,特定の個人が識別され,識別され得るものを非開示情報として規定するが,個人の権利や利益の観点から保護に値しない個人情報まで,すべて非開示にすべきことを定めているのではなく,法的保護に値する個人に関する情報を開示してはならないことを定めているとした上,前記各情報は,個人の財産や所得に関する情報であって,一般に,個人についてはこのような情報が公開されることは予定されておらず,当該個人が他人に知られたくないと望むことが当然の情報であるから,法的保護に値するものであるなどとして,同号所定の非開示情報(個人識別情報)に該当するとした事例
4 県土地開発公社がした用地先行取得における契約書等の文書のうち,対象地が法人所有の場合の当該法人の議事録,金融機関名,口座番号等及び印影の各情報につき,奈良県情報公開条例(平成13年3月奈良県条例第38号による改正前)10条3号にいう「競争上又は事業運営上の地位,社会的信用その他正当な利益が損なわれると認められる」情報とは,生産技術上のノウハウや,取引上,金融上及び経営上の秘密等,公開されることにより公正な競争の原理を侵害するなど,当該法人の営業上の地位に著しい不利益を及ぼすと認められるものを指すとした上,前記各情報のうち,法人の議事録の記載内容は,法人の経営内容全般にわたる内部情報であり,公開されることにより公正な競争の原理を侵害するなど,当該法人の営業上の地位に著しい不利益を及ぼすと認められる情報が含まれていることが明らかであり,金融機関名,口座番号等及び印影の各情報は,当該法人が事業活動を行う上での内部管理に属する情報であり,これを公開することにより法人の社会的信用等に影響が生ずる可能性がないとはいえないなどとして,同号所定の非開示情報(法人等情報)に該当するとした事例
5 県土地開発公社がした用地先行取得における契約書等の文書のうち,対象地が法人所有の場合の対象物件に係る位置図,平面図,丈量図,買収単価,補償額積算単価,買収価格,補償価格,建物の構造及び工作物の内容の各情報につき,奈良県情報公開条例(平成13年3月奈良県条例第38号による改正前)10条3号にいう「競争上又は事業運営上の地位,社会的信用その他正当な利益が損なわれると認められる」情報とは,生産技術上のノウハウや,取引上,金融上及び経営上の秘密等,公開されることにより公正な競争の原理を侵害するなど,当該法人の営業上の地位に著しい不利益を及ぼすと認められるものを指すとした上,建物の構造及び工作物の内容等の情報は,いずれも法人の資産や所得に関する情報といえるが,特定の土地取引に関する情報であって,当該法人の資産や所得の全体を明らかにするものではなく,また,買収価格等は,当該土地の客観的な価格を示すものであり,特に秘密にしなければ法人の営業上の利益が害されるとはいい難く,これを公開したからといって法人又は個人の競争上又は事業運営上の地位,社会的信用その他の正当な利益が損なわれるものともいえないとして,前記各情報は,前号所定の非開示情報(法人等情報)に該当しないとした事例
6 県土地開発公社がした用地先行取得における契約書等の文書のうち,対象地が法人所有の場合の対象物件の所在地,地番及び公簿地積の各情報につき,奈良県情報公開条例(平成13年3月奈良県条例第38号による改正前)10条3号にいう「競争上又は事業運営上の地位,社会的信用その他正当な利益が損なわれると認められる」情報とは,生産技術上のノウハウや,取引上,金融上及び経営上の秘密等,公開されることにより公正な競争の原理を侵害するなど,当該法人の営業上の地位に著しい不利益を及ぼすと認められるものを指すとした上,前記各情報が記載されている土地登記簿謄本が開示されており,前記各情報は,いずれも生産技術上のノウハウや,取引上,金融上,経営上の秘密等,公開されることにより公正な競争の原理を侵害するなど当該法人の営業上の地位に著しい不利益を及ぼすものではないとして,前号所定の非開示情報(法人等情報)に該当しないとした事例
7 県土地開発公社がした用地先行取得における契約書等の文書のうち,不動産鑑定評価書(表題及び題目を除く),宅地価格評定表,宅地価格比準総括表,事例カード,土地調査表,建物等補償報告書等の各情報につき,奈良県情報公開条例(平成13年3月奈良県条例第38号による改正前)10条7号にいう「当該事務事業又は将来の同種の事務事業に係る意思形成に著しい支障が生ずるおそれ」に当たるためには,行政にとって単に抽象的,主観的な可能性があるだけでは足りず,そのような支障が生ずる具体的,客観的な蓋然性があることを要するとした上,前記各情報は,いずれも意思形成に著しい支障が生ずることについての具体的,客観的な蓋然性があると認められないとして,同号所定の非開示情報(意思形成過程情報)に該当しないとした事例
8 県土地開発公社がした用地先行取得における契約書等の文書のうち,?契約の対象地が個人所有の場合の当該個人の住所及び氏名,?対象地の位置図,買収価格等,?土地の所在地,地番,地積,不動産鑑定評価書(表題及び題目を除く),宅地価格評定表,宅地価格比準総括表,事例カード,土地調査表,建物等補償報告書等の各情報につき,奈良県情報公開条例(平成13年3月奈良県条例第38号による改正前)10条8号にいう「当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障を及ぼすおそれ」に当たるためには,事務,事業の主体である行政機関が自らの立場で主観的に判断したところに従うべきではなく,客観的,具体的に存在していることが必要であるとした上,公共事業における土地の取得価格は,所定の手続を経て決定された適正なものでなければならず,交渉によって変動する価格幅は極めて限定されているものであり,土地買収交渉の困難さは買収価格等が公開されることによって生ずるものではなく用地買収事務の性質上必然的に生ずるものであること,用地買収は私人間の取引とは異なり公的性格を有するため,地権者としても譲渡価格について将来にわたって全く公開されないことを期待しているものとは考えられないことなどによれば,前記各情報を公開することによって,将来の用地買収交渉の事務に著しい支障を及ぼすおそれがあると認めることはできないとして,前記各情報は同号所定の非開示情報(事務事業情報)に該当しないとした事例
9 奈良県情報公開条例(平成13年3月奈良県条例第38号による改正前。以下同じ)に基づいてされた県土地開発公社の用地先行取得に関する情報の開示請求に対し,県知事がした一部非開示決定は違法であるとしてされた国家賠償請求につき,前記情報の一部については,前記条例10条各号所定の非開示事由に該当するものとは認められず,当該部分を非開示とした県知事の決定は違法であり,取り消されるべきであるが,前記各部分の非開示事由該当性については解釈上の争いがあるところであり,同種の情報公開条例を有する地方公共団体における同種の情報公開請求についても公開するという取扱いが一般に確立されているわけではなく,現に実務の取扱いも事案によって分かれていることが認められるから,県知事が,前記条例の実施機関として前記各部分が前記条例所定の非開示事由に該当すると判断して前記決定をしたことについて,故意又は過失があったと認めることはできないとして,前記請求を棄却した事例
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