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行政事件 裁判例集

事件番号

 平成13(行ク)96

事件名

 執行停止申立事件(本案・当庁平成13年(行ウ)第245号退去強制令書発付処分取消等請求事件)

裁判年月日

 平成13年12月3日

裁判所名

 東京地方裁判所

分野

 行政

判示事項

 在留期間を過ぎて本邦に不法残留していたとして,退去強制令書発付処分を受けたパキスタン共和国国籍を有する者がした,同処分の取消しを求める訴えを本案とする同処分の執行停止の申立てが,同令書に基づく収容部分の執行を含め,認容された事例

裁判要旨

 在留期間を過ぎて本邦に不法残留していたとして,退去強制令書発付処分を受けたパキスタン共和国国籍を有する者がした,同処分の取消しを求める訴えを本案とする同処分の執行停止の申立てにつき,行政事件訴訟法(平成16年法律第84号による改正前。以下同じ。)25条2項の「回復の困難な損害」とは,処分を受けることによって被る損害が,原状回復又は金銭賠償が不能であるとき,若しくは金銭賠償が一応可能であっても,損害の性質,態様にかんがみ,損害がなかった原状を回復させることは社会通念上容易でないと認められる場合をいうところ,収容による身柄拘束はそれ自体が個人の生命を奪うことに次ぐ人権に対する重大な侵害であり,その上,前記の者は婚姻後まもなく夫婦の同居が不能とならざるを得ない事態を既に相当期間強制されているのであって,同人が収容により受ける精神的,肉体的ダメージや,同人との面会や訴訟手続等のため奔走していることがうかがわれる同人の配偶者の精神的,経済的負担をも考慮すると,同人らの今後の婚姻関係に何らかの悪影響が及ぶ可能性もないとはいえず,こうした不利益によって生ずる損害は,後の金銭賠償が不可能なものであるか,金銭賠償が一応可能であっても,社会通念上損害がなかった原状を回復させることが容易でない損害であると認められ,その損害が処分そのものや法が当然予定したものであったとしても,そのことにより後の勝訴判決が実効性を持たない可能性がある場合には,執行停止の必要性を肯定すべきであるから,同法25条2項にいう「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要がある」というべきであるとし,さらに,同条3項の「本案について理由がないとみえるとき」に該当するかについては,主任審査官には退去強制令書を発付するか否か,いつこれを発付するかにつき裁量が認められているというべきであるから,同令書の発付処分の取消等を求める訴訟において,退去強制事由の有無に加えて前記主任審査官の裁量の逸脱又は濫用についても同処分の違法事由として主張し得るとした上,前記の者らの婚姻関係は真摯なものと認められ,前記の者については,前記令書発付の時点において,実質的には「日本人の配偶者等」としての在留活動があったものということができ,主任審査官は,同人を在留させた場合における本邦への弊害を過大評価していた疑いがある上,同令書の発付により同人ひいては我が国の国民である同人の配偶者にいかなる損害が生ずるかについての考慮を欠いていた可能性も否定できず,その判断過程には,社会通念に照らし著しい過誤欠落があった可能性が高いことからすれば,同3項の「本案について理由がないとみえるとき」に該当するとは認められず,また,同項の「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき」に該当する事情もないとして,前記執行停止の申立てを,収容部分の執行を含め,認容した事例

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