裁判例結果詳細
行政事件 裁判例集
- 事件番号
平成12(行ウ)35
- 事件名
観察処分取消請求事件
- 裁判年月日
平成13年6月13日
- 裁判所名
東京地方裁判所
- 分野
行政
- 判示事項
1 無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律(平成11年法律第147号)に規定する観察処分の合憲性 2 宗教法人について解散命令が確定した後に存在していた任意団体に対し,無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律5条1項に基づきされた公安調査庁長官の観察に付する処分が,適法とされた事例
- 裁判要旨
1 無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律(平成11年法律第147号)5条1項に規定する公安調査庁長官の観察に付する処分につき,同処分を受けた団体には,同処分が効力を生じた日から30日以内に,同処分が効力を生じた日における当該団体の役職員の氏名,住所及び役職名並びに構成員の氏名及び住所,当該団体の活動の用に供されている土地並びに建物の所在,地籍及び用途,当該団体の資産及び負債等を報告する義務が,また同処分が効力を失うまでの期間において,三か月ごとに,前記報告事項に加えて,当該団体の活動に関する事項として,活動に関する意思決定の内容等を報告する義務が生じ,また公安調査庁長官は,観察処分を受けている団体の活動を明らかにするため,公安調査官に必要な調査をさせることができ,当該団体の活動を明らかにするために特に必要があると認めるときは,公安調査官に,当該団体が所有し又は管理する土地又は建物に立ち入らせ,設備,帳簿書類その他必要な物件を検査させることができるなどの内容の規制がされるところ,宗教団体が前記観察処分を受ければ,当該宗教団体は,その構成員を特定するに足りる情報を公安調査庁に対して報告する義務を負うことになるのであるから,同報告を強制されることにより,当該構成員の宗教的行為の自由の一内容である消極的信仰告白の自由である自己の信仰を外部的に明らかにしない自由が害されることが明らかであり,また,観察処分を受けた宗教団体は,その組織,資産状況及び財政状態,意思決定内容のすべてを報告しこれを公安調査庁に対して報告する義務を負うのであるから,同報告を強制されることにより,宗教的結社の自由の一内容である当該結社の自律的な活動に関わる情報を開示しない自由が侵害されることも明らかであって,前記観察処分を受けたこと自体,また,当該団体による報告及び公安調査庁による調査の結果が地方公共団体に提供され,国民に対して当該宗教団体及びその構成員の活動内容の重要な部分が開示されることを通じて,当該団体に属する信者の行う宗教上の活動において事実上の支障を生ずることがあり得ると考えられ,このことは,信教の自由の事実上の障害となると解されるが,信教の自由は,個人の私生活の自由の宗教的な側面も含めて,それが純粋に内心の領域に属する限りにおいて,制約を許されないものであるが,憲法12条が自由及び権利の濫用を禁止し,また,同法13条が自由については公共の福祉に反しない限りにおいて最大の尊重を必要とすると定めていることに照らせば,宗教団体又はその構成員が,外部的な行為を行い,それが他人の権利又は自由を侵害し,公共の利益を害する場合においては,当該宗教団体またはその構成員に対する規制が,信教の自由に対する内在的制約として許される場合があると考えられ,当該制限が必要かつ合理的なものとして是認されるかどうかは,制限が必要とされる程度と,制限される自由の内容及び性質,これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を較量して決せられるべきものであるところ,かつて無差別大量殺人行為を行った団体が,当該行為後も従前の組織を実質的に維持しつつ引き続き活動を継続している場合において,再び同様の行為の準備を開始するおそれがあるときは,我が国の国民全体の生命,身体の安全及び生活の平穏という前記観察処分により保護される利益を保護する必要から,これを準備行為の段階で発見するために,当該団体の活動状況を明らかにするという処分の目的自体については,合理性があるというべきであるが,かつて無差別大量殺人行為を行った団体及びその構成員といえども,前記のような行為に再び及ぶおそれがない限り,通常の宗教団体又は一般市民として信教の自由等を保障されるべきであるから,その信教の自由等の制限が許されるためには,当該団体が再び無差別大量殺人行為の準備行為を開始するという一般的,抽象的な危険があるというだけでは足りず,その具体的な危険があることが必要であり,かつ,その場合においても,前記観察処分による制限の程度は,前記危険の発生の防止のために必要かつ合理的な範囲にとどまるべきものと解するのが相当であり前記制限を正当化する具体的危険が存在するか否かについては,当該団体が再び無差別大量殺人行為の準備行為を開始するおそれが常に存在すると通常人をして思料せしめるに足りる状態が存在するか否かについて,当該団体の組織,構成員,綱領,教義,活動状況などの具体的な事情を基礎として客観的に判断すべきであるから,前記観察処分を行う場合には,その要件として,前記各事情を基礎として客観的に判断された危険性を備えていることを要すると解すべきであって,そのような観点からすれば,前記法律5条1項各号が定める要件は,当該団体が再び無差別大量殺人行為の準備行為を開始するおそれが常に存在すると通常人をして思料せしめるに足りる状態にあることを基礎付ける事実を定めているものとして解釈されなければならないが,前記法律に基づく観察処分は,同法5条1項各号を前記のように解釈して運用する限りにおいては,当該団体及びその構成員との関係で,信教の自由並びにプライバシー及び住居の平穏に関する憲法上の保障に反するものではなく,また,前記観察処分は,前記法律4条に定める無差別大量殺人行為を行った団体で同法5条1項の要件を満たすものである限り,当該団体が宗教団体であるかどうかを問わず適用されるものであり,さらに,当該団体が宗教団体であったとしても,特定の宗教的信仰を有する者又は宗教団体に限定することなく,中立的に等しく適用されるものであることが明らかであることなどに照らせば,前記法律が,一般的,抽象的法規範としての性格を有していることが明らかであって,憲法14条の保障する平等原則に違反することはなく,また,前記観察処分により制限される権利利益の内容,性質は前記のとおりであり,反面,前記観察処分により達成しようとする公益の内容,程度,緊急性等を総合較量すれば,前記法律に定める意見聴取手続が憲法31条の定める法定手続の保障に反することはなく,また,前記観察処分に基づく立入検査に裁判官の令状発付を要件とせず,個別の機会における立入検査について公安審査委員会の審査にかからしめているとしても,公共の福祉の維持という行政目的を達成するため欠くべからざるものであるかどうか,刑事責任追及のための資料収集に直接結び付くものであるかどうか,強制の程度,態様が直接的なものであるかどうかなどを総合判断すれば憲法35条の規定する令状主義に違反することもなく,また,憲法39条の規定する一事不再理及び二重の危険の禁止の法理は,刑事手続における適正手続の保障の一つとして,ひとたびされた確定判決が不利益に変更されて,国民が法的不安定の下に置かれることを防ぐ趣旨であると解されるところ,前記観察処分は,刑罰ではなく行政処分であるから,前記法理が直ちに適用されるものではなく同条にも違反しない。 2 宗教法人について解散命令が確定した後に存在していた任意団体に対し,無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律5条1項に基づきされた公安調査庁長官の観察に付する処分につき,同処分当時に存在していた前記任意団体は,その教義が依然として前記宗教法人においてその創始者が説いた説法をもとに構成されていることなど,団体としての実質において前記宗教法人と同一性を有していたというべきであり,「団体の活動として無差別大量殺人行為を行った団体」に該当するとした上,団体運営の実態にかんがみれば,前記任意団体が,従前とは異なり,前記創始者の影響力から自立して団体運営を行えるものとなったと断じることは困難であり,仮に,前記創始者が団体運営に関わろうとする姿勢を見せた場合,それまでの団体運営の実態からすれば,前記宗教団体の信者が再び同人を預言者として崇めてその影響力の下に行動するであろうことは想像に難くないことなどからすれば,前記処分時の段階においても,同人の意向次第では,例えば,被害弁償等に使用するとしている金員を再び武装化に振り向け,無差別大量殺人行為の準備行為に着手する可能性があると通常人をして思料せしめるに足りる状態にあったというべきであるから,前記任意団体は,前記法律5条1項1号の「当該無差別大量殺人行為の首謀者が当該団体の活動に影響力を有していること」に該当し,また同団体の実態自体は,同項5号の「当該団体に無差別大量殺人行為に及ぶ危険性があると認めるに足りる事実があること」に該当し,一般社会と融和しない独自の価値観を従前から維持している前記任意団体については,将来に向かって,その活動状況を継続して明らかにする必要があると解することが相当であり,その必要性は過去に行われた捜索差押え等の成果によって代替できないことが明らかであるとして,前記処分を適法とした事例
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