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行政事件 裁判例集

事件番号

 平成12(行ク)112

事件名

 執行停止申立事件

裁判年月日

 平成13年2月16日

裁判所名

 東京地方裁判所

分野

 行政

判示事項

 1 区長が,特定の宗教団体からの転入届に基づき,同人の住民票をいったん調整,記録した後,同調整,記録を破棄した上,区の住民基本台帳の記録から同人の記録を抹消した行為は住民票消除処分に該当するとして,前記信者が前記区長に対してした同処分の効力の停止を求める申立てに法律上の利益があるとされた事例 2 区長が,特定の宗教団体の信者からの転入届に基づき,同人の住民票をいったん調整,記録した後,同調整,記録を破棄した上,区の住民基本台帳の記録から同人の記録を削除した行為は住民票消除処分に該当するとして,前記信者が,審査請求の裁決を経ずに,前記区長に対してした同消除処分の取消の訴えが,適法とされた事例 3 区長が,特定の宗教団体からの転入届に基づき,同人の住民票をいったん調整,記録した後,同調整,記録を破棄した上,区の住民基本台帳の記録から同人の記録を抹消した行為は住民票消除処分に該当するとして,前記信者が前記区長に対してした同処分の効力の停止を求める申立てが,認容された事例

裁判要旨

 1 区長が,特定の宗教団体からの転入届に基づき,同人の住民票をいったん調整,記録した後,同調整,記録を破棄した上,区の住民基本台帳の記録から同人の記録を抹消した行為は住民票消除処分に該当するとして,前記信者が前記区長に対してした同処分の効力の停止を求める申立てにつき,市区町村長が住民基本台帳法7条に基づき,住民票に同条各号に規定する事項を記載する行為は,公の権威をもって住民の居住関係に関する事項を証明し,それに公の証拠力を与えるいわゆる公証行為であるが,その者が当該市区町村の選挙人名簿に登録されるか否かを左右する法的効果を有するものであるから,住民証を新たに調整し,これに特定の住民の氏名等を記載する行為,及び既に調整された住民票を全部削除する行為は,行政事件訴訟法3条2項所定の行政処分に当たるとした上,前記調整行為等の後にされた前記抹消等は,住民基本台帳法8条に基づく職権による消除処分と解すべきであるから,前記処分の効力の停止を求めることには法律上の利益があるとされた事例 2 区長が,特定の宗教団体の信者からの転入届に基づき,同人の住民票をいったん調整,記録した後,同調整,記録を破棄した上,区の住民基本台帳の記録から同人の記録を削除した行為は住民票消除処分に該当するとして,前記信者が,審査請求を経ずに,前記区長に対してした同消除処分の取消の訴えにつき,公職選挙法によれば選挙人名簿に登録されていない者は投票することができず(同法42条1項本文),同名簿の登録は住民基本台帳に記録されている者について行われることとされており(同法21条1項),参議院議員の半数の任期及び都議会議員の任期が近い将来満了することは公知の事実であるとした上,前記処分については,審査請求に対する判断を待った上で訴えを提起していたのでは,国民の最も重要な基本的な権利の一つである選挙権の行使ができなるおそれが強く,選挙権の行使の点だけをみても,前記消除処分により生ずる著しい損害を避けるための緊急の必要性があると認められるから,行政事件訴訟法8条2項2号により,審査請求に対する裁決を経ることなく前記訴えを提起することが許されるとして,前記訴えを適法とした事例 3 区長が,特定の宗教団体からの転入届に基づき,同人の住民票をいったん調整,記録した後,同調整,記録を破棄した上,区の住民基本台帳の記録から同人の記録を抹消した行為は住民票消除処分に該当するとして,前記信者が前記区長に対してした同処分の効力の停止を求める申立てにつき,参議院議員選挙等において前記信者が国民の最も重要な基本的権利の一つである選挙権を行使するためには一月半のうちに住民基本台帳への登録がされる必要があるから,「回復困難な損害を避けるための緊急の必要がある」といえることは明らかであるとした上,住民基本台帳に記録されるべきか否かは,当該住民の住所が当該市町村の区域内にあるかどうかという事実,及び住民基本台帳に登録して管理すべき者かどうかのみを基準として判断されるべきであり,市区町村長には,当該住民が新たに市区町村の区域内に住所を定めたという事実が存するにもかかわらず,地方公共秩序を維持し,住民及び滞在者の安全健康及び福祉を保持することを目的とするような理由によって,住民票の調整,記載を拒否したり,削除等を行うべき権限が与えられていると解すべき根拠は存しないというべきであり,住民票を全部削除すべき事由として,住民基本台帳法施行令8条に明示的に規定された当該住民の転出又は死亡という事由のほかに,同条に規定する「その他その者についてその市町村の住民基本台帳から除くべき事由」に当たるのは,これらに準ずべき事由である,転入の事実がないこと,国籍の喪失,皇族の身分取得等の客観的事実に基づくものに限られると解すべきであり,市区町村長が住民の登録時において実質的審査権の行使を懈怠したとの事由はこれに該当しないものと解されることなどから,「本案について理由がないとみえるとき」に当たらないとして,前記申立てを認容した事例

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