裁判例結果詳細
行政事件 裁判例集
- 事件番号
平成4(行ウ)6
- 事件名
原子炉設置許可処分無効確認等請求事件
- 裁判年月日
平成12年3月22日
- 裁判所名
福井地方裁判所
- 分野
行政
- 判示事項
1 無効確認訴訟に行政事件訴訟法10条1項を類推適用することの可否 2 原子炉設置許可処分の無効確認訴訟において科学技術に係る事項を判断する際に用いる科学的知見の基準時 3 原子炉設置許可処分の無効確認訴訟における主張立証責任 4 原子炉設置許可の段階における安全審査対象の範囲 5 内閣総理大臣がした原子炉設置許可処分の無効確認請求が,棄却された事例
- 裁判要旨
1 行政事件訴訟法36条は,無効確認訴訟の原告適格を有する者を「当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者」と限定しており,同「法律上の利益を有する者」は同法9条の「法律上の利益を有する者」と同趣旨と解されることから,無効確認訴訟は,取消訴訟と同様,行政庁の処分によって原告が被っている権利利益の侵害の救済を目的とする主観訴訟と解されるから,自己の法律上の利益と関係のない違法事由の主張を認める理由はなく,同法10条1項は無効確認訴訟にも類推適用されると解するのが相当である。 2 取消訴訟における違法判断の基準時については,取消訴訟は行政庁の第一次的判断を前提とし,その適否を審査する抗告訴訟であるから,原則として処分時の適法性について審査すべきであり,この理は,取消訴訟と同様に抗告訴訟の性質を有する無効確認訴訟にも当てはまるが,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律24条1項4号の要件に関する判断のうち,科学技術に係る事項を判断するに際して用いる科学的知見に関しては,科学的経験則,自然法則又は論理法則にほかならないのであるから,処分時の科学水準のものによるのではなく,現在の科学水準のものに則って判断するべきであって,科学的経験則,自然法則又は論理法則を構成する科学的知見について,処分時に用いた知見がその時点で通説的見解であっても,その後誤りが発見され,従来の指摘が誤りであったことが現在の通説的見解になった場合には,裁判所が現在の知見を適用して処分の当否を判断すべきである。 3 原子炉設置許可処分の無効確認訴訟においては,取消訴訟の場合と同様,被告行政庁がした安全審査に関する判断に不合理な点があり,それが重大かつ明白であることの主張立証責任は,本来,原告が負うべきものと解されるが,当該原子炉施設の安全審査に関する資料をすべて被告行政庁が保持していることなどの点を考慮すれば,被告行政庁において,まず,その依拠した具体的審査基準並びに調査審議及び判断の過程等,被告行政庁の判断に重大かつ明白な瑕疵といえるだけの過誤,欠落のないことを相当の根拠,資料に基づき主張,立証する必要があり,被告行政庁が同主張,立証を尽くさない場合には,被告行政庁がした前記判断に不合理な点があることが事実上推定されると解するのが相当である。 4 原子炉設置許可の段階における安全審査の対象は,当該原子炉施設の基本設計ないし基本設計方針に係る事項のみであると解されるところ,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律24条1項各号所定の基準の適合性については,各専門分野の学識経験者等を擁する原子力安全委員会の科学的,専門技術的知見に基づく意見を尊重して行う内閣総理大臣の合理的な判断にゆだねられており,いかなる設計を基本設計ないし基本的設計方針に該当するものとして,同項3号及び4号の要件適合性についての審査の対象とするかは,前記の裁量的な判断の過程を構成するものであるから,同様に内閣総理大臣の合理的な判断にゆだねられているものと解すべきである。 5 内閣総理大臣がした原子炉設置許可処分の無効確認請求につき,同許可処分は,法定の手続に則り行われたものと認められ,手続的な違法があるとは認められず,また,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律24条1項3号(技術的能力に係る部分に限る。)及び同項4号の要件についても,その適合性について科学技術庁及び原子力安全委員会がした安全審査の調査審議に用いられた審査方針及び審査基準に,前記安全審査の結論を左右するような不合理な点があるとは認められず,さらに,当該原子炉施設が前記審査基準に適合するとした前記安全審査における調査審議及び判断の過程に重大かつ明白な瑕疵といえるような看過し難い過誤,欠落があるとも認められないから,前記許可処分は実体的にも適法であるとして,前記請求を棄却した事例
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