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行政事件 裁判例集

事件番号

 平成7(行コ)5

事件名

 保護変更決定処分取消請求,損害賠償請求控訴事件

裁判年月日

 平成10年10月9日

裁判所名

 福岡高等裁判所

分野

 行政

判示事項

 1 生活保護の被保護世帯の構成員である世帯主の子が審査請求を経ずに提起した,生活保護費支給額を減額する旨の保護変更決定の取消しを求める訴えが,適法とされた事例 2 生活保護費等を原資として積み立てた学資保険の満期保険金を生活保護法4条1項及び8条1項に基づき収入認定してした生活保護費支給額を減額する旨の保護変更決定が,違法とされた事例 3 生活保護費等を原資として積み立てた学資保険の満期保険金を生活保護法4条1項及び8条1項に基づき収入認定してした生活保護費支給額を減額する旨の保護変更決定が違法であるとしてされた国家賠償請求が,棄却された事例

裁判要旨

 1 生活保護の被保護世帯の構成員である世帯主の子が審査請求を経ずに提起した,生活保護費支給額を減額する旨の保護変更決定の取消しを求める訴えにつき,生活保護は原則として世帯を単位としてその要否及び程度を定めることとされているところ,具体的な保護ないしその変更処分は世帯主を名あて人としてされるものではあるが,被保護世帯の構成員も生活困窮者である以上保護受給権を有すること及び同処分等の効果は世帯の構成員全体に及ぶことからすると,世帯主以外の構成員もその取消しを求める利益を有すると解されるから,前記子は前記訴えにつき原告適格を有し,また,世帯主は,被保護世帯の代表者として当該処分の名あて人となるものであるから,これに対する不服申立て等も世帯を代表して行うことができ,世帯主が行った不服申立て等の効果は世帯構成員全体に及ぶと解されるところ,前記子自身は前記決定に対して審査請求の申立てをしていないものの,世帯主である同人の父において同申立てをしているから,前記訴えは審査請求前置の要件を満たしているとして,これを適法とした事例 2 生活保護費等を原資として積み立てた学資保険の満期保険金を生活保護法4条1項及び8条1項に基づき収入認定してした生活保護費支給額を減額する旨の保護変更決定につき,生活保護費等を原資とする預貯金は,その貯蓄の目的,態様等に照らして,要保護者の最低限度の生活の保障とその自立助長を図るという同法の趣旨目的を逸脱するものではなく,かつ,一般の国民感情に照らしても違和感を覚えるようなものでない限り,収入認定の対象となるべき被保護者の資産等には当たらないとした上,当該被保護世帯の世帯主は,その子の高校修学費用に充てることを目的として学資保険に加入したものと認められるところ,被保護世帯の子弟の高校修学はその自立ひいては被保護世帯の自立助長に深くかかわるものであるにもかかわらず,その費用についての手当が奨学金等の制度によっては必ずしも十分ではないことからすると,被保護世帯において,その子弟の高校修学費用に充てるため,保護費等を節約して学資保険等の預貯金として蓄えることは前記趣旨目的から逸脱するものではなく,また,当該学資保険の月々の保険料の額及び満期保険金の額も,一般の国民感情に照らして違和感を覚えるようなものではないから,同満期保険金は収入認定の対象となるべき収入又は資産等に当たらないとして,前記処分を違法とした事例 3 生活保護費等を原資として積み立てた学資保険の満期保険金を生活保護法4条1項及び8条1項に基づき収入認定してした生活保護費支給額を減額する旨の保護変更決定が違法であるとしてされた国家賠償請求につき,同決定は同法56条所定の正当な理由がないのにされた違法なものではあるが,保護実施機関である市福祉事務所長が,同決定が違法であることを認識することが可能であったとはいえないから,同所長に故意又は過失があったと認めることはできないとして,前記請求を棄却した事例

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