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行政事件 裁判例集

事件番号

 昭和56(行ウ)3

事件名

 土地収用裁決取消等請求事件

裁判年月日

 平成5年2月25日

裁判所名

 名古屋地方裁判所

分野

 行政

判示事項

 1 土地収用裁決に係る供託された補償金及び替地の異議をとどめない受領と同裁決の取消しを求める訴えの利益 2 土地収用裁決後に代執行により土地の引渡しが完了した場合と同裁決のうち権利取得裁決の取消しを求める訴えの利益 3 土地収用裁決後に代執行により土地の引渡しが完了した場合と同裁決のうち明渡裁決の取消しを求める訴えの利益 4 都市計画事業の認可の違法性は収用裁決に承継されるか 5 都市計画事業の用地として収用される土地の所有者が収用裁決取消訴訟においてその違法事由として都市計画事業の認可の違法を主張した場合につき,当該違法事由は,行政事件訴訟法10条1項によって主張が制限されるものではないとした事例 6 都市計画事業に係る流域下水道終末処理場用地として収用される土地の所有者が都市計画決定及び下水道事業計画の認可の違法等を理由としてした権利取得裁決取消請求が,当該決定及び認可は適法であるなどとして,棄却された事例 7 都市計画事業に係る流域下水道終末処理場用地として収用される土地の所有者が県収用委員会を被告とする収用裁決取消請求を主位的請求として,予備的に起業者である県を被告として求めた替地補償を求める訴えが,主観的予備的併合を認めるべき場合には当たらないとして,不適法であるとされた事例

裁判要旨

 1 土地収用裁決に係る供託された補償金及び替地についての権利関係は,当事者が自由に処分できる私法上の権利関係とは異なるから,被収用者が異議をとどめることなくこれらの供託物を受領したとしても,これをもって当該裁決の適法性,有効性を承認したものとみることはできず,当該受領によって同裁決の取消しを求める訴えの利益が失われるものとはいえない。 2 権利取得裁決の有する本来的効果は,起業者に所有権又は使用権を原始的に取得させるところにあり,明渡裁決の代執行によって土地の引渡しが完了している場合であっても,権利取得裁決が取り消されれば,同裁決によって起業者が取得した所有権又は使用権は当然に消滅し,当該土地を巡る権利関係は権利取得裁決のなかった状態に戻ることとなり,被収用者は起業者に対し当該土地の返還を求めることができることとなるから,権利取得裁決の取消しを求める訴えの利益は,代執行により土地の引渡しが完了しているという事実によって何ら影響を受けるものではない。 3 明渡裁決は,裁決時における土地等の占有者に対し,裁決で定められた明渡しの期限までに土地等の引渡し又は物件の移転をするという作為義務を課すものにすぎず,明渡後における起業者による土地等の占有,使用を受忍する義務をも課しているものではなく,いったん土地等の明渡しが完了すれば明渡裁決の効果としての土地等の占有者の作為義務はもはや存続していないから,明渡裁決の対象となった土地等について代執行による引渡し等が完了した後は,同裁決の取消しを求める訴えの利益は失われる。 4 都市計画法59条に基づく都市計画事業の認可と収用裁決は,相結合して当該事業に必要な土地を取得するという法的効果の実現を目的とする一連の行政行為に当たり,原則として,先行行為である事業認可の違法性は後行行為である収用裁決に承継される。 5 都市計画事業に係る流域下水道終末処理場用地として収用される土地の所有者が収用裁決取消訴訟においてその違法事由として都市計画事業の認可の違法を主張した場合につき,事業地内の土地所有者は,適正な都市計画決定及び下水道事業計画の認可を前提とする都市計画事業の認可処分に基づかない限り,その所有地を事業の用に供されないという利益を都市計画法上保障されているというべきであるから,前記主張に係る違法事由は,いずれも当該土地所有者の法律上の利益に関係があるものであり,行政事件訴訟法10条1項によってその主張が制限されるものではないとした事例 6 都市計画事業に係る流域下水道終末処理場用地として収用される土地の所有者が都市計画決定及び下水道事業計画の認可の違法等を理由としてした権利取得裁決取消請求につき,都市計画及び下水道事業計画に関して都市計画法及び下水道法が定める基準はいずれも専門技術的,政策的な判断を必要とし,これらの計画の決定は第一次的には決定権者である知事等の裁量にゆだねられているものであるところ,当該都市計画及び下水道事業計画は,いずれも前記基準に従って定められたものと認めることができ,決定権者に与えられた裁量権の逸脱,濫用は認められないから適法というべきであり,これらを前提とした都市計画事業の認可も都市計画法61条の要件を満たす適法なものであるなどとして,前記請求を棄却した事例 7 都市計画事業に係る流域下水道終末処理場用地として収用される土地の所有者が県収用委員会を被告とする収用裁決取消請求を主位的請求として,予備的に起業者である県を被告として求めた替地補償を求める訴えにつき,土地収用法133条が収用そのものに対する不服の訴えとは別に損失補償に関する訴えを規定したのは,損失補償に関する紛争を収用そのものの適否とは別に起業者と被収用者との間で早期に確定,解決させようとする趣旨であるところ,収用裁決取消訴訟に損失補償に関する訴えを予備的に併合すると,予備的請求の判断は常に主位的請求の判断後にすべきこととなるから同条の趣旨に反することとなり,また,起業者にとっても応訴の負担から解放される利益を不当に奪われることとなる一方,同併合を認めなかったとしても,単純併合の態様において訴えを提起し得ることなどからすると,前記態様で提起された訴えは,主観的予備的併合を認めるべき場合には当たらないとして,不適法であるとした事例

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