裁判例結果詳細
行政事件 裁判例集
- 事件番号
昭和63(行コ)2
- 事件名
原子炉設置許可処分無効確認等請求控訴事件
- 裁判年月日
平成元年7月19日
- 裁判所名
名古屋高等裁判所 金沢支部
- 分野
行政
- 判示事項
1 核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律24条1項4号の意義 2 核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律23条に基づいて内閣総理大臣のした原子炉設置許可処分の無効確認を求める訴えにつき,同法24条1項4号が具体的保護の対象としているのは,万一に想定される最大級の事故により直撃を受けるおそれのある原子炉より半径20キロメートルの範囲内に住居を有する者であり,まだ時間的に避難の可能性がある前記範囲外の者は,同法の具体的保護の対象としての周辺住民には該当しないと解するのが相当であるとして,前記範囲外の者は,行政事件訴訟法36条にいう「法律上の利益を有する者」に当たらないとした事例 3 原子炉施設の建設・運転の差止めを求める民事訴訟は,原子炉設置許可処分の無効を前提とする訴訟といえるか 4 核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律23条に基づいて内閣総理大臣のした原子炉設置許可処分の無効確認を求める訴えにつき,原子炉施設の建設・運転の差止めを求める民事訴訟は,原子炉設置許可処分の無効を前提とする現在の法律関係に関する訴えには当たらず,また,前記民事差止訴訟以外にも,前記許可処分の無効を前提とする現在の法律関係に関する訴えが存在し,それによって目的を達することができるものとも認められないので,前記無効確認訴訟は,行政事件訴訟法36条にいう,当該処分の無効を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができない場合に当たるとした事例
- 裁判要旨
1 核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律24条1項4号は,究極的には公共の安全という一般的公益の保護を目的とするものであるとしても,それは第一次的には,具体的な周辺住民の重大な私益である生命・身体の安全を保護する趣旨のものであり,直接災害を受ける危険性のある周辺住民について,災害の防止に関する個人的な利益を,前記公益中に包摂ないしは吸収解消されることのない個別具体的な利益として,保護していると解するのが相当である。 3 原子炉設置許可処分無効確認訴訟にあっては,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律24条1項4号所定の許可要件の適合性の審査に重大かつ明白な瑕疵があれば,直ちに許可処分は無効となり,訴訟目的を達成できるのに対し,原子炉施設の建設・運転の差止めを求める民事訴訟では,前記のような瑕疵があっても,原子炉施設の設置・運転によって人格権が侵害され,生命・身体に対する被害発生の蓋然性がある場合でなければ,差止請求は認められず,また,前記民事訴訟においては,許可処分の違法性や取消事由の有無は直接的には審理の対象になっていないので,人格権の侵害を理由に原子炉施設の建設・運転の差止めを求めることは,何ら許可処分の公定力に反しないから,前記差止めを求める民事訴訟は,原子炉設置許可処分の無効を前提とする訴訟とはいえない。
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