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行政事件 裁判例集

事件番号

 昭和42(行ウ)85

事件名

 検定処分取消訴訟事件

裁判年月日

 昭和45年7月17日

裁判所名

 東京地方裁判所

分野

 行政

判示事項

 1 憲法第26条にいう教育を受ける権利と国の機能 2 憲法第21条第1項にいう出版の自由は教科書出版の自由を含むか 3 学校教育法第21条第1項にいう「文部大臣の検定」は憲法第21条第2項にいう「検閲」に当たるか 4 教科書検定制度と憲法第21条第1項にいう「表現の自由」 5 教科書検定と教育基本法第10条

裁判要旨

 1 憲法第26条は同25条を受けていわゆる生存権的基本権のいわば文化的側面として,国民とくに子どもの教育を受ける権利を保障し,その反面として国に対し,この権利を実現するための立法その他の措置を講ずべき責務を負わせたものであり,この子どもの権利に対応して親を中心とした国民全体が子どもを教育する責務を負うものであるが,この責務の遂行を助成するために国に与えられる権能は教育を育成するための諸条件を整備することにあり,国が教育内容に介入することは基本的には許されない。 2 学問の研究者が自らの研究成果に基づき教科書を執筆し出版することもまた憲法21条第1項にいう出版の自由に属する。 3 学校教育法第21条第1項にいう「文部大臣の検定」は,教科用図書の出版に対する事前許可としての法的性格を有するが,検定をするについての審査が執筆者の思想内容に及ぶものでない限り憲法第21条第2項にいう「検閲」に当たらない。 4 教科書検定は,国が福祉国家として児童,生徒の心身の発達段階に応じ必要かつ適切な教育を施し教育の機会均等と教育水準の維持向上を図る責任を果たすための一環として行なうものであるから,その限度において教科書執筆,出版の自由が制約を受けてもそれは公共の福祉の見地からする必要かつ合理的な制限というべきであって,憲法第21条第1項にいう「表現の自由」の侵害にならない。 5 教育基本法第10条の趣旨は,その1,2項を通じ,国の教育行政は教育施設の管理,就学義務の監督その他の教育の外的事項についての条件整備の確立を目標として行なう責務を負うが,教育課程その他の教育の内的事項については指導,助言等は別として一定の限度をこえてこれに権力的に介入することは許されず,このような介入は不当な支配に当たるというにあるから,教科書検定における審査は,教科書の誤記,誤植その他の客観的に明らかな誤り,教科書の造本その他教科書についての技術的事項および教科書の内容が教育課程の大綱的基準の枠内にあるかの諸点にとどめられるべきで,右の限度をこえて教科書の記述内容の当否にまで及ぶときは,検定は教育基本法第10条に違反する。

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