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行政事件 裁判例集

事件番号

 平成16(行ウ)50等

事件名

 国歌斉唱義務不存在確認等請求事件

裁判年月日

 平成18年9月21日

裁判所名

 東京地方裁判所

分野

 行政

判示事項

 1 都立学校に勤務する教職員らが,国旗に向かって起立し,国歌を斉唱すること及び国歌斉唱の際にピアノ伴奏をすることを強制されることは思想,良心の自由,信教の自由,表現の自由,教育の自由等を侵害するものであると主張して,都教育委員会に対してした,都立学校の入学式,卒業式等の式典において国旗に向かって起立し,国歌を斉唱する義務及び国歌斉唱の際にピアノ伴奏をする義務の不存在確認請求並びに前記義務の違反を理由とする処分の事前差止めの訴え(無名抗告訴訟としての差止めの訴え及び行政事件訴訟法3条7項の差止めの訴え)が,いずれも適法とされた事例 2 都立学校に勤務する教職員らが,国旗に向かって起立し,国歌を斉唱すること及び国歌斉唱の際にピアノ伴奏をすることを強制されることは思想,良心の自由,信教の自由,表現の自由,教育の自由等を侵害するものであると主張して,都教育委員会に対してした,都立学校の入学式,卒業式等の式典において国旗に向かって起立し,国歌を斉唱する義務及び国歌斉唱の際にピアノ伴奏をする義務の不存在確認請求並びに前記義務の違反を理由とする処分の事前差止めの請求(無名抗告訴訟としての差止めの請求及び行政事件訴訟法3条7項の差止めの請求)が,いずれも一部認容された事例 3 都立学校に勤務し,又は勤務していた教職員らが,都教育長から都立学校の各校長に対して発せられた,都立学校の入学式,卒業式等の式典における国旗掲揚,国歌斉唱の具体的方法等について詳細かつ一義的に指示する内容の通達及びこれに基づく国歌斉唱の際に国旗に向かって起立し,国歌を斉唱すること及びピアノ伴奏をすることを内容とする各校長の職務命令等が発令されたことによって精神的損害を被ったと主張して,都に対してした国家賠償法1条1項に基づく慰謝料請求が,認容された事例

裁判要旨

 1 都立学校に勤務する教職員らが,国旗に向かって起立し,国歌を斉唱すること及び国歌斉唱の際にピアノ伴奏をすることを強制されることは思想,良心の自由,信教の自由,表現の自由,教育の自由等を侵害するものであると主張して,都教育委員会に対してした,都立学校の入学式,卒業式等の式典において国旗に向かって起立し,国歌を斉唱する義務及び国歌斉唱の際にピアノ伴奏をする義務の不存在確認請求並びに前記義務の違反を理由とする処分の事前差止めの訴え(無名抗告訴訟としての差止めの訴え及び行政事件訴訟法3条7項の差止めの訴え)につき,公的義務の履行によって侵害を受ける権利の性質及びその侵害の程度,違反に対する制裁としての不利益処分の確実性及びその内容又は性質等に照らし,当該処分を受けてからこれに関する訴訟の中で事後的に当該義務の存否及び処分の適否を争ったのでは回復し難い重大な損害を被るおそれがあるなど,事前の救済を認めなければ著しく不相当となる特段の事情がある場合には,紛争の成熟性が認められるから,事前に当該義務の存否の確定及びこれに基づく当該処分の発動の差止めを求める法律上の利益を認めることができ,行政事件訴訟法3条7項並びに37条の4第1項及び第2項の規定も同様の趣旨と解されるところ,前記侵害を受ける権利が思想,良心の自由等の精神的自由権にかかわる権利であり事後的救済には馴染みにくい権利であること,前記教職員らが,都教育長が都立学校長に対して発した通達に基づき,校長から,入学式,卒業式等の式典において国歌斉唱時に起立して国歌を斉唱すること,ピアノ伴奏をすることについての職務命令を受け,これに違反するごとに戒告,減給,停職と回数を重ねるごとに重い処分を受け,前記職務命令を拒否し続けた場合懲戒免職処分を受ける可能性もあること等の事情の下では,事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情及び行政事件訴訟法37条の4第1項に規定する「重大な損害を生ずるおそれ」が認められるとして,前記各請求をいずれも適法とした事例 2 都立学校に勤務する教職員らが,国旗に向かって起立し,国歌を斉唱すること及び国歌斉唱の際にピアノ伴奏をすることを強制されることは思想,良心の自由,信教の自由,表現の自由,教育の自由等を侵害するものであると主張して,都教育委員会に対してした,都立学校の入学式,卒業式等の式典において国旗に向かって起立し,国歌を斉唱する義務及び国歌斉唱の際にピアノ伴奏をする義務の不存在確認請求並びに前記義務の違反を理由とする処分の事前差止めの請求(無名抗告訴訟としての差止めの請求及び行政事件訴訟法3条7項の差止めの請求)につき,前記教職員は,思想,良心の自由に基づき,入学式,卒業式等の式典において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立し,国歌を斉唱することを拒否する自由,ピアノ伴奏をすることを拒否する自由を有しているところ,都教育長から都立学校の各校長に対して発せられた,前記式典における国旗掲揚,国歌斉唱の具体的方法等について詳細かつ一義的に指示する内容の通達並びに職務命令の発令方法,教職員の不起立等の報告方法等前記通達に関する前記教育委員会の前記各校長に対する一連の指導等は,教育の自主性を侵害し,教職員に対し一方的な一定の理論や観念を生徒に教え込むことを強制することに等しく,教育における機会均等の確保と一定の水準の維持という目的のために必要かつ合理的と認められる大綱的な基準を逸脱しており,教育基本法10条1項に規定する「不当な支配」に該当する違法なものである上,前記教職員らが前記国歌斉唱等を拒否したとしても前記式典の進行や国歌斉唱を積極的に妨害することにはならず,ピアノ伴奏も他の代替手段が可能であって,都立学校における教育目的,規律等を害することもなく,生徒,保護者,他の教職員等他者の権利に対する侵害となることもないことから,前記教職員らの都立学校の教職員たる地位を考慮しても,前記通達等に基づき前記教職員らに前記各義務を課すことは必要かつ最少限度の制約を超えるものであって憲法19条に違反するものであり,都教育委員会が,前記教職員が前記通達に基づく各校長の職務命令に従わないことを理由として懲戒処分等をすることは,その裁量権の範囲を超え,若しくはその濫用になると認められるとして,前記各請求をいずれも一部認容した事例 3 都立学校に勤務し,又は勤務していた教職員らが,都教育長から都立学校の各校長に対して発せられた,都立学校の入学式,卒業式等の式典における国旗掲揚,国歌斉唱の具体的方法等について詳細かつ一義的に指示する内容の通達及びこれに基づく国歌斉唱の際に国旗に向かって起立し,国歌を斉唱すること及びピアノ伴奏をすることを内容とする各校長の職務命令等が発令されたことによって精神的損害を被ったと主張して,都に対してした国家賠償法1条1項に基づく慰謝料請求につき,前記職務命令に基づき,前記式典において国旗に向かって起立し,国歌を斉唱する義務及びピアノ伴奏をする義務を負わないにもかかわらず,違法な前記通達及び前記職務命令により,前記式典において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立し,国歌を斉唱するか否か及びピアノ伴奏をするか否かの岐路に立たされたこと,あるいは自らの思想,良心に反して前記通達及び前記職務命令に従わされたことにより精神的損害を被ったことが認められるとして,前記請求を認容した事例

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