裁判例検索

裁判例結果詳細

行政事件 裁判例集

事件番号

 平成17(行コ)13等

事件名

 保育所廃止処分取消等(原審・大阪地方裁判所平成14年(行ウ)第151号等)

裁判年月日

 平成18年4月20日

裁判所名

 大阪高等裁判所

分野

 行政

判示事項

 1 大東市立保育園条例の一部を改正する条例(平成14年大東市条例第23号)の制定により廃止された市立保育所に,その監護する児童を入所させてきた保護者らが,市に対して提起した前記条例の制定による前記保育所の廃止処分の取消しを求める訴えが,前記条例の制定をもって行政処分(前記廃止処分)に当たるとして,適法とされた事例
2 大東市立保育園条例の一部を改正する条例(平成14年大東市条例第23号)の制定により廃止された市立保育所に,その監護する児童を入所させてきた保護者らが,市に対して提起した前記条例の無効確認,無名抗告訴訟としての前記条例に基づく準備行為及び前記保育所における保育の実施の解除の禁止(予防的不作為請求訴訟)並びに前記保育所における保育の実施(義務付け訴訟)を求める訴えが,いずれも訴えの利益がなく不適法とされた事例
3 大東市立保育園条例の一部を改正する条例(平成14年大東市条例第23号)の制定により廃止された保育所に,その監護する児童を入所させてきた保護者らが,市に対し,前記保育所の廃止処分は公法上の契約である保育所利用契約に違反するとしてした,債務不履行に基づく損害賠償請求が,認容された事例
4 大東市立保育園条例の一部を改正する条例(平成14年大東市条例第23号)の制定により廃止された市立保育所に,その監護する児童を入所させてきた保護者らが,市に対してした前記条例の制定による前記保育所の廃止処分の取消請求が,棄却された事例

裁判要旨

 1 大東市立保育園条例の一部を改正する条例(平成14年大東市条例第23号)の制定により廃止された市立保育所に,その監護する児童を入所させてきた保護者らが,市に対して提起した前記条例の制定による前記保育所の廃止処分の取消しを求める訴えにつき,条例の制定は,通常は,一般的,抽象的な規範を定立する立法作用の性質を有するものであり,抗告訴訟の対象となる処分には当たらないが,他に行政庁の具体的処分を経ることなく,当該条例自体によって,その適用を受ける特定の個人の具体的な権利義務に直接影響を及ぼすような例外的な場合には,当該条例の制定行為は行政処分に該当するとした上,前記条例の制定は,他に行政庁の具体的処分を待つことなく施行日をもって前記保育所を廃止し,前記保護者らの権利ないし法的地位に直接具体的な影響を与えるものであるから,行政処分に該当するとして,前記訴えを適法とした事例
2 大東市立保育園条例の一部を改正する条例(平成14年大東市条例第23号)の制定により廃止された市立保育所に,その監護する児童を入所させてきた保護者らが,市に対して提起した前記条例の無効確認,無名抗告訴訟としての前記条例に基づく準備行為及び前記保育所における保育の実施の解除の禁止(予防的不作為請求訴訟)並びに前記保育所における保育の実施(義務付け訴訟)を求める訴えにつき,前記条例の制定行為自体が行政処分に当たるとして取消訴訟を提起することができ,現にそれが提起され,それにより権利救済が図られる以上,これとは別に無効確認を求める訴えの利益はなく,また,同条例に基づく準備行為及び前記保育所における保育の実施の解除の禁止(予防的不作為請求訴訟)並びに同保育所における保育の実施(義務付け訴訟)についても,同様に取消訴訟が提起できる以上,これとは別に無名抗告訴訟としてこれらの訴訟の提起を許容する必要はなく,予防的不作為請求訴訟については,民営化により前記保育所の廃止処分の効果が発生している以上,訴えの利益は失われたとして,前記各訴えをいずれも不適法とした事例
3 大東市立保育園条例の一部を改正する条例(平成14年大東市条例第23号)の制定により廃止された保育所に,その監護する児童を入所させてきた保護者らが,市に対し,前記保育所の廃止処分は公法上の契約である保育所利用契約に違反するとしてした,債務不履行に基づく損害賠償請求につき,市は,保育士の総入替を伴う保育園の廃止,民営化という各児童及びその保護者らの権利内容に大きな影響を及ぼす可能性のある決定を実行するに際しては,移管先の新保育園において各児童が心理的に不安定になることを防止するとともに,保護者らの懸念や不安を少しでも軽減するため,保護者らに対し,引継期間を少なくとも1年程度設定して,新保育園の保育士となる予定者のうちの数名に,保育所における主要な行事等をその過程を含めて見せたり,民営化以降も数ヶ月程度,保育所において実際に児童に対する保育に当たっていた保育士のうち数名を新保育園に派遣するなどの十分な配慮をすべき信義則上の義務(公法上の契約に伴う付随義務)を負っているとした上,前記保育所における引継ぎは期間が3か月のみであり,民営化以降は,前記保育所の元所長1人を週に2,3回程度新保育園に派遣して指導や助言を行ったにすぎず,前記のような十分な配慮を行ったものとは言えず前記義務に違反したとして,前記請求を認容した事例
4 大東市保育園条立例の一部を改正する条例(平成14年大東市条例第23号)の制定により廃止された市立保育所に,その監護する児童を入所させてきた保護者らが,市に対してした前記条例の制定による前記保育所の廃止処分の取消請求につき,平成9年法律第74号による改正後の児童福祉法(平成16年法律第153号による改正前)24条は,改正前の市町村の措置による入所の仕組みから,同改正により,保育所に関する情報の提供に基づき保護者が保育所を選択し,市町村と保護者との間で,保護者が選択した保育所における保育を実施することを内容とする利用契約(公法上の契約)を締結する仕組みに変更されたものであると解されるところ,保護者は,利用契約の存続期間中,当該保育所が存続しているにもかかわらず,その意に反して他の保育所への転園を強要されることなく,当該保育所において保育を受ける権利を有するものであり,同改正後においては,同利用契約は,原則として,当該保育に欠ける児童の就学までをその契約期間とするものと解するのが相当であるが,一方,公の施設の設置,管理及び廃止については,地方公共団体ないしその長の裁量的判断にゆだねられていると解するのが相当であり,その裁量権の行使に逸脱ないし濫用が存した場合には違法となるものと解されるとした上,前記保育所の廃止,民営化に,経費削減効果があることが認められ,市は,前記保育所の廃止,民営化に当たり,相応の移管先を選定し,移管先との間で,遵守事項を定めたり,民営化後も市が引き続き指導,助言,監督をすることを定めたり,3か月の引継ぎを実施するなど,新保育園における保育内容が一応の水準を備えたものとなるための必要最小限度の措置を講じており,前記保護者らは,前記各児童について新保育園での保育の実施を受けることができた以上,前記廃止処分に裁量権の逸脱,濫用があるとまでは認められず,また,児童福祉法(平成16年法律第153号による改正前)33条の4に規定する保育の実施の解除に関する手続や行政手続法に違反せず,前記廃止処分は適法であるとして,前記請求を棄却した事例

全文