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行政事件 裁判例集

事件番号

 平成17(行コ)65

事件名

 介護保険料賦課決定処分取消請求控訴事件(原審・大阪地方裁判所平成14年(行ウ)第136号)

裁判年月日

 平成18年7月20日

裁判所名

 大阪高等裁判所

分野

 行政

判示事項

 1 泉大津市介護保険条例(平成12年泉大津市条例第9号)が,介護保険法9条1号に係る被保険者の介護保険料を同法施行令38条1項で定める区分に従い,所得の多寡に応じて5段階に設定することを規定していることと憲法14条
2 介護保険法及び泉大津市介護保険条例(平成12年泉大津市条例第9号)が低所得者を含めたすべての被保険者に介護保険料を課していることと憲法25条,13条
3 介護保険法134条,135条の規定による介護保険料の特別徴収方式と憲法25条

裁判要旨

 1 泉大津市介護保険条例(平成12年泉大津市条例第9号)が,介護保険法9条1号に係る被保険者の介護保険料を同法施行令38条1項で定める区分に従い,所得の多寡に応じて5段階に設定したことにつき,介護保険料の規定は,保険給付に要する費用の予想額,国及び地方自治体の財政事情並びに被保険者の所得状況等の複雑多様な諸事情を専門技術的な観点から考慮し,政策的判断によって定められるものであり,広く立法機関の裁量にゆだねられているものと解されるところ,介護保険における保険料の5段階設定が,実質的,全体的にみて,応益負担の原則,応能負担の原則のどちらをより重視しているか一概に断定しがたいところであることに加え,低所得者に対して配慮した規定が置かれていることや,個々の国民の生活水準は,現在の収入のみによって決まるものではなく,これまでに蓄積した資産等によっても大きく左右されることにかんがみると,立法機関において裁量権の逸脱又は濫用があり,経済的弱者に対し,合理的な理由のない差別をしたとはいえず,憲法14条に違反しない。
2 泉大津市介護保険条例(平成12年泉大津市条例第9号)が,低所得者を含めたすべての被保険者から介護保険料を徴収することとしたのは,介護保険制度が,高齢者が共通に有する将来の介護リスクに備えて,すべての被保険者から介護保険料を徴収し,その対価として保険給付を行うという社会保険制度であるからであり,その徴収方法には一応の合理性があり,個々の国民の生活水準は,現在の収入のみによって決まるものではなく,これまでに蓄積した資産等によっても大きく左右されるものであること,生活保護受給者については介護保険料相当額を加算した生活扶助が支給されること,本来適用すべき介護保険料を負担すると生活保護が必要な状態になる者についての措置が設けられていること,収入が著しく減少した場合等に介護保険料の徴収を猶予したり,介護保険料を減免する措置が執られていること等により,生活保護法を含む法制度全体をもって具体的に保障されている最低限度の生活を侵害することを抑止していることからすれば,介護保険法及び前記条例が著しく合理性を欠き,立法機関において裁量権の逸脱,濫用があるとはいえず,同法及び前記条例は憲法25条,13条に違反しない。
3 介護保険料の徴収方法については立法府の広い裁量が認められるべきところ,介護保険法134条,135条が規定する介護保険料の特別徴収方式により,介護保険料を確実かつ効率的に徴収することができ,被保険者にとっても,介護保険料の納付の簡易化,介護保険制度の財政安定化による保険給付の確実な提供という利益を享受することもでき,また,介護保険法施行令41条が,老齢又は退職を支給事由とする年金給付額が18万円以上である場合に特別徴収の方法によって徴収するものとして,年金給付額が少なくなりすぎないように配慮していること,特別徴収の対象は,国民年金法25条の公租公課禁止規定の趣旨に配慮して,同法による老齢基礎年金及びこれに相当する年金とされていることを合わせて考えれば,介護保険法が介護保険料の徴収方法として特別徴収方式を定めていることをもって,著しく合理性を欠いたものとはいえず,憲法25条に違反しない。

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