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行政事件 裁判例集

事件番号

 平成16(行ウ)204

事件名

 違法公金支出金返還(住民訴訟)請求事件

裁判年月日

 平成18年6月16日

裁判所名

 東京地方裁判所

分野

 行政

判示事項

 1 都知事及びその秘書の海外出張に係る旅費の支出の日から約2年9か月を経過して住民監査請求がされたことについて,地方自治法242条2項ただし書にいう「正当な理由」があるとはいえないとされた事例 2 都知事らの海外出張に係る旅費に支出の日から約2年6か月を経過して住民監査請求がされたことについて,地方自治法242条2項ただし書にいう「正当な理由」があるとされた事例 3 都知事及びその秘書が海外出張をするに際して,人事委員会との協議を経ずに宿泊料が増額されたことが,都の「職員の旅費に関する条例」(昭和26年東京都条例第76号)に違反して違法であるとして,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,都知事に対して,都知事個人及び前記秘書個人に前記増額部分について不当利得返還請求をすることを求める請求が,認容された事例

裁判要旨

 1 都知事及びその秘書の海外出張に係る旅費の支出の日から約2年9か月を経過して住民監査請求がされたことにつき,地方自治法242条2項ただし書にいう「正当な理由」の有無は,特段の事情がない限り,当該地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきであるところ,財務会計上の行為の法的安定性の要請とその法適合性の確保の要請との調和を図るという同項ただし書の趣旨を考慮すると,都の住民が東京都情報公開条例に基づく開示請求をする端緒となり得る程度に財務会計上の行為の存在及び内容を知ることができたような場合には,当該行為に関する公文書の開示請求をすることもまた,相当の注意力をもってする調査の範囲内に含まれるというべきであるとした上,全国的な一般紙のうち1社が,前記出張の出発日に,同出張の交通費だけでも1000万円程度かかること,同出張先に都知事が趣味としているダイビングスポットがあることなどの事実を報道しているから,同報道がされたころには,都の住民において相当の注意力をもって調査すれば,客観的にみて監査請求をするに足りる程度に前記出張に係る財務会計上の行為の存在及び内容を知ることができたというべきであり,また,前記報道のころに,前記出張に係る財務会計上の行為が記載された文書について前記条例に基づく開示請求をすれば,開示された文書により,客観的にみて監査請求をするに足りる程度に前記出張に係る財務会計上の行為の存在及び内容を知ることができたというべきであるとして,前記住民監査請求に,地方自治法242条2項ただし書にいう「正当な理由」があるとはいえないとした事例 2 都知事らの海外出張に係る旅費に支出の日から約2年6か月を経過して住民監査請求がされたことにつき,地方自治法242条2項ただし書にいう「正当な理由」の有無は,特段の事情がない限り,当該地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきであるところ,財務会計上の行為の法的安定性の要請とその法適合性の確保の要請との調和を図るという地方自治法242条の2項ただし書の趣旨を考慮すると,都の住民が東京都情報公開条例に基づく開示請求をする端緒となり得る程度に財務会計上の行為の存在及び内容を知ることができたような場合には,当該行為に関する公文書の開示請求をすることもまた,相当の注意力をもってする調査の範囲内に含まれるというべきであるとした上,前記出張の時の新聞報道は,都知事が研究所で講演したこと,現地政府要人と会談したこと,出張中はホテルに滞在していたことなどであるから,前記新聞報道の内容からは,前記出張に係る財務会計上の行為の存在を知ることができるとしても,その内容に疑念を抱くことは困難であり,前記条例に基づき前記出張に関する公文書の開示請求をする端緒となり得るものとはいい難く,他方,前記住民監査請求の44日前に掲載された週刊誌の記事は,出張期間中,都知事らがホテルに宿泊し,1泊26万3000円を支出した,との内容等を含むものであり,都の住民において,前記条例に基づき前記出張に関する公文書の開示請求をする端緒となり得る程度にその内容を知ることができたというべきであり,同日から44日後にされた前記住民監査請求に,地方自治法242条第2項ただし書にいう「正当な理由」があるとした事例 3 都知事及びその秘書が海外出張をするに際して,人事委員会との協議を経ずに宿泊料が増額されたことが,都の「職員の旅費に関する条例」(昭和26年東京都条例第76号。以下「旅費条例」という。)に違反して違法であるとして,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,都知事に対して,都知事個人及び前記秘書個人に前記増額部分について不当利得返還請求をすることを求める請求につき,東京都知事等の給料等に関する条例(昭和22年東京都条例第42号。以下「知事等給料条例」という。)3条2項は,旅費の算定方法は,同条例に定めるものを除き,旅費条例の例による旨規定しており,同条例42条2項は,任命権者は旅行者がこの条例の規定による旅費により旅行することが,当該旅行における特別の事情により又は当該旅行の性質上困難である場合には,人事委員会と協議して定める旅費を支給することができる旨規定しているところ,「例による」とは,知事等給料条例は,旅費の算定方法については旅費条例を包括的に借用しているものであることなどからすれば,特別職の公務員につき,知事等給料条例に定められた宿泊料を超える額の宿泊料を支給する場合,人事委員会との協議を経る必要があるというべきであり,同協議を経ずに支出された宿泊料のうち知事等給料条例に定められた宿泊料を超える額の支給は違法であり,事後的に人事委員会との協議を経たとしても,瑕疵が治ゆされたとはいえないとして,前記請求を認容した事例

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