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行政事件 裁判例集

事件番号

 平成17(行ウ)309等

事件名

 助成金支給決定等請求事件,訴えの追加的併合事件

裁判年月日

 平成18年9月12日

裁判所名

 東京地方裁判所

分野

 行政

判示事項

 1 独立行政法人雇用・能力開発機構が,中小企業における労働力の確保及び良好な雇用の機会の創出のための雇用管理の改善の促進に関する法律(平成3年法律第57号)等の規定に基づき,雇用安定事業として行う中小企業基盤人材確保助成金の支給,不支給の決定が,抗告訴訟の対象となる「処分」に当たらないとされた事例 2 独立行政法人雇用・能力開発機構が,中小企業における労働力の確保及び良好な雇用の機会の創出のための雇用管理の改善の促進に関する法律(平成3年法律第57号)等の規定に基づき,雇用安定事業として行う中小企業基盤人材確保助成金の支給を受けられる地位の確認を求める訴えが,適法とされた事例 3 独立行政法人雇用・能力開発機構が,中小企業における労働力の確保及び良好な雇用の機会の創出のための雇用管理の改善の促進に関する法律(平成3年法律第57号)等の規定に基づき,雇用安定事業として行う中小企業基盤人材確保助成金の支給を受けられる地位の確認請求が,認容された事例

裁判要旨

 1 独立行政法人雇用・能力開発機構が,中小企業における労働力の確保及び良好な雇用の機会の創出のための雇用管理の改善の促進に関する法律(平成3年法律第57号)等の規定に基づき,雇用安定事業として行う中小企業基盤人材確保助成金の支給,不支給の決定につき,前記助成金の給付のような非権力的作用に属する行為の場合であっても,法が,一定の者に当該助成金の給付に関する申請権を与えるとともに,行政庁が,申請権を有する者の申請に基づき,支給,不支給の決定をして当該申請者の受給権の存否を判断するという手続を採用している場合には,当該支給,不支給の決定行為は,行政庁が,優越的地位に基づき,当該申請者の権利義務を直接に形成し,又はその範囲を確定する行為としての性質を有するものといえるから,抗告訴訟の対象となる「処分」に当たるものと解されるところ,前記独立行政法人は,法律上,雇用保険法施行規則の定めに従って前記助成金の支給事業を行うことを義務付けられており,その際,個々の認定中小企業者に対して助成金を実際に支給するかどうかは,事業主体である前記独立行政法人の判断にゆだねられているものと解することができるが,前記助成金の支給手続に関して定めた法令の規定はなく,認定中小企業者による支給申請とこれに対する支給決定によって具体的な給付請求権が発生するという仕組みは,前記独立行政法人の作成した実施要領の中においてのみ規定されているものであり,前記助成金の支給決定が,申請者の申請に基づき,行政庁の優越的地位に基づく行為として行われることを予定していることをうかがわせるような法令の規定は存在しないことから,前記助成金の支給,不支給の決定は,これにより直接に国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが法律上認められているものとはいえず,抗告訴訟の対象となる「処分」に当たらないとした事例 2 独立行政法人雇用・能力開発機構が,中小企業における労働力の確保及び良好な雇用の機会の創出のための雇用管理の改善の促進に関する法律(平成3年法律第57号)等の規定に基づき,雇用安定事業として行う中小企業基盤人材確保助成金の支給を受けられる地位の確認を求める訴えにつき,前記助成金支給のような行為は,贈与契約という形式で行われるとしても,行政目的を実現するためのものであって,公益的性格を有していることは明らかであるから,純然たる私法上の契約とは異なり,契約自由の原則について一定の制約が課されるのであり,特に前記助成金に関しては,雇用保険法施行規則(平成18年厚生労働省令第71号による改正前)118条3項1号が,一定の要件を満たした者に対しては一律にこれを支給することを予定しているものと解され,平等取扱いの要請が働くことは明らかであるとした上,前記独立行政法人が前記助成金の支給事業を行うに当たっての基準として実施要領を定めた以上,これに定められた支給要件に該当する申請者に対しては,平等に前記助成金を支給しなければならない義務を負うものと解すべきであり,また,このような平等取扱いの要請は,究極的には憲法14条に基づくものであるということも可能であることを考慮すると,単なる行政機関の内部的義務にとどまるものと解するのは相当ではなく,これによる平等取扱いの利益は,国民である申請者の利益としても保護されたものと解すべきであり,前記助成金の支給を受けられる地位の確認訴訟を提起することは,助成金支給の要否をめぐる問題を解決するための適切な手段であるといえ,他に適切な解決手段も存在しないことから,確認の利益を肯定することもできるとして,前記訴えを適法とした事例 3 独立行政法人雇用・能力開発機構が,中小企業における労働力の確保及び良好な雇用の機会の創出のための雇用管理の改善の促進に関する法律(平成3年法律第57号)等の規定に基づき,雇用安定事業として行う中小企業基盤人材確保助成金の支給を受けられる地位の確認請求につき,同独立行政法人は法律上,雇用保険法施行規則の定めに従って前記助成金の支給事業を行うことを義務付けられているから,同施行規則(平成18年厚生労働省令第71号による改正前。以下同じ。)118条3項の規定に違反する同独立行政法人が作成した「中小企業における労働力の確保及び良好な雇用の機会の創出のための雇用管理の改善の促進のための情報の提供,相談その他の援助等実施要領」(平成16年要領第8号)の規定は無効となるものというべきであるところ,同実施要領78条3号は,同施行規則118条3項1号ホが,前記助成金の支給対象者の要件として,「認定計画に係る新分野進出等に要する費用が,300万円以上である認定中小企業者であること。」と規定していることを受け,同施行規則にいう「新分野進出等に要する費用」の範囲について,「法人とその代表者」間の取引等による費用については「原則として」除外すると定めるものであるが,法人とその代表者間の取引であっても実質を伴った正当な取引は存在するのであり,そのようなものまで一律に除外するのは同施行規則の趣旨に反するものといわざるを得ず,当該除外規定は,法人が正当に支出したものであることの証明のない費用のみを除外する趣旨に限定解釈することによって,初めて有効な規定と扱うことができるものというべきであるとした上,前記助成金を申請した会社の代表者が,会社設立後に使用する事務所の賃貸借契約を締結して賃料等を支払い,後に賃貸人の承諾を得て賃借人の地位が代表者から会社に変更されたことに伴って,会社から立替経費として代表者に支払われた当該賃料等については,直接には「法人とその代表者」間の取引により支出した費用ではあるものの,実質的には第三者である賃貸人との間の正当な契約に基づく事務所使用の対価として負担したものであって,前記実施要領78条3号の除外規定は適用されず,当該賃料等は,同号にいう「新分野進出等に伴う事業の用に供するための施設又は設備等の設置・整備に要する費用」に含まれ,前記申請者は同号の要件に該当するとして,前記請求を認容した事例

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