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行政事件 裁判例集

事件番号

 平成15(行ウ)20等

事件名

 原爆症認定申請却下処分各取消等

裁判年月日

 平成19年1月31日

裁判所名

 名古屋地方裁判所

分野

 行政

判示事項

 1 原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(一部の者につき平成11年法律第160号による改正前)11条1項に基づく原爆症認定の各申請に対し,厚生労働大臣(前記一部の者については厚生大臣(当時))が申請者の疾病等には放射線起因性がないとしてした,前記各申請を却下する旨の処分の取消請求が,いずれも認容された事例 
2 原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項に基づく原爆症認定の各申請に対し,厚生労働大臣が申請者の疾病等には放射線起因性がないとしてした,前記各申請を却下する旨の処分の取消請求が,いずれも棄却された事例

裁判要旨

 1 原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(一部の者につき平成11年法律第160号による改正前)11条1項に基づく原爆症認定の各申請に対し,厚生労働大臣(前記一部の者については厚生大臣(当時))が申請者の疾病等には放射線起因性がないとしてした,前記各申請を却下する旨の処分の取消請求につき,同法は,被爆者の健康被害の程度,状況に応じた各援護策を設け,その給付すべき要件を設定していること,これらのうち,とりわけ原爆症認定を要する医療給付にあっては,放射線起因性及び要医療性が要件とされ,かかる放射線起因性については,健康管理手当や介護手当のように放射線被曝との間の因果関係の認定程度を軽減する規定も定められておらず,また,その判断に当たっては,同法11条2項により厚生労働大臣が専門家による意見を聴取するものとされていること,同法のこれらの構成及び規定内容によれば,同法は,放射線起因性の有無について,現時点における科学的,医学的な専門的知見を総合して,被爆者に生じた負傷又は疾病,あるいはその者の治癒能力への影響が,放射線の傷害作用に起因するものであることが,高度の蓋然性をもって証明されることを要求していると解すべきであって,その判断基準として,原爆放射線の線量評価システム(DS86)に基づいて算定された初期放射線の被曝線量と,大規模な疫学的な解析結果に基づいて作成された原因確率論を採用することは,不合理であるとはいえないが,原爆投下後に実施された調査によっては放射性降下物や誘導放射能を十分に把握できず,それらによる被曝の影響を考慮すべきであることを推認させる調査結果や知見等には十分な根拠があり,また,疫学調査における各種の誤差要因の存在も否定できないところであり,放射性降下物や誘導放射能による被曝の影響や程度については,原爆投下後の個々の被爆者の被曝態様,被爆後の行動のほか,原爆症認定申請に至るまでの病歴等から推認せざるを得ないものであるところ,原子爆弾被爆者医療分科会が策定した「原爆症認定に関する審査の方針」が採用する原因確率論のみを形式的に適用して被爆者らの負傷及び疾病の放射線起因性の有無を判断したのでは,その因果関係の判断が実態を反映せず,誤った結果を招来する危険性があるといわなければならないのであり,各被爆者の負傷又は疾病について放射線起因性の有無を判断するに際しては,原因確率論には種々の誤差要因が内在していることを踏まえた上で,前記原因確率をしん酌するとともに,個々の被爆者ごとの被爆時の状況や被爆後の行動,被爆前後の健康状態,被爆後の急性症状や疾病の発症状況,その他の推移等の個別,具体的な事情を考慮して判断をする必要があるというべきであるとした上,広島への原爆投下の約2時間後に同市に入ったいわゆる入市被爆者である当時18歳の男性がした申請疾病を甲状腺術後機能低下症とする原爆症認定の申請について,その原因疾患である悪性リンパ腫は,同人の被爆症状や急性症状,疾病の部位,内容,発症時期,それらの経緯等に照らし,原爆放射線被曝の影響によって発症したと認めるのが相当であり,また,広島の爆心地から約1.7キロメートルの遮蔽物のない校庭で被曝した当時11歳の女性がした申請疾病を慢性腎不全,膵嚢胞,多発性脳梗塞,右副腎腫瘍及び限局性強皮症とする申請について,慢性腎不全及び多発性脳梗塞は,同人の被曝時の年齢,被曝線量,これらの疾病を罹患するに至った経緯,病歴及びその推移等を考慮すると,原爆放射線の影響によって発症したものと認めるのが相当であるとして,前記各請求をいずれも認容した事例 
2 原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項に基づく原爆症認定の各申請に対し,厚生労働大臣が申請者の疾病等には放射線起因性がないとしてした,前記各申請を却下する旨の処分の取消請求につき,同法は,被爆者の健康被害の程度,状況に応じた各援護策を設け,その給付すべき要件を設定していること,これらのうち,とりわけ原爆症認定を要する医療給付にあっては,放射線起因性及び要医療性が要件とされ,かかる放射線起因性については,健康管理手当や介護手当のように放射線被曝との間の因果関係の認定程度を軽減する規定も定められておらず,また,その判断に当たっては,同法11条2項により厚生労働大臣が専門家による意見を聴取するものとされていること,同法のこれらの構成及び規定内容によれば,同法は,放射線起因性の有無について,現時点における科学的,医学的な専門的知見を総合して,被爆者に生じた負傷又は疾病,あるいはその者の治癒能力への影響が,放射線の傷害作用に起因するものであることが,高度の蓋然性をもって証明されることを要求していると解すべきであって,その判断基準として,原爆放射線の線量評価システム(DS86)に基づいて算定された初期放射線の被曝線量と,大規模な疫学的な解析結果に基づいて作成された原因確率論を採用することは,不合理であるとはいえないが,原爆投下後に実施された調査によっては放射性降下物や誘導放射能を十分に把握できず,それらによる被曝の影響を考慮すべきであることを推認させる調査結果や知見等には十分な根拠があり,また,疫学調査における各種の誤差要因の存在も否定できないところであり,放射性降下物や誘導放射能による被曝の影響や程度については,原爆投下後の個々の被爆者の被曝態様,被爆後の行動のほか,原爆症認定申請に至るまでの病歴等から推認せざるを得ないものであるところ,原子爆弾被爆者医療分科会が策定した「原爆症認定に関する審査の方針」が採用する原因確率論のみを形式的に適用して被爆者らの負傷及び疾病の放射線起因性の有無を判断したのでは,その因果関係の判断が実態を反映せず,誤った結果を招来する危険性があるといわなければならないのであり,各被爆者の負傷又は疾病について放射線起因性の有無を判断するに際しては,原因確率論には種々の誤差要因が内在していることを踏まえた上で,前記原因確率をしん酌するとともに,個々の被爆者ごとの被爆時の状況や被爆後の行動,被爆前後の健康状態,被爆後の急性症状や疾病の発症状況,その他の推移等の個別,具体的な事情を考慮して判断をする必要があるというべきであるとした上,長崎の爆心地から約3.1キロメートルの造船所の事務所内で被曝した当時18歳の女性がした申請疾病を両眼白内障とする原爆症認定の申請について,同人には急性症状様の症状が現れており,その被曝線量は上記審査の方針による数値にはとどまらないと解されるものの,同人の白内障の発症時期及び症状等,同人の既往歴の内容に照らすと,白内障について放射線起因性についての高度の蓋然性があると認めることは困難であり,また,広島の爆心地から約1.5キロメートルの兵舎内で被曝した当時20歳の男性がした申請疾病を嚢胞性膵腫瘍(膵嚢胞)とする原爆症認定の申請について,同人には急性症状が現れており,その被曝線量は相当の高線量だったと推認できるものの,放射線被曝によって膵臓組織に何らかの異常が生じることを認めるに足りる医学的知見は見当たらず,膵臓がんや良性腫瘍一般の放射線起因性に関する医学的知見に照らしても膵嚢胞の放射線起因性を認めることはできないなどとして,前記各請求をいずれも棄却した事例

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