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行政事件 裁判例集

事件番号

 昭和57(行コ)21等

事件名

 運動場一部廃止決定無効確認等請求控訴,同附帯控訴,慰霊祭支出差止請求控訴事件(原審・大阪地方裁判所昭和51年(行ウ)第9号,同52年(行ウ)第49号の1)

裁判年月日

 昭和62年7月16日

裁判所名

 大阪高等裁判所

分野

 行政

判示事項

 1 地元出身戦没者の慰霊のために建てられた忠魂碑が,右戦没者の慰霊,顕彰のための記念碑であり,天皇制絶対主義,軍国主義思想を表現,宣伝するものではなく,また,宗教施設ないしその物的要素としての宗教的性格を有するものでもないとして,市が,市遺族会の所有する右忠魂碑を移設するために,市土地開発公社から土地を買い受けた上,同土地上に右忠魂碑を移設・再建し,その敷地を市遺族会に無償で貸与している行為が,憲法前文,1条,9条,20条3項等に違反するものではないとされた事例
2 憲法89条前段及び20条1項後段の趣旨 
3 憲法89条前段にいう「宗教上の組織若しくは団体」及び20条1項後段にいう「宗教団体」の意義 
4 市遺族会は,戦没者遺族の相互扶助,福祉向上及び英霊の顕彰を主たる目的とし,宗教の信仰,礼拝又は普及等宗教的活動を目的としない日本遺族会の下部組織として,その会員の慰問激励,福祉向上を目的として結成され,活動しているものであり,毎年定期的に挙行する神式又は仏式の慰霊祭,靖国神社への参拝等宗教にかかわり合いのある1部の行為は,右目的を遂行するための手段,方法として行われているにすぎず,神道,仏教の信仰自体を目的とするものではなく,また,右行為が右市遺族会の存立に必要不可欠とまではいえないから,憲法89条前段にいう「宗教上の組織若しくは団体」又は20条1項後段にいう「宗教団体」に当たらないとした事例 
5 市が,市遺族会が所有する地元出身戦没者の慰霊のための忠魂碑を移設するために市土地開発公社から土地を買い受けた上,同土地上に右忠魂碑を移設・再建し,その敷地を市遺族会に無償で貸与したことが違憲,違法であるとして,地方自治法242条の2第1項3号に基づき提起された,市長の,市遺族会に対する右忠魂碑の収去及びその敷地の明渡請求を怠る事実並びに土地開発公社に対する右土地売買代金の返還請求を怠る事実の各違法確認請求が、いずれも棄却された事例 
6 地元出身戦没者の慰霊のために建てられた忠魂碑の移設事業の計画,決定及び執行が違憲,違法であるとして,地方自治法242条の2第1項4号前段に基づき提起された市教育長及び市教育委員各個人に対する損害賠償請求訴訟が,右事業の計画,決定及び執行のうち右忠魂碑移設のためにする土地の取得,同土地の貸与等の行為は,財務会計上の行為に当たるが,これらは,いずれも市長の権限に属するものであり,市教育長及び市教育委員にはその権限がないから,被告適格を欠く者を相手方とするものであり,不適法とされた事例 
7 忠魂碑の移設事業の計画,決定及び執行が違憲,違法であるとして,地方自治法242条の2第1項4号前段に基づき提起された市長個人を被告とする損害賠償請求訴訟が,右事業の計画,決定及び執行のうち財務会計上の行為に違憲,違法の点はないから,理由がないとされた事例 
8 忠魂碑の移設事業の計画,決定及び執行は,市長,市教育長及び市教育委員の共同意思による債務不履行ないし不法行為に当たるところ,市は右債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償請求を怠っているとして,地方自治法242条の2第1項4号後段に基づき提起された市長,市教育長及び市教育委員各個人に対する損害賠償請求が,法令上,右事業の計画,決定及び執行の各行為につき右共同意思を認めるべき余地はなく,また,右移設計画等に違憲,違法の点もないから,理由がないとされた事例 
9 市長が,市遺族会主催の神式及び仏式による慰霊祭の挙行又はその準備のために,市の財産である会議室,事務用紙,マイクロバス等を提供したことが違法な財産の管理に当たるとして,地方自治法242条の2第1項4号前段に基づき提起された市長個人に対する損害賠償請求訴訟が,右各財産の管理事務の執行権限は,市規則により下部職員に委任されており,右市長にはその執行権限はないから,右市長は右規定にいう「当該職員」に当たらないとして、不適法であるとされた事例 
10 市長から権限を外部的に委任された下部職員による市の財産の管理につき,市長が指揮監督権限を適正に行使しなかったことは債務不履行ないし不法行為に当たるところ,市は右債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償請求を怠っているとして,地方自治法242条の2第1項4号後段に基づき提起された市長個人に対する損害賠償請求が,市長に債務不履行ないし不法行為はなく,また,市に損害は発生していないとして,理由がないとされた事例 
11 市遺族会主催の神式及び仏式による慰霊祭の開催準備,挙行のための事務に従事し,又はこれに参列した市職員に対してした右各行為に要した時間に相当する分の給与の支払が違法な公金の支出に当たるとして,地方自治法242条の2第1項4号前段に基づき提起された市長個人に対する損害賠償請求及び,市長が右市職員らに右業務に従事することを指揮命令し,又はこれを防止する権限と義務を有しながらこれを怠ったことによる損害賠償の請求を市が怠っているとして,同号後段に基づき提起された市長個人に対する損害賠償請求が,各職員の給与額や右業務に充てた勤務時間を具体的に特定するための主張立証がないとして,失当とされた事例 
12 憲法における政教分離原則 
13 憲法20条3項にいう「宗教的活動」の意義 
14 市教育長が市遺族会主催の神式及び仏式による慰霊祭に参列して玉ぐし奉納及び祭壇前での焼香をした行為は,その目的及び効果に照らし,信教の自由を制度的に保障すべき相当の限度を超えたものとして憲法20条1項後段,89条に違反するものとはいえず,また,その目的が宗教的意義を持ち,かつ,その効果が宗教に対する援助,助長若しくは促進又は圧迫,干渉等になるような行為であるとはいえないから,同法20条3項にいう「宗教的活動」に当たらないとした事例 
15 市遺族会主催の神式及び仏式による慰霊祭に参列した市教育長に対してした右参列に要した時間に相当する分の給与の支払が憲法20条1項後段,3項,89条に違反するとして,地方自治法242条の2第1項4号前段に基づき提起された市長個人に対する損害賠償請求が,右市教育長の行為は,市遺族会に対する社会的儀礼行為として相当性を有する公的行為であるから,右給与の支払が過払又は違法な公金の支出に当たるとはいえないとして,棄却された事例 
16 市教育委員会が市遺族会主催の神式及び仏式による慰霊祭の挙行又はその準備のためにその会場とされた市立小学校の施設等の教育財産を市遺族会に使用させたのは,同委員会を構成する委員が教育財産の管理を怠ったことになるとして,地方自治法242条の2第1項4号前段に基づき提起された市教育長及び市教育委員各個人に対する損害賠償請求が、市立の小,中学校の施設の貸与については,特に「定例軽易」な貸与に限って,地方教育行政の組織及び運営に関する法律14条1項,33条1項に基づき制定された市学校管理規則により,当該学校長に委任されているから,右教育財産の市遺族会への貸与は,当該学校長が独自の権限に基づいてしたものであって,市教育委員会の権限に基づくものではないとして,排斥された事例 
17 市教育委員会が,市遺族会主催の神式及び仏式による慰霊祭の会場とされた小学校の校長が右の慰霊祭の挙行又はその準備のために同校の施設等の教育財産を市遺族会に使用させたり使用の許可をしたことを放任したことは,同委員会を構成する委員が教育財産の管理を怠ったことになるとして,地方自治法242条の2第1項4号前段に基づき提起された市教育長及び市教育委員各個人に対する損害賠償請求が,右教育用財産の貸与は,同校長が市学校管理規則に則ってしたものであり,その裁量権を逸脱していたものであるともいえないから,市育委員会が右教育用財産の貸与を放任してその監督責任を怠ったものとはいえないとして,排斥された事例 
18 市教育委員らが,市遺族会主催の神式及び仏式による慰霊祭に市教育長が参列したことにつき,これを指揮命令し又はその監督義務を怠り,同教育長が右慰霊祭への参列に要した時間に相当する給与を市に過払させたことによる損害賠償請求を市が怠っているとして,地方自治法242条の2第1項4号後段に基づき提起された市教育委員各個人に対する損害賠償請求が,棄却された事例 
19 市教育長が,市遺族会主催の神式及び仏式による慰霊祭への参列に要した時間に相当する給与を法律上の原因なく受領したにもかかわらず,市がその返還請求を怠っているとして,地方自治法242条の2第1項4号後段に基づき提起された同教育長個人に対する右慰霊祭への参列に要した時間に相当する給与相当額の不当利得返還請求が,棄却された事例

裁判要旨

 2 憲法89条前段及び20条1項後段の規定は,同法20条1項前段所定の信教の自由そのものを直接保障するものではなく,国家と宗教との分離を制度として保障することにより,間接的に信教の自由の保障を確保しようとするものであるから,国が財政的,社会的,文化的に宗教とのかかわり合いを持つことを全く許さない趣旨ではなく,国が特定の宗教団体に対し,財政的,社会的,文化的な援助を行うことにより,特定の宗教を選別し,国教を認めるという事態が生じ,ひいては信教の自由を侵害する結果に至ることにかんがみ,右のような特定の宗教団体に対する財政的援助等及び特権の付与を禁止したものである。 
3 憲法89条前段にいう「宗教上の組織若しくは団体」及び20条1項後段にいう「宗教団体」とは,宗教的活動を目的とする団体をいい,右目的を有しない団体が,その本来の事業目的を遂行する上で,臨時的又は定期的に宗教的行事ないし宗教にかかわり合いのある行為を企画,実行しているとしても,これを直ちに右「宗教上の組織若しくは団体」及び「宗教団体」に当たると解するのは相当ではない。 
12 憲法20条1項後段,同条3項,89条のいわゆる政教分離原則は,国又は地方公共団体が宗教とのかかわり合いを持つことを全く許さないとするものではなく,そのかかわり合いの程度が,我が国の社会的,文化的緒条件に照らし,国民の信教の自由の保障を確保するという制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものと認められる場合に限り,これを許さないとするものである。 
13 憲法20条3項にいう「宗教的活動」とは,国及びその機関の活動で宗教とのかかわり合いを持つすべての行為を指すものではなく,当該行為の目的が宗教的意義を持ち,その効果が宗教に対する援助,助長若しくは促進又は圧迫,干渉等になるような行為をいう。

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