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行政事件 裁判例集

事件番号

 昭和52(行ウ)49

事件名

 損害賠償請求事件

裁判年月日

 昭和63年10月14日

裁判所名

 大阪地方裁判所

分野

 行政

判示事項

 1 地方自治法242条の2の規定に基づく住民訴訟の原告は,訴えの提起時だけではなく,訴訟係属中も当該地方公共団体の住民たる資格を要するから,訴訟係属中に住民の資格を失った場合には,原告適格を欠くに至るとした事例 
2 憲法89条前段,20条1項後段の政教分離規定の趣旨 
3 憲法89条前段にいう「宗教上の組織若しくは団体」及び同法20条1項後段にいう「宗教上の団体」の意義 
4 日本遺族会は,靖国神社を崇敬するという共通の意見を持った遺族の集合体ではなく,同神社の教義とこれに対する信仰を広める宗教的活動を目的とする団体であるとみることはできないから,憲法89条前段にいう「宗教上の組織若しくは団体」あるいは同法20条1項後段にいう「宗教団体」に当たらず,また,市遺族会も,その支部としての性格において,「宗教上の組織若しくは団体」あるいは「宗教団体」に当たるということはできないとした事例 
5 市遺族会は,地元戦没者の慰霊のために建てられた忠魂碑前での慰霊祭の挙行,靖国神社参拝旅行等といった宗教にかかわる事業活動を行っているものの,専ら宗教にかかわる事業活動のみを目的とする団体とはいえず,また,右のような宗教にかかわる事業も,特定の宗教の教義,信仰,特に靖国神社の信仰の布教,拡大を目的とするものではなく,専ら戦没者遺族の精神的慰謝を目的とするものであるから,市遺族会それ自体の性格からしても,宗教的活動を目的とする団体とはいえず,信仰について意見の一致する者の組織体ということも困難であるとして,憲法89条前段にいう「宗教上の組織若しくは団体」あるいは同法20条1項後段にいう「宗教団体」に当たらないとした事例 
6 憲法20条3項にいう「宗教的活動」の意義 
7 市が市遺族会に対して補助金を支出したこと及び市長の指揮命令に基づき市の一般職職員が市遺族会の書記事務に従事したことが,その目的は,市遺族会に対し,遺族の福祉増進の見地から援助を行うという専ら世俗的なものであり,その効果も,市遺族会を援助することによって,間接的に市遺族会の行う宗教にかかわる活動にも援助の効果が及ぶというものにすぎず,特定の宗教を援助,助長,促進し,又は他の宗教に圧迫,干渉を加えるものとは認められないから,右各行為は,宗教とのかかわり合いが,わが国の社会的文化的諸条件に照らし,信教の自由の保障の確保という制度との根本目的との関係でいまだ相当とされる限度を超えるものとは認め難いとして,憲法20条3項により禁止される宗教的活動には当たらないとされた事例 
8 市の市遺族会に対する補助金交付が,市社会福祉協議会を介在させて行われたとしても,右補助金は,実質的にみて,市から市遺族会に直接交付されたものと評価,判断すベきものであって,右市社会福祉協議会を介在させたのは,単に,補助金を各種団体に対して合理的に配分するための手段とする趣旨に出たものにすぎないから,市から市社会福祉協議会への補助金交付の手続につき,社会福祉事業法56条1項所定の条例が欠缺しているという瑕疵があるとしても,右瑕疵は,市から市遺族会への右補助金交付の適法性及び効力に影響を及ぼすものではないとした事例 
9 憲法89条後段にいう「慈善,博愛の事業」の意義 
10 市遺族会の事業は,戦没者遺族一般の福祉向上に寄与しているという面で公益性を有するが,右福祉増進の対象は,市遺族会の会員たる遺族ら及びそれと同様な地位,立場にある遺族らであって,そのような同質的な集団を超えて,対外的に社会的弱者に対する援助活動を行ってはいないから,市遺族会の活動は,憲法89条後段にいう「慈善,博愛の事業」には当たらないとした事例 
11 地方自治法232条の2の「公益上の必要性」の判断基準 
12 市が市遺族会に対して補助金を支出したこと及び市の一般職職員が市遺族会の書記事務に従事したことが,その趣旨・目的や,市遺族会の過去における公益活動の実績と公益活動計画,公益外活動の程度等を総合考慮し,また,市遺族会及びそれがその組織の一部となっている日本遺族会は,反憲法的,反公益的性格を有する活動をする団体とはいえないということをも考え合わせると,地方自治法232条の2にいう「公益上の必要性」に基づくものであるとされた事例 
13 市が市の一般職職員をして市遺族会の事務処理に従事させたことにつき,右事務処理は,地方自治法232条の2に基づく公益上の必要がある補助であって,地方公共団体の処理すベき事務として適法であるから,市の右行為に地方公務員法35条の職務専念義務に違反する違法はないとした事例 
14 市の市遺族会に対する補助金の交付に,箕面市補助金交付規則(昭和46年箕面市規則第2号)に違反するという瑕疵があるとしても,右手続的瑕疵は,市から市遺族会への右補助金交付の適法性に影響を及ぼすものではないとした事例 
15 市が忠魂碑前での慰霊祭の挙行等を行う市遺族会に対し補助金を交付したこと等が,憲法20条1項後段,89条前段,20条3項,89条後段等に違反するなどとして地方自治法242条の2第1項4号に基づき提起された市長個人に対する損害賠償請求が,いずれも理由がないとして棄却された事例

裁判要旨

 2 憲法89条前段,20条1項後段の政教分離規定は,憲法20条1項前段の定める信教の自由そのものを直接保障するものではなく,国家と宗教との分離を制度として保障することにより,間接的に信教の自由の保障を確保しようとするものであるから,国が財政面
社会面・文化面において宗教とのかかわり合いを持つことを全く許さないとする趣旨ではなく,国が特定の宗教団体に財政的・社会的・文化的な援助をすることにより国が特定の宗教を選別し,国教を認めるという事態が生じ,ひいては信教の自由を侵害する結果に至ることにかんがみ,右援助・特権の付与を禁止したものである。 
3 憲法89条前段にいう「宗教上の組織若しくは団体」及び同法20条1項後段にいう「宗教団体」とは,信仰についての意見の一致する者によって結成された,宗教的活動を目的とする団体である。 
6 憲法20条3項にいう「宗教的活動」とは,国及びその機関の活動で宗教とのかかわり合いを持つすベての行為を指すものではなく,当該行為の目的が宗教的意義をもち,その効果が宗教に対する援助,助長,促進又は圧迫,干渉等になるような行為をいう。 
9 憲法89条後段にいう「慈善,博愛の事業」とは,肉体的又は経済的な弱者(老幼者・病人・貧困者等)を,宗教的あるいは人道的な見地から,主として物質的に援助する事業をいう。 
11 地方自治法232条の2の公益上の必要性の判断に当たっては,その補助金支出の趣旨・目的,補助金を交付される団体の目的・活動状況,右団体の過去における公益活動の実績・公益活動計画と公益外活動の程度等を検討し,当該補助金が,その団体の公益活動にどの程度役立つか,団体の公益外活動に流れるおそれがないか等諸般の利害得失を比較総合して判断するベきである。

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