裁判例結果詳細
行政事件 裁判例集
- 事件番号
平成19(行コ)67
- 事件名
行政文書一部不開示決定取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成15年(行ウ)第467号)
- 裁判年月日
平成19年11月16日
- 裁判所名
東京高等裁判所
- 分野
行政
- 判示事項
1 抗癌剤「イレッサ錠250」に係る医薬品輸入承認申請書の添付書類である反復投与毒性試験(動物実験)に関する資料に記載された実験施設及びその部署の名称並びにその住所,電話番号,ファックス番号及びメールアドレスの情報が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条2号イに規定する情報に該当するとされた事例
2 抗癌剤「イレッサ錠250」に係る医薬品輸入承認申請書の添付書類である反復投与毒性試験(動物実験)に関する資料に記載されたプロトコール(治験実施計画書)承認日,初回投与日,最終剖検日,報告日及び署名日その他の日付の情報が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条2号イに規定する情報に該当するとされた事例
3 抗癌剤「イレッサ錠250」に係る医薬品輸入承認申請書の添付書類である反復投与毒性試験(動物実験)に関する資料に記載された査察日及び査察項目の情報が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条2号イに規定する情報に該当するとされた事例
4 抗癌剤「イレッサ錠250」に係る医薬品輸入承認申請の添付書類である第1相及び第2相臨床試験に関する資料に記載された情報の一部が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条2号イに規定する情報に該当するとされた事例
5 抗癌剤「イレッサ錠250」に係る医薬品輸入承認申請の添付書類である第1相及び第2相臨床試験に関する資料に記載された情報の一部が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条2号ただし書に規定する情報に該当しないとされた事例
- 裁判要旨
1 抗癌剤「イレッサ錠250」に係る医薬品輸入承認申請書の添付書類である反復投与毒性試験(動物実験)に関する資料に記載された実験施設及びその部署の名称並びにその住所,電話番号,ファックス番号及びメールアドレスの情報は,法人等に関する情報であって,企業グループがイレッサ錠250の承認申請に必要な毒性試験,動物実験を委託し,これを実施した施設が特定されるものであり,試験を委託した企業グループ,受託し,これを実施した施設である法人等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるかが問題となるが,前記添付資料に記載された実験施設を特定する前記各情報が開示された場合,そこに記載されたのと類似の試験を他の製薬会社が実施するに当たって,前記実験施設を試験の委託先の候補に加えるほか,これを実際の委託先に決定することも考えられ,実験施設の選定に有益な情報の蓄積が十分ではなく,あるいは,企業グループと同等の蓄積がない製薬会社からすれば,開示された実験施設に関する情報を利用して,試験の委託,ひいては,新薬の開発をより迅速かつ効率的に進めることが可能になるといえる反面,企業グループとしては競合する医薬品が早期に市場で売り出されることにより,自身の売上げ,利益が減少し,相対的に競争力の低下という事態を招きかねないし,また,前記情報は,その開示がされたとしても,毒性試験に関与した施設が開示されることになるだけであって,そのことから直ちに毒性試験の正確性や信憑性の検証が可能となるわけではなく,逆に,その開示がなければ,イレッサの安全性の評価ができないという関係にある情報でもないから,前記情報は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条2号ただし書所定の情報にも該当しないとして,前記情報は,同号イに規定する情報に該当するとした事例
2 抗癌剤「イレッサ錠250」に係る医薬品輸入承認申請書の添付書類である反復投与毒性試験(動物実験)に関する資料に記載されたプロトコール(治験実施計画書)承認日,初回投与日,最終剖検日,報告日及び署名日その他の日付の情報につき,製薬会社は,新薬の早期の開発,販売を実現すべく,過去の経験や実績,技術等を駆使して,新薬の有効性,安全性の確保とその開発の迅速化という要請の調和を図るとともに,試験の中止や試験計画の再考という開発の長期化をもたらすリスクを回避しながら,毒性試験相互のタイミング,順序等を独自に策定しているのであって,その内容及びそれを構築するための技術は,当該製薬会社のノウハウということができるとした上,前記各情報が開示されると,イレッサに関する毒性試験の早期実施に関する企業グループのノウハウが明らかとなり,他の製薬会社がイレッサの競合医薬品を開発する際に,毒性試験の実施に要する期間を短縮することが可能になるものと考えられ,これにイレッサのような新薬の開発競争が激化している状況にあることも考え併せるならば,前記各情報の開示は,企業グループの競争上の利益を害するおそれがあるものというべきであるとして,行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条2号イに規定する情報に該当するとした事例
3 抗癌剤「イレッサ錠250」に係る医薬品輸入承認申請書の添付書類である反復投与毒性試験(動物実験)に関する資料に記載された査察日及び査察項目の情報につき,製薬会社は,新薬の早期の開発,販売を実現すべく,過去の経験や実績,技術等を駆使して,新薬の有効性,安全性の確保とその開発の迅速化という要請の調和を図るとともに,試験の中止や試験計画の再考という開発の長期化をもたらすリスクを回避しながら,毒性試験相互のタイミング,順序等を独自に策定しているのであって,その内容及びそれを構築するための技術は,当該製薬会社のノウハウということができるとした上,毒性試験において医薬品の安全性が確認された後に行われる信頼性保証部門責任者による査察については,法令等にその時期や項目について特段の定めがなく,製薬会社が,その経験等によって蓄積されたノウハウに基づき,独自に,その時期や項目を定めているものと認められるところ,前記各情報が開示されると,信頼性保証部門責任者による査察のタイミングと頻度及び査察項目が明らかになり,それによって毒性試験の全体像が時系列的に示されることにつながるから,前記各情報の開示は,他の製薬会社による競合医薬品の開発期間の短縮を可能ならしめ,企業グループの競争上の地位を害するおそれがあるものというべきであるとして,行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条2号イに規定する情報に該当するとした事例
4 抗癌剤「イレッサ錠250」に係る医薬品輸入承認申請の添付書類である第1相及び第2相臨床試験に関する資料に記載された情報の一部につき,イレッサ錠250と同一性を有する医薬品について,他の製薬会社が製造等の承認申請を行おうとする場合は,承認を得た製薬会社が新規に承認申請をした際に必要とされた添付資料を省略することは認められておらず,なおかつ,平成11年4月8日付け医薬発第481号厚生省医薬安全局長通知「医薬品の承認申請について」において,当該新医薬品と同等又はそれ以上の資料の添付を必要とされているものの,それ以外に,その内容及び入手の方法について特段の制限が付されてはいないから,イレッサ錠250の臨床試験に関する資料である前記資料が開示された場合,他の製薬会社がイレッサ錠250と同一性を有する医薬品の承認申請を行う際,再審査期間中であっても,これを添付資料として利用することが可能であるということができ,このような形で利用されることになれば,承認を得た製薬会社と競合する他の製薬会社が,独自に添付資料を収集する費用や労力を節約して同一製剤に係る申請を行い,早期に承認を得る可能性が高まるというべきであって,こうした事態が承認を得た製薬会社の競争上の地位を害することは明らかであるとして,前記情報は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条2号イに規定する情報に該当するとされた事例
5 抗癌剤「イレッサ錠250」に係る医薬品輸入承認申請の添付書類である第1相及び第2相臨床試験に関する資料に記載された情報の一部につき,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下,「情報公開法」という。)5条2号ただし書に規定する情報は,それを開示することにより,法人等の権利,競争上の地位,その他正当な利益を害するおそれがあると認められるものであっても,それに優越する法益を保護する上で必要と認められる場合に限り,開示に伴う不利益を当該法人等に甘受させた上で,例外的にその開示を認めようとするものであり,例外的に開示が認められるためには,その開示により人の生命,健康等の保護に資することが相当程度具体的に見込まれる場合であって,法人等に不利益を強いることもやむを得ないと評価するに足りるような事情が存することを要すると解すべきであるとした上,前記資料の記載内容は人の生命,健康に関係したものではあるが,その開示により人の生命又は健康の保護に資することが相当程度具体的に見込まれる場合に当たるとまではいい難いから,情報公開法5条2号ただし書に規定する情報には該当しないとした事例
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