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行政事件 裁判例集

事件番号

 平成20(行コ)84

事件名

 建築許可処分取消等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成19年(行ウ)第351号)

裁判年月日

 平成20年8月28日

裁判所名

 東京高等裁判所

分野

 行政

判示事項

 1 都知事が建築基準法59条の2第1項に基づいてした総合設計許可処分の取消しを求める訴えにつき,前記許可処分に係る建築物により日照を阻害される周辺の他の建築物の一室に居住し,又は居住しようとしている者の原告適格が肯定された事例
2 都知事が建築基準法59条の2第1項に基づいてした総合設計許可処分に係る建築物の敷地の隣地に建築されている建築物の一室に居住し,又はこれを所有する者が提起した前記許可処分の取消訴訟においては,プライバシーの利益,眺望の利益,及び静謐かつ清浄な居住空間を享受する利益は,原告適格を基礎付ける利益には当たらず,それらに関する違法事由を主張することはできないとされた事例
3 都知事が建築基準法59条の2第1項に基づいてした総合設計許可処分に係る建築物の敷地の隣地に建築されている建築物の一室に居住し,又はこれを所有する者が,前記許可処分に係る建築物により日照を阻害される等としてした前記許可処分の取消請求が,棄却された事例

裁判要旨

 1 都知事が建築基準法59条の2第1項に基づいてした総合設計許可処分の取消しを求める訴えにつき,同項の趣旨及び目的,同項が前記許可を通して保護しようとしている利益の内容及び性質等に加え,同法の目的(同法1条参照)をも勘案すると,同項は,前記許可処分に係る建築物の建築が市街地の環境の整備改善に資するようにするとともに,当該建築物により日照を阻害される周辺の他の建築物に居住する者の健康を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解すべきであるとして,前記許可処分に係る建築物により日照を阻害される周辺の他の建築物の一室に居住し,又は居住しようとしている者の原告適格を肯定した事例
2 都知事が建築基準法59条の2第1項に基づいてした総合設計許可処分に係る建築物の敷地の隣地に建築されている建築物の一室に居住し,又はこれを所有する者が提起した前記許可処分の取消訴訟においては,同人らの原告適格を基礎付ける規定以外の処分の根拠規定に違反するという違法事由は,同人らの自己の法律上の利益に関係のない違法というべきであるから,行政事件訴訟法10条1項により主張することはできないところ,建築基準法59条の2第1項は,建築される建築物の規模及び形態を抑制し,建築される建築物の敷地上に必要な空間を確保することにより,周辺の他の建築物を保護し,これを通じて当該建築物の居住者及び所有者の具体的利益の保護を図るものであるから,同項が保護する周辺の他の建築物の居住者及び所有者の具体的利益は,前記のような量的な空間規制による周辺の建築物の保護という方法によって保護されるものになじむものに限られるというべきであって,前記許可処分に係る建築物の周辺住民のプライバシーの利益は,必ずしも前記のような量的な空間規制によって保護されるのになじむものということはできず,また,同項が個々人の個別的利益として眺望の利益を保護していると解するのは困難であり,さらに,静謐かつ清浄な居住環境を享受する利益は,極めて抽象的で具体的に乏しく,内容が不明確であるから,これらの利益はいずれも前記取消訴訟における原告適格を基礎付ける利益には当たらず,それらに関する違法事由を主張することはできないとした事例
3 都知事が建築基準法59条の2第1項に基づいてした総合設計許可処分に係る建築物の敷地の隣地に建築されている建築物の一室に居住し,又はこれを所有する者が,前記許可処分に係る建築物により日照を阻害される等としてした前記許可処分の取消請求につき,前記許可の要件を満たしているというためには,東京都総合設計許可要綱(昭和63年7月13日63都市建調第100号。平成19年3月31日18都市建企第557号による改正前)に定める技術基準を満たすことに加え,当該建築物の建築計画が市街地の環境の整備改善に資するか否かを個別具体的に判断する必要があるとした上で,前記建築物は建築基準法,同法施行令及び前記要綱に定める技術基準をいずれも満たしており,また,前記建築物は前記隣地に建築されている建築物に一定程度の日影を生じさせるものの,その建築計画は,周辺市街地の環境改善等に配慮した建築計画であるということができるから,都知事が前記許可処分をしたことにつき,裁量権の逸脱又は濫用があったということはできないとして,前記請求を棄却した事例

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