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行政事件 裁判例集

事件番号

 平成18(行ウ)25

事件名

 保護停止決定処分取消等請求事件

裁判年月日

 平成21年5月29日

裁判所名

 福岡地方裁判所

分野

 行政

判示事項

 1 生活保護受給者が自動車の所有を禁止する指示に違反したことを理由として市福祉事務所長が生活保護法62条3項に基づいてした保護の停止処分の取消しを求める請求が,認容された事例
2 生活保護受給者が自動車の所有を禁止する指示に違反したことを理由として市福祉事務所長が生活保護法62条3項に基づいてした保護の停止処分が,相当性を欠く違法な処分であるとして,市に対してされた国家賠償法に基づく損害賠償請求が,一部認容された事例

裁判要旨

 1 生活保護受給者が自動車の所有を禁止する指示に違反したことを理由として市福祉事務所長が生活保護法62条3項に基づいてした保護の停止処分の取消しを求める請求につき,福祉事務所においては,障害の状況により,利用し得る公共交通機関が全くないか公共交通機関を利用することが著しく困難であり,自動車による以外に通院等を行うことがきわめて困難であることが明らかであること,自動車の維持に要する費用が,維持費に充てることを特定した他の援助,他施設の活用等により確実にまかなわれる見通しがあること等の要件に基づいて運用されており,この基準自体は一応の合理性を有するところ,前記生活保護受給者は,その住居から片道15キロメートルの位置にある病院に週一回通院していたこと,障害者等級2級であり,基本的に車いすで生活していることに加え,その住居付近は坂道であり,最寄りと思われるバス停まで400メートル前後近くあること等の事情を総合すれば,通院に際してタクシー及び公共交通機関を利用することが著しく困難であり,自動車による以外に通院等を行うことが極めて困難であることが明らかに認められ,また,障害者にはその特別な必要性に応じて保護費の加算がされており,その必要性には移動等に要するものも含まれていると解され,自動車の維持費を保護費によって賄ったからといって,他施策の活用等によって賄うことを求める前記要件の趣旨に実質的に反しているとはいえないから,自動車の所有を禁止する前記指示を前提としたされた前記処分は違法であるとして,前記処分の取消請求を認容した事例
2 生活保護受給者が自動車の所有を禁止する指示に違反したことを理由として市福祉事務所長が生活保護法62条3項に基づいてした保護の停止処分が,相当性を欠く違法な処分であるとして,市に対してされた国家賠償法に基づく損害賠償請求につき,同法27条は,保護の目的達成に必要な指導又は指示は,被保護者の自由を尊重し,必要の最小限度に止めなければならないことを定めており,また,保護の実施機関が同法62条3項を適用するに当たっても,指導又は指示の内容,違反の程度,保護の停止等の必要性等に応じ,必要最小限の内容としなければならないものと解されるとした上,前記生活保護受給者による前記指示の違反が比較的軽微でないとすることには疑問があるし,これを比較的軽微でなかったと解するとしても,同人らが保護の停止によって直ちに困窮状態に陥ることは容易に予想される状況にあったと考えられるから,その実情を十分考慮せずに前記処分を行い,その結果,同生活保護受給者らが実際に著しい生活の困窮状態に陥ったことからすれば,前記処分は相当性を欠き違法であり,この点の判断は,被保護者である同人らの生活の困窮に直結し,特に慎重な判断を要する点であって,前記社会福祉事務所長が同人らの実情を十分把握していたことからすれば,同所長には,同人らに対して指示違反を理由とする不利益処分を課す場合であっても,保護の変更等のより軽い処分で対応すべきであったのに,直ちに保護処分を停止したことにつき過失があったとして,前記損害賠償請求を一部認容した事例

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