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行政事件 裁判例集

事件番号

 平成19(行ウ)16

事件名

 埋立免許差止請求事件

裁判年月日

 平成21年10月1日

裁判所名

 広島地方裁判所

分野

 行政

判示事項

 1 公有水面埋立法2条1項に基づく公有水面埋立免許処分の差止めを求める訴えにつき,埋立て施工によって害される景観に近接する居住者らの原告適格が,肯定された事例
2 公有水面の埋立てのため景観利益が侵害されると主張する近接地域内の居住者らがした,公有水面埋立法2条1項に基づく公有水面埋立免許処分の差止めを求める訴えが,行政事件訴訟法37条の4第1項の「重大な損害を生ずるおそれ」があるとして,適法とされた事例
3 公有水面の埋立てのため景観利益が侵害されると主張する近接地域内の居住者らがした,公有水面埋立法2条1項に基づく公有水面埋立免許処分の差止請求が,認容された事例

裁判要旨

 1 公有水面埋立法(公水法)2条1項に基づく公有水面埋立免許処分の差止めを求める訴えにつき,第1に,同法3条は,埋立ての告示があったときは,その埋立てに関し利害関係を有する者は都道府県知事に意見書を提出することができる旨規定するところ,埋立ての施工によって法的保護に値する景観利益を侵害される者は,この利害関係人に当たることから,公水法は,これらの者の個別的な利益に配慮し,公有水面の埋立てに関する行政意思の決定過程に参加し,意見を述べる機会を付与していること,第2に,瀬戸内海環境保全特別措置法(瀬戸内法)13条1項は,関係府県の知事が前記埋立免許の判断をするに当たっては,同法3条1項に規定されている瀬戸内海の特殊性につき十分配慮しなければならないと規定しており,国民が瀬戸内海について有するところの一般的な景観に対する利益を保護しようとする趣旨と解されること,第3に,公水法4条1項3号は,埋立地の用途が土地利用又は環境保全に関する国又は地方公共団体の法律に基づく計画に違背していないことを前記埋立免許の要件としているところ,政府の定めた基本計画及び広島県の定めた県計画は,「公水法2条1項の免許に当たっては,瀬戸内法13条2項の基本方針に沿って,環境保全に十分配慮するものとする。」と定めた上,「上記埋立事業に当たっては地域住民の意見が反映されるよう努めるものとする。」と定めており,これらの規定は,国民の中で瀬戸内海と関わりの深い地域住民の瀬戸内海について有するところの景観等の利益を保護しようとする趣旨と解されること等これらの公水法及びその関連法規の諸規定及び解釈に加え,埋立て等によって侵害される当該景観の価値及び回復困難性といった被侵害利益の性質並びにその侵害の程度をも総合勘案すると,公水法及びその関連法規は,法的保護に値する当該景観を享受する利益をも個別的利益として保護する趣旨を含むと解するのが相当であるとして,当該景観による恵沢を日常的に享受している者である埋立地たる公有水面の所在する行政区画に居住する者らの原告適格を肯定した事例
2 公有水面の埋立てのため景観利益が侵害されると主張する近接地域内の居住者らがした,公有水面埋立法2条1項に基づく公有水面埋立免許処分の差止めを求める訴えにつき,差止訴訟は,処分等がされた後に取消訴訟を提起し,執行停止を受けたとしても十分な権利利益の救済が得られない場合に,事前の救済方法として認められる訴訟類型であるから,処分等の取消しの訴えを提起し,当該処分等につき執行停止を受けることで権利利益の救済が得られるような性質の損害であれば,そのような損害は,行政事件訴訟法37条の4第1項の「重大な損害」とはいえないと解すべきところ,前記処分がされると,事業者らは遅くとも約3か月後には工事を開始すると予測されること,前記訴えは争点が多岐にわたりその判断は容易でなく,前記処分がされた後,取消しの訴えを提起した上で執行停止の申立てをしたとしても,直ちにその判断がされるとは考え難いこと等からすれば,景観利益に関する損害については,処分の取消しの訴えを提起し,執行停止を受けることによっても,その救済を図ることが困難な損害であることといえ,これに加え,景観利益は,生命,身体等といった権利とはその性質を異にするものの,日々の生活に密接に関連した利益といえること,景観利益は一度損なわれたならば,金銭賠償によって回復することは困難な性質のものであること等を総合考慮すれば,景観利益については,前記処分がされることにより,同項所定の「重大な損害を生ずるおそれ」があると認めるのが相当であるとして,前記訴えを適法とした事例
3 公有水面の埋立てのため景観利益が侵害されると主張する近接地域内の居住者らがした,公有水面埋立法2条1項に基づく公有水面埋立免許処分の差止請求につき,前記利益は私法上保護されるべき利益であるだけでなく,瀬戸内海における美的景観を構成するものとして,文化的,歴史的価値を有する景観として,いわば国民の財産ともいうべき公益であり,前記埋立てを含む事業が完成した後にこれを復元することは不可能であることなどの点にかんがみれば,前記埋立て及びこれに伴う架橋を含む事業が前記景観に及ぼす影響は,決して軽視できない重大なものであり,瀬戸内海環境保全特別措置法等が公益として保護しようとしている景観を侵害するものといえるから,その政策判断は慎重にされるべきであり,その拠り所とした調査及び検討が不十分なものであったり,その判断内容が不合理なものである場合には,前記処分は,合理性を欠くものとして,行政事件訴訟法37条の4第5項にいう裁量権の範囲を超えた場合に当たるとした上,事業者らが前記事業の必要性,公共性の根拠とする各点は,調査,検討が不十分であるか,又は,一定の必要性,合理性は認められたとしても,それのみによって前記埋立てそれ自体の必要性を肯定することの合理性を欠くものであるから,同項所定の裁量権の範囲を超えた場合に当たるとして,前記請求を認容した事例

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