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行政事件 裁判例集

事件番号

 平成19(行ウ)92

事件名

 不開示決定処分取消請求事件

裁判年月日

 平成24年3月23日

裁判所名

 大阪地方裁判所

分野

 行政

判示事項

 1 内閣官房報償費の支出に関する行政文書のうち,政策推進費に係る領収書等に記録された情報が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条3号及び6号の不開示情報に当たるとされた事例
2 内閣官房報償費の支出に関する行政文書のうち,調査情報対策費に係る領収書等に記録された情報が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条3号及び6号の不開示情報に当たるとされた事例
3 内閣官房報償費の支出に関する行政文書のうち,交通費として使用されている活動関係費に係る領収書等に記録された情報が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条3号及び6号の不開示情報に当たるとされた事例
4 内閣官房報償費の支出に関する行政文書のうち,活動経費,謝礼,慶弔費,贈答品の購入費用等として使用されている活動関係費に係る領収書等に記録された情報が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条3号及び6号の不開示情報に当たるとされた事例
5 内閣官房報償費の支出に関する行政文書のうち,書籍等の購入費として使用されている活動関係費に係る領収書等に記録された情報が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条3号及び6号の不開示情報に当たるとされた事例 
6 内閣官房報償費の支出に関する行政文書のうち,振込手数料等,内閣官房報償費の支払関係費用として使用されている活動関係費に係る領収書等に記録された情報が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条3号及び6号の不開示情報に当たるとされた事例
7 内閣官房報償費の支出に関する行政文書のうち,政策推進費受払簿に記録された情報が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条3号及び6号の不開示情報に当たらないとされた事例
8 内閣官房報償費の支出に関する行政文書のうち,報償費支払明細書に記録された情報が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条3号及び6号の不開示情報に当たらないとされた事例

裁判要旨

 1 内閣官房報償費の支出に関する行政文書のうち,政策推進費に係る領収書等に記録された情報につき,政策推進費とは,内閣官房長官としての高度な政策的判断により機動的に用いることが予定された経費であり,具体的には,内閣官房長官が非公式に関係者等に対する協力依頼や交渉等の活動を行うに際して支払う対価や,情報の収集調査等を行うに際して支払う情報収集の対価などに使用されるものであるところ,前記領収書等には,その支払相手方である前記関係者や情報提供者等の氏名,名称,支払われた金額,領収日等の日付等が記載されていることから,これが開示された場合には,当該関係者等からの信頼が失われ,前記活動の目的である重要政策等に関する事務の遂行に支障が生じるおそれや,内閣官房の秘密保持に対する信頼が低下し,関係者等の協力や情報提供等が受けにくくなるなど,今後内閣官房において行われる活動全般に著しい支障が生じることも予想されるほか,領収日等の日付,支払金額等の記載と支払相手方の氏名等を照らし合わせることにより,協力依頼,交渉や情報提供の内容等を推知することも相当程度可能となり,それにより,内閣の行う施策の内容やその方針等そのものが推知されるなどして,内閣官房の行う事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,また,我が国が特定の外交条件等他国等の利害に関係する事項につき,特定の者に対する働きかけを行ったり,情報収集等を行ったりしたことが明らかとなれば,他国等との信頼関係が損なわれ,我が国の安全が害され,又は他国等との交渉上の不利益が生じる可能性があることも一概に否定することはできず,国の安全が害されるおそれ又は他国等との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国等との交渉上不利益を被るおそれがあると内閣官房内閣総務官が認めることにつき相当の理由があることから,前記領収書等に記録された情報が行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条3号及び6号の不開示情報に当たるとした事例
2 内閣官房報償費の支出に関する行政文書のうち,調査情報対策費に係る領収書等に記録された情報につき,調査情報対策費とは,施策の円滑かつ効率的な推進のため,その時々の状況に応じ必要な情報を得るために必要とされる経費であり,情報収集等のための対価や会合経費として使用されるものであるところ,情報収集等の対価に係る領収書等には,支払相手方である情報提供者等の氏名や支払った金額,領収日等の日付が記載されていることから,これが開示された場合には,当該関係者等からの信頼が失われ,活動の目的である重要政策等に関する事務の遂行に支障が生じるおそれがあるなど,内閣官房の行う事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,また,会合経費に係る領収書等には,支払の相手方である当該会合を行った会合場所の名称の記載があるが,そこで行われる会合の内容の重要性,機密性に鑑みれば,相当信用し得る場所や業者を選定しており,他の会合においても同じ場所や業者を反復して用いることになると考えられるため,当該会合場所が明らかになることにより,内閣の行う内政,外政に関する重要施策や我が国の政策運営等に関する情報を不正に入手しようとする者や重要政策の関係者,情報提供者等に対する働きかけを行おうとする者が,当該会合場所に対する監視,盗聴等を行ったり,会合場所の従業員等に対する不正な工作を行ったりして,内閣官房が非公式に行っている活動に関する情報を入手して悪用し,それを利用して内閣官房の行う事務を妨害するなどの可能性がある上,前記のような活動,情報が他国等の利害に関する事項につき生じたものである場合には,国の安全が害され,他国等との信頼関係が損なわれ,又は交渉上不利益を被る可能性があることも一概に否定することはできず,そのようなおそれがあるとした内閣官房内閣総務官の判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えるものとはいえないなどとして,前記領収書等に記録された情報が行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条3号及び6号の不開示情報に当たるとした事例
3 内閣官房報償費の支出に関する行政文書のうち,交通費として使用されている活動関係費に係る領収書等に記録された情報につき,活動関係費には,内閣官房長官が非公式の協力依頼や交渉,情報収集等の活動に際し,その相手方等の移動手段として,タクシーやハイヤー等の交通事業者を利用した場合に,その対価として支払われるものがあるところ,これらの領収書等には,支払の相手方の氏名,名称の記載があることから,交通費として使用された活動関係費に係る領収書等が開示された場合,当該交通事業者の名称が明らかになるが,内閣官房長官が内閣の重要政策等について行う非公式の協力依頼や交渉,情報収集等の活動を行うに際して利用するタクシーやハイヤー等の交通事業者については,特に信用することができる交通事業者を利用するものと考えられるため,当該交通事業者が明らかになることにより,内閣の行う政策等に関する情報を不正に入手しようとする者や,重要政策の関係者や情報提供者等に働きかけを行おうとする者が,当該交通事業者に接触し,内閣官房が非公式に行っている活動に関する情報を入手して悪用したり,それを利用して内閣官房の行う業務を妨害したりする可能性があり,また,以後当該交通事業者を利用する際,関係者の安全確保や情報の機密性の確保等にも不安が生じることが考えられ,これにより,内閣官房の行う事業の遂行に支障が生じるおそれがあり,さらに,前記のような事態が他国等の利害に関する事項につき生じたものである場合には,他国等との信頼関係が破壊されたり,安全保障上の問題が生じ,国の安全が害されたり,外交関係上の不利益を被ったりする可能性も一概に否定できず,そのようなおそれがあるとした内閣官房内閣総務官の判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えるものとはいえないとして,前記領収書等に記録された情報が行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条3号及び6号の不開示情報に当たるとした事例
4 内閣官房報償費の支出に関する行政文書のうち,活動経費,謝礼,慶弔費,贈答品の購入費用等として使用されている活動関係費に係る領収書等に記録された情報につき,活動関係費には,内閣官房長官が非公式に行う協力依頼や交渉,情報収集等の活動の相手方に渡す活動経費,謝礼,慶弔費等の費用又は当該相手方に渡す贈答品の購入費用として使用されるものがあり,これは,情報提供者や協力者等に特定の事案に関する内々の情報提供や関係方面への働きかけ等を依頼するため,また,平素からこうした者との信頼関係を維持強化するために支出されるものであるところ,これらの領収書等には,支払の相手方の名称等の記載があることから,これが開示された場合には,その支払相手方である協力依頼及び交渉の相手方,情報提供者等の氏名が明らかになるが,これにより,当該関係者等からの信頼が失われ,前記活動の目的である重要政策等に関する事務の遂行に支障が生じるおそれや,内閣官房の秘密保持に対する信頼が低下し,関係者等の協力や情報提供等が受けにくくなるなど,今後内閣官房において行われる活動全般に著しい支障が生じることも予想され,また,贈答品の購入費用として使用された活動関係費に係る領収書等に記載された情報が開示された場合には,支払相手方である贈答品の購入先の事業者や店舗等が明らかになるが,そのような贈答品の購入先の事業者等については,贈答品を購入するに際し,贈り先の相手方の住所や氏名等の個人情報等を伝える必要があると考えられ,内閣の行う内政,外政に関する重要政策や我が国の政策運営等に対する働きかけを行おうとする者が,当該事業者に対する接触を行ったり,当該事業者等の従業員等に対する不正な工作を行ったりし,内閣官房が非公式に行っている活動に関する情報を入手して悪用し,それを利用して内閣官房の行う事務の適正な遂行に支障があると認められ,さらに,当該事態が他国等の利害に関する事項につき生じたものである場合には,他国等との信頼関係が破壊されたり,安全保障上の問題が生じ,国の安全が害されたり,外交関係上の不利益を被ったりする可能性も一概に否定できず,そのようなおそれがあるとした内閣官房内閣総務官の判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えるものとはいえないとして,前記領収書等に記録された情報が行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条3号及び6号の不開示情報に当たるとした事例
5 内閣官房報償費の支出に関する行政文書のうち,書籍等の購入費として使用されている活動関係費に係る領収書等に記録された情報につき,内閣官房は,内政,外政に関する重要政策等の企画,立案や総合調整等,我が国の政策運営に対する重要な事務を行っており,当該事務の遂行のためには,それら政策運営に関する様々な内容の書籍等を購入し,情報収集に当たる必要がある場合があるが,内閣官房が購入する必要のある書籍の中には,内閣官房の行う事務の性質上,一般的に書店等で販売されている通常の図書等とは異なる特殊なものや,その内容が特殊な事案や地域的な問題に関するものが含まれるところ,前記領収書等が開示された場合,当該領収書等には,書籍等を購入した事業者の名称が記載されており,また,購入した書籍等の名称が記載されている場合もあるから,それらの情報が明らかになり,もって内閣の政策運営の方向性等が推知されるなどにより,内閣官房の行う事務の遂行上の支障が生じるおそれがあると認められ,また,それが他国等の利害に関するような事項であれば,それにより,我が国の安全や他国等との信頼関係の破壊,交渉上の不利益を被る可能性も一概に否定することができず,そのようなおそれがあるとした内閣官房内閣総務官の判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えるものとはいえないとして,前記領収書等に記録された情報が行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条3号及び6号の不開示情報に当たるとした事例
6 内閣官房報償費の支出に関する行政文書のうち,振込手数料等,内閣官房報償費の支払関係費用として使用されている活動関係費に係る領収書等に記録された情報につき,前記領収書等が開示された場合,内閣官房報償費の支払を依頼した金融機関に関する名称等の情報が明らかになるが,このような内閣官房報償費の支払事務等を行った金融機関は,支払われた内閣官房報償費の個別の振込先やその金額等に関する情報を有しているため,当該金融機関に関する情報が明らかになれば,内閣の行う内政,外政に関する重要政策や我が国の政策運営等に関する情報を不正に入手しようとする者や,重要政策の関係者,情報提供者等に働きかけを行おうとする者等が,金融機関の従業員等に接触したり,不正な工作を行ったりすることにより,内閣官房報償費の支払相手方,具体的には内閣官房長官が重要な政策等に関する協力依頼や交渉等を行う関係者,情報提供者,会合場所等の情報を入手して悪用し,それを利用して内閣官房の行う事務を妨害するなどの可能性があり,内閣官房の行う事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれが認められ,また,他国等との信頼関係が破壊されたり,安全保障上の問題が生じ,国の安全が害されたり,外交関係上の不利益を被ったりする可能性も一概に否定することはできず,そのようなおそれがあるとした内閣官房内閣総務官の判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えるものとはいえないとして,前記領収書等に記録された情報が行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条3号及び6号の不開示情報に当たるとした事例
7 内閣官房報償費の支出に関する行政文書のうち,政策推進費受払簿に記録された情報につき,政策推進費受払簿とは,政策推進費の出納に関し,内閣官房長官が,国庫から支出された内閣官房報償費から,政策推進費として使用する額を区分(政策推進費の繰入れ)した際や,各年度末及び内閣官房長官が交代する際に作成される文書であり,そこに記録される情報は,前回繰入れ後の政策推進費の残額,前回繰入れ時から今回までの政策推進費の支払額,今回の繰入れ前の政策推進費の残額,今回の繰入れ額,今回繰入れ後の政策推進費の合計額等のみであり,具体的な政策推進費の使途や,支払相手方の名称等は記載されず,また,そこに記載されている日付は,政策推進費受払簿の作成年月日であり,政策推進費の支払年月日を意味するものではないから,これが開示された場合には,前回繰入れ時から今回繰入れ時までの一定期間内における政策推進費の支払合計額が明らかになるのみであって,それ以上に政策推進費の具体的使途や支払の相手方の氏名等の情報が明らかになるものではなく,これを開示したとしても,内閣官房の行う事務の遂行等に支障を生じる具体的なおそれがあるとは認められず,さらに,国の安全が害されるおそれ,他国等との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国等との交渉上不利益を被るおそれ等があるとはおよそ考え難いとして,前記受払簿に記録された情報が行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条3号及び6号の不開示情報に当たらないとした事例
8 内閣官房報償費の支出に関する行政文書のうち,報償費支払明細書に記録された情報につき,報償費支払明細書には,内閣官房報償費の各支払((1)政策推進費の繰入れ並びに(2)調査情報対策費及び活動関係費の支払決定)についてまとめた一覧表の記載部分と,(3)支払明細書繰越記載部分(前月繰越額,本月受入額,本月支払額,翌月繰越額等の記載部分)があるところ,一覧表のうち,(1)政策推進費の繰入れに係る各項目には,政策推進費受払簿作成(政策推進費繰入れ)の日付,当該繰入れに係る金額が記載されているが,これが開示された場合には,前回繰入れ時から今回受入れ時までの一定期間における政策推進費の支払合計額が明らかになるのみであって,それ以上に政策推進費の具体的使途や支払の相手方の氏名等の情報が明らかになるものではなく, また,(2)調査情報対策費及び活動関係費に係る各項目には,支払決定の日付,支払決定に係る金額,調査情報対策費及び活動関係費の別等が記載されているが,支払相手方の記載や個別具体的な使途の記載はなく,これが開示されたとしても,支払相手方や具体的な使途が明らかになることはないと考えられ, さらに,(3)支払明細書繰越記載部分には,内閣官房報償費全体の先月繰越額,本月受入額(国庫から支出を受けた内閣官房報償費全額),本月支払額の合計,翌月繰越額の記載があるのみであり,これが開示された場合にも,特定の月において,支出された内閣官房報償費の合計額が明らかとなるのみであるから,いずれも内閣官房の行う事務の遂行に支障が生じるとは認められない上,他国等との関係で同法5条3号に規定するようなおそれがあると内閣官房内閣総務官が判断することは,社会通念上著しく妥当性を欠くものであって,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるというべきであるとして,前記明細書に記録された情報が行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条3号及び6号の不開示情報に当たらないとした事例

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