裁判例結果詳細
行政事件 裁判例集
- 事件番号
平成23(行コ)399等
- 事件名
生活保護開始申請却下取消等請求控訴,同附帯控訴事件(原審・東京地方裁判所平成20年(行ウ)第415号)
- 裁判年月日
平成24年7月18日
- 裁判所名
東京高等裁判所
- 分野
行政
- 判示事項
1 生活保護の開始申請に対し,稼働能力を活用していないとして社会福祉事務所長がした同申請の却下決定の取消請求が,認容された事例
2 路上生活者が社会福祉事務所長に対してした生活保護(居宅保護の方法による生活扶助及び住宅扶助)を開始する旨の決定の義務付けを求める請求が,認容された事例
- 裁判要旨
1 生活保護の開始申請に対し,稼働能力を活用していないとして社会福祉事務所長がした同申請の却下決定の取消請求につき,生活保護法4条1項所定の「その利用し得る能力を,その最低限度の生活の維持のために活用すること」という要件は,生活困窮者が稼働能力を有しているのに現にこれが活用されていない場合であっても,直ちにそれを充足することが否定されるものではなく,当該生活困窮者が,その具体的な稼働能力を前提としてそれを活用する意思を有しているときには,当該生活困窮者の具体的な環境の下において,その意思のみに基づいて直ちにその稼働能力を活用する就労の場を得ることができると認めることができない限り,なお生活困窮者は,その利用し得る能力を,その最低限度の生活の維持のために活用しているものであって,前記要件を充足するということができるとした上で,当該申請者は,申請当時,その具体的な稼働能力を前提としてそれを活用する意思を有しており,またその意思のみに基づいて直ちにその稼働能力を活用する就労の場を得ることができなかったと認めることができるから,前記要件を充足しているとして,前記請求を認容した事例
2 路上生活者が社会福祉事務所長に対してした生活保護(居宅保護の方法による生活扶助及び住宅扶助)を開始する旨の決定の義務付けを求める請求につき,保護の実施機関は,生活保護法30条1項所定の居宅保護によっては「保護の目的を達しがたい」という要件に該当するか否かの判断について裁量権を付与されており,同要件に該当する旨判断し生活扶助の方法として居宅保護によらないことがその裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められるときに初めて,裁判所は生活扶助の方法として居宅保護によるべき旨を命ずる判決をすることになるが,居宅保護の原則は,施設保護により被保護者を救護施設,更生施設又はその他の施設に入所させるなどして保護を行うよりも被保護者の生活の本拠である居宅において保護を行う方が生活保護法の目的により適うという考慮に基づくものであるから,要保護者が現に居宅を有しない場合であっても,そのことによって直ちに居宅保護による余地はないと解することは相当ではなく,保護の実施機関は,居宅保護による場合の居宅の確保の可能性をも考慮して,居宅保護によるか施設保護によるかを決定すべきであるとした上,生活保護の実務では,保護の開始時において安定した居宅を有しない要保護者が居宅の確保のために敷金等を必要とする場合には,アパート転宅費用として一定の範囲で敷金等必要な費用を支給するものとされている等,居宅保護による場合には居宅の確保が可能となるような取扱いがされていることを総合的に考慮すると,処分行政庁が居宅保護によっては「保護の目的を達しがたい」という要件に該当する旨判断し生活扶助の方法として居宅保護によらないことは,その裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められ,また,当該路上生活者は居宅となるべき家屋を所有していないから,処分行政庁が住宅扶助を行うべきことは同法14条の規定から明らかであると認められるとして,前記請求を認容した事例
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