裁判例結果詳細
行政事件 裁判例集
- 事件番号
平成20(行ウ)599
- 事件名
文書一部不開示決定処分取消等請求事件
- 裁判年月日
平成24年10月11日
- 裁判所名
東京地方裁判所
- 分野
行政
- 判示事項
1 行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条3号(国の安全等に関する情報)及び同条4号(公共安全秩序維持情報)該当性の審査方法と主張立証責任
2 日韓会談(日本政府と大韓民国政府との間において両国間の外交関係の開設等の関係の正常化を目的として実施された会談)に関する行政文書に記録された情報のうち,文化財問題,法的地位問題,請求権問題等について行った韓国側との交渉の様子やその評価,政府部内での検討の様子,日本政府の具体的見解等の情報が,①同文書の開示部分に記録されている情報と同一の内容のもの又は同一と評価し得るもの,②日韓会談において両国間で授受された文書に記録されているもの,③当時の官公庁において一般国民に公開することも予定していて一般的又は網羅的に調査するなどして得た情報であって現在において一般に入手可能なもの等に記録されているもの,④専ら当時の財政事情,経済情勢又は貨幣価値等に基づく検討内容又は計算金額等に係るもの,⑤日本に所在する朝鮮半島に由来する文化財に関する客観的事実等に係るもの,⑥韓国側開示文書によって既に公にされている情報と同一の内容のもの等であると認められる場合には,外務大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められるが,その余のものについてはいずれも原則として,一般的類型的にみて,今後想定される北朝鮮との日朝国交正常化交渉等において交渉上不利益を被るおそれがあるとして,行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条3号の不開示情報に当たるとした事例
3 日韓会談(日本政府と大韓民国政府との間において両国間の外交関係の開設等の関係の正常化を目的として実施された会談)に関する行政文書に記録された情報のうち,日韓会談及びその準備段階の政府部内における議論の内容やそれに対する評価,政府部内での検討の様子等の内部機密情報が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条3号の不開示情報に当たるとされた事例
4 日韓会談(日本政府と大韓民国政府との間において両国間の外交関係の開設等の関係の正常化を目的として実施された会談)に関する行政文書に記録された情報のうち,①竹島問題に関する日本側の提案,見解,対処方針であって,日本側が韓国側に文書で提示したもの又は日韓両政府間で現に行われた交渉時に発言されたもの(ただし,原則として非公開約束があるものを除く。),②竹島問題に関して韓国側から提示された提案,見解等(ただし,原則として非公開原則があるものを除く。),③竹島問題に関する第三国の見解等が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条3号の不開示情報に当たらないとされた事例
5 日韓会談(日本政府と大韓民国政府との間において両国間の外交関係の開設等の関係の正常化を目的として実施された会談)に関する行政文書に記録された情報のうち,①韓国要人一行等が訪日する際の警備計画に関するもの,②特定の場所における警備態勢及び警備対策に係る政府内部での具体的な検討状況,③海上保安庁の韓国周辺水域での警備体制についての検討状況,④日本政府が情報収集に至った経緯,犯罪容疑者に対する捜査に関する情報収集の方法や操作手法自体等の情報が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条4号の不開示情報に当たるとされた事例
6 日韓会談(日本政府と大韓民国政府との間において両国間の外交関係の開設等の関係の正常化を目的として実施された会談)に関する行政文書に記録された情報のうち,一般に公表されていない国の機関の連絡先に関する情報が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条6号の不開示情報に当たるとされた事例
7 日韓会談(日本政府と大韓民国政府との間において両国間の外交関係の開設等の関係の正常化を目的として実施された会談)に関する行政文書に記録された情報のうち,竹島を含む水域の警備等に関する情報が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条4号の不開示情報に当たるとされた事例
8 日韓会談(日本政府と大韓民国政府との間において両国間の外交関係の開設等の関係の正常化を目的として実施された会談)に関する行政文書に記録された情報のうち,昭和天皇と韓国政府高官とのやりとりが記載されている情報が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条1号イに当たり同号の不開示情報に当たらず,また同条3号の不開示情報にも当たらないとされた事例
- 裁判要旨
1 行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条3号(国の安全等に関する情報)及び同条4号(公共安全秩序維持情報)該当性の審査方法と主張立証責任につき,裁判所の判断は,行政機関の長の第一次的な判断を尊重し,その判断が合理性を持つものとして許容される限度内のものであるかどうかを検討するという観点から行われるべきとした上で,まず,行政機関において,当該不開示処分に係る行政文書に記録されている情報に係る事柄,当該情報の性質,当該処分をするに当たって前提とした事実関係その他の当該不開示処分当時の状況等,一般的又は類型的にみて,当該情報が国の安全等に確保に関するもの又は公共安全秩序維持に関するものに当たることを推認するに足りる事情を主張立証すべきであり,行政機関がした前記主張立証により,当該情報を開示することにより,不開示の理由とされた同条3号又は4号所定の「おそれ」があることが一般的又は類型的にみて肯定される場合には,同条3号又は4号に基づき開示をしないことを争う開示請求者が,当該不開示情報に該当すると認めることにつき行政機関の長の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったことを基礎付ける具体的事実について主張立証することを要する。
2 日韓会談(日本政府と大韓民国政府との間において両国間の外交関係の開設等の関係の正常化を目的として実施された会談)に関する行政文書に記録された情報のうち,文化財問題,法的地位問題,請求権問題等について行った韓国側との交渉の様子やその評価,政府部内での検討の様子,日本政府の具体的見解等の情報につき,日韓会談の交渉経緯やそこで採り上げられた諸問題についての日韓両政府の主張の各概要は,既に公知の事実であるといえることに加え,前記文書中の日韓会談の際に提示された日本側の提案の具体的内容や日韓両政府間で協議された諸問題に係る具体的データのうち相当程度のものが韓国側開示文書によって既に公にされている可能性が高いこと,日韓会談の当時と不開示処分の当時とでは日本の財政事情等は著しく変化していることから,特に対象文書に記載されている情報が,①同文書の開示部分に記録されている情報と同一の内容のもの又は同一と評価し得るもの,②日韓会談において両国間で授受された文書に記録されているもの,③当時の官公庁において一般国民に公開することも予定していて一般的又は網羅的に調査するなどして得た情報であって現在において一般に入手可能なもの等に記録されているもの,④専ら当時の財政事情,経済情勢又は貨幣価値等に基づく検討内容又は計算金額等に係るもの,⑤日本に所在する朝鮮半島に由来する文化財に関する客観的事実等に係るもの,⑥韓国側開示文書によって既に公にされている情報と同一の内容のもの等であると認められる場合には,外務大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められるが,その余のものについてはいずれも原則として,一般的類型的にみて,今後想定される北朝鮮との日朝国交正常化交渉等において交渉上不利益を被るおそれがあるとして,行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条3号の不開示情報に当たるとした事例
3 日韓会談(日本政府と大韓民国政府との間において両国間の外交関係の開設等の関係の正常化を目的として実施された会談)に関する行政文書に記録された情報のうち,日韓会談及びその準備段階の政府部内における議論の内容やそれに対する評価,政府部内での検討の様子等の内部機密情報につき,対象文書に記録されている情報が,日韓会談及びその準備段階の政府部内における議論の内容やそれに対する評価,政府部内での検討の様子等の内部機密情報であることのみをもって,直ちに,一般的又は類型的にみて,当該情報が国の安全等の確保に関するものに当たることを推認することはできないが,これらの情報が,不開示処分時においてなお日本と韓国等との間で交渉の対象となっている事項についての日本側の対処方針等であったり,現在においてもなお一般的に韓国国民が日本政府から蔑視され又は日本政府によりその自尊心を害されたなどと感じ得るものであったりするなどの事情がある場合には,一般的又は類型的にみて,当該情報が国の安全等の確保に関するものに当たることを推認する余地があるとして,前記情報が行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条3項の不開示情報に当たるとした事例
4 日韓会談(日本政府と大韓民国政府との間において両国間の外交関係の開設等の関係の正常化を目的として実施された会談)に関する行政文書に記録された情報のうち,①竹島問題に関する日本側の提案,見解,対処方針であって,日本側が韓国側に文書で提示したもの又は日韓両政府間で現に行われた交渉時に発言されたもの(ただし,原則として非公開約束があるものを除く。),②竹島問題に関して韓国側から提示された提案,見解等(ただし,原則として非公開原則があるものを除く。),③竹島問題に関する第三国の見解等につき,前記①については,当該発言については韓国側によって直接認識されている上,既に韓国政府が保有する日韓会談に関する文書が韓国政府によって公開されていること等,各文書の作成後における時の経過,社会情勢の変化等の事情に照らすと,これらの情報が公になったとしても,韓国政府が日本政府の現在の方針を把握し又は推測する材料となり得るとは限らず,また,韓国との信頼関係を損なうとも考えられないこと,前記②については,これらの情報が公になったとしても,韓国との信頼関係が損なわれるおそれがあるとはいえないことから,いずれも一般的又は類型的にみて,当該情報が国の安全等の確保に関するものに当たることを推認することはできず,また,前記③については,これらの情報を公にしたことにより,一般的又は類型的にみて,直ちに第三国との信頼関係を損なうものとは考えられず,また日本政府が竹島問題についての韓国政府との交渉上不利益を被るものともいえないとして,行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条3号の不開示情報に当たらないとした事例
5 日韓会談(日本政府と大韓民国政府との間において両国間の外交関係の開設等の関係の正常化を目的として実施された会談)に関する行政文書に記録された情報のうち,①韓国要人一行等が訪日する際の警備計画に関するもの又は②特定の場所における警備態勢及び警備対策に係る政府内部での具体的な検討状況,③海上保安庁の韓国周辺水域での警備体制についての検討状況,④日本政府が情報収集に至った経緯,犯罪容疑者に対する捜査に関する情報収集の方法や操作手法自体等の情報について,これらの警備,情報収集の方法等に,現在及び将来におけるそれと共通する点がある場合には,現在又は将来における警備,情報収集の方法等を推測することが可能となるため,より周到に犯罪を計画することができる可能性を否定することができないことから,特段の事情がない限り,一般的又は類型的にみて,公共安全秩序情報に関するものに当たることを推認することができるとして,行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律5条4号の不開示情報に当たるとした事例
6 日韓会談(日本政府と大韓民国政府との間において両国間の外交関係の開設等の関係の正常化を目的として実施された会談)に関する行政文書に記録された情報のうち,一般に公表されていない国の機関の連絡先に関する情報につき,警視庁その他の関係機関の非公表の内線番号又は外線直通番号であり,警察庁その他の関係機関の事務の適正な遂行に実質的支障を及ぼす蓋然性があると認められるとして,行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律5条6号の不開示情報に当たるとした事例
7 日韓会談(日本政府と大韓民国政府との間において両国間の外交関係の開設等の関係の正常化を目的として実施された会談)に関する行政文書に記録された情報のうち,竹島を含む水域の警備等に関する情報につき,竹島を含む水域の海上保安庁による海上警備の方法の具体的内容や自衛隊を出勤させた場合の法的な問題点に関する具体的見解に係るものであり,一般的又は類型的にみて,公共安全秩序維持に関するものに当たることを推認できること等から,行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条4号の不開示情報に当たるとした事例
8 日韓会談(日本政府と大韓民国政府との間において両国間の外交関係の開設等の関係の正常化を目的として実施された会談)に関する行政文書に記録された情報のうち,昭和天皇と韓国政府高官とのやりとりが記載されているものにつき,天皇が公人として行う行為である外国要人との拝謁等に係るものは,形式的には行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条1号ハの「公務員等の職務の執行に係る情報」には該当しないものの,その内容,性質等に鑑みると,実質的には公務員の職務の執行に係る情報に準じるものと見ることができると解した上で,前記文書においては,対象文書に記載されている情報が同号イの「慣行により公にすることが予定されている情報」に当たり,同号の不開示情報に当たらず,また一般的又は類型的にみて,現時点においてこれを公にしたとしても,韓国等との信頼関係を損なうものとはいえず,同条3号の不開示情報にも当たらないとした事例