裁判例結果詳細
行政事件 裁判例集
- 事件番号
平成28(行ウ)354
- 事件名
退去強制令書発付処分等取消請求事件
- 裁判年月日
平成29年8月25日
- 裁判所名
東京地方裁判所
- 分野
行政
- 判示事項
日本人男性と婚姻関係にあるインドネシア共和国国籍の女性について,出入国管理及び難民認定法50条1項に基づき在留特別許可をしないで同法49条1項の異議の申出には理由がないとした地方入国管理局長の裁決が取り消された事例
- 裁判要旨
インドネシア共和国国籍の女性が,1回目の不法残留後に日本人男性と婚姻し,在留特別許可を受けて「日本人の配偶者等」の在留資格で本邦に在留していたが,離婚後,再度不法残留の状態となった後に別の日本人男性との再婚を届け出て不法滞在者であることを申告するため自ら入国管理当局に出頭したところ,不法残留の退去強制事由を認定され,口頭審理を経て,出入国管理及び難民認定法50条1項に基づく在留特別許可をしないで同法49条1項の異議の申出には理由がない旨の地方入国管理局長の裁決を受けた事案について,以下の(1)及び(2)などの事情の下では,同裁決に際して同女性の在留を特別に許可しないとした判断は,事実に対する評価が明白に合理性を欠くことにより社会通念上著しく妥当性を欠くものであったことが明らかで,同裁決には裁量権の範囲をこえ又はその濫用がある違法があったとして,これが取り消された事例
(1) 同女性は,前夫との離婚後,その在留期限の経過前に現在の夫と結婚の方向で話を進めていたが,在留期限前に再婚を届け出るには平成28年法律第71号による改正前の日本民法733条1項による離婚後6箇月の待婚期間が障碍となっていたところ,そのうち当時既に違憲となっていた100日を超えて再婚禁止期間を設ける規定部分がなければ,同女性の在留期間内に再婚を届け出ることが可能な法状態にあって,同女性が不法残留の状態となったことの責任をその個人的な都合のみに帰することは相当ではなく,その不法残留は,自ら出頭申告したという斟酌すべき事情を減殺して余りあるほどの重要な消極要素と評価されるべき悪質性に欠ける。
(2) 同女性の現在の夫との婚姻関係は,関係が醸成される過程もごく自然で再婚届出前の期間にも真摯に交際を発展させていったことが認められ,両名の家族ともすべからくその関係を祝福していたとうかがわれることや,強い精神的なつながりが認められることなど,届出から裁決通知まで1年4か月余りの期間にとどまり,いまだその間に子がなかったとしても,同裁決時において既に真摯で安定かつ成熟した婚姻関係であると評価すべき素地が十分にあったと認められ,暴力行為を背景に長くない期間で破綻した同女性の過去の婚姻関係とは質的に大きな相違があって,その過去の婚姻歴等から現在の夫との婚姻関係の安定・成熟性を推し量ることには慎重であるべき事情があったと解されるのに,同裁決に際してこの点が慎重に考慮された形跡がないとすれば,基礎事情の評価として合理的であるとはいえない。
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