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行政事件 裁判例集

事件番号

 平成30(行ウ)79

事件名

 公立小中学校における喀痰吸引に必要な器具の確保 処分義務付け等請求事件

裁判年月日

 令和2年8月19日

裁判所名

 名古屋地方裁判所

分野

判示事項

 1 日常生活上喀痰吸引器具を必要とする公立学校の生徒ないしその保護者が,地方公共団体に対し,障害を理由とする差別の解消に関する法律7条2項に基づいて同器具の取得及び保管等を請求することの可否
2 教育委員会が公立小学校の児童の登校の条件として喀痰吸引器具の取得並びに保護者による同器具及び連絡票の持参を義務付けたことが国家賠償法上違法とはいえないとされた事例
3 公立小学校の校長らにおいて児童の校外学習に保護者の付添いを求めたことが国家賠償法上違法とはいえないとされた事例
4 公立小学校の校長らにおいて児童が保護者の付添いなく地域の通学団に参加することができるように働き掛けをしなかったことが国家賠償法上違法とはいえないとされた事例
5 公立小学校の校長らにおいて児童を水泳の授業に参加させず,又は水泳の授業に高学年用プールを使用しなかったことが国家賠償法上違法とはいえないとされた事例

裁判要旨

 1 障害を理由とする差別の解消に関する法律7条2項は,個々の障害者に対して合理的配慮を求める請求権を付与する趣旨の規定ではないと解されること等から,日常生活上喀痰吸引器具を必要とする公立学校の生徒ないしその保護者が,地方公共団体に対し,同項に基づいて同器具の取得及び保管等を請求することはできない。
2 教育委員会が公立小学校の児童の登校の条件として喀痰吸引器具の取得並びに保護者による同器具及び連絡票の持参を義務付けたことは,次の(1)~(4)など判示の事情の下においては,障害者基本法4条及び障害を理由とする差別の解消に関する法律7条に違反するものではなく,教育委員会の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用は認められないから,国家賠償法上違法とはいえない。
 (1) 喀痰吸引器具は,専ら上記児童の個人的使用に供されるものであり,一定額の補助を受けて数万円で購入が可能なものである。
 (2) 上記児童の日常生活上の身体状況等を最もよく知悉する保護者が学校関係者と直接対話することにより情報が学校側に提供されることが期待できる。
 (3) 医療的ケアに必要な医療器具を学校で保管することとした場合,人的物的な制約から当該医療器具を安全かつ適切な保管環境の下で管理できない事態が生ずる可能性が否定できない。
 (4) 上記児童の使用する喀痰吸引器具は,おおむね30cm四方の重さ約2kgのものである。
3 上記2の児童の通っていた公立小学校の校長らが,当該児童の校外学習に保護者の付添いを求めたことは,次の(1)~(2)など判示の事情の下においては,障害者基本法4条及び障害を理由とする差別の解消に関する法律7条に違反するものではなく,校長らの裁量権の範囲の逸脱又はその濫用は認められないから,国家賠償法上違法とはいえない。
 (1) 上記児童のカニューレ等が外れた場合には速やかに気道の確保等が必要である上,突発的・衝動的な行動に出る傾向のある当該児童に対応することには身体的,精神的負担がかかることが想定される。
(2) 上記児童の母親は喀痰吸引を行うことができる一方,予算等の面で,上記小学校の支援員として高齢の元看護師1人しか雇用できないこともやむを得なかった。
4 上記2の児童の通っていた公立小学校の校長らにおいて当該児童が保護者の付添いなく地域の通学団に参加することができるように働き掛けをしなかったことは,次の(1)~(2)など判示の事情の下においては,通学団の児童の保護者が,上記2の児童が通学団に参加する際に保護者の付添いを求めたことに正当な理由がないとはいえない以上,国家賠償法上違法とはいえない。
(1) 上記児童には突発的・衝動的な行動が見られたために,通学途中にカニューレ等が外れる具体的な可能性が存しており,その場合に通学団の児童のみで適切に対応することは実際上困難である上,上記2の児童の不注意によって他の児童が危害を受けるなどのおそれもあった。
(2) 上記2の児童が単独で通学した場合に安全を確保することができないなどの事情は認められない。
5 上記2の児童の通っていた公立小学校の校長らが,当該児童を1年次から3年次まで水泳の授業に参加させず,4年次の当初から当該児童の授業に高学年用プールを使用しなかったことは,次の(1)~(2)など判示の事情の下においては,障害者基本法4条及び障害を理由とする差別の解消に関する法律7条に違反するものではなく,校長らの裁量権の範囲の逸脱又はその濫用は認められないから,国家賠償法上違法とはいえない。
 (1) 上記児童は突発的・衝動的な行動に出る傾向があったこと等からすれば,当該児童が水泳の授業に参加した場合,水中で姿勢が保持できなかったりして,当該児童の気管切開部から水が入ることが想定された。
(2) 校長らは,4年次以降,水深の深い高学年用プールを使用した場合の危険性の程度,上記児童の習熟度等を総合考慮して,段階的に高学年用プールに移行することを企図していた。

○参照法条
(1につき)障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律7条2項
(2,3,5につき)国家賠償法1条1項,障害を理由とする差別の解消の促進に関する法律7条,障害者基本法4条
(4につき)国家賠償法1条1項

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