裁判例結果詳細

事件番号

平成7(行コ)1

事件名

水利使用許可処分取消請求控訴事件

裁判年月日

平成8年9月25日

裁判所名

名古屋高等裁判所

分野

行政

判示事項

1 河川法23条及び24条に基づく水利使用許可処分につき,当該水利使用に係る事業によって洪水災害が発生するおそれのある地域に居住し又は財産を有する者は,同処分の取消しを求める原告適格を有するとした事例 2 電力会社が設置し水力発電の用に供していたダムについて,地方建設局長が河川法23条及び24条に基づいてした水利使用許可処分につき,市条例により第一種災害危険区域に指定された地域に農地を所有する者は,前記許可処分の取消しを求める原告適格を有するとした事例 3 電力会社が設置し水力発電の用に供していたダムについて,地方建設局長が河川法23条及び24条に基づいてした水利使用許可処分が,裁量権を逸脱又は濫用した違法なものではないとされた事例

裁判要旨

1 河川法は,同法23条及び24条に基づく水利使用許可処分を行う要件,基準について明示の規定を置いていないが,災害の防止をその目的の一つとして定めた同法1条の目的規定,その他の関係規定に照らしてみると,河川管理者が前記処分をするに当たっては,水利使用に係る事業によって洪水等の災害の発生のおそれがないかどうかを考慮しなければならないことを定めているものと解すべきであるところ,水利使用に係る事業によって洪水災害を被るおそれのある者は,河川周辺の一定の地域的範囲に居住するか財産を有する者にほぼ限定され,その被る損害の内容は,財産権に対するもののほか,生命,身体に対するものであり,このような予想される洪水被害の性質等をも踏まえて考えると,同法は,水利使用許可処分をするに当たり,災害の発生防止を単に一般的公益として保護しようとするにとどまらず,河川の周辺に居住し又は財産を有する者の生命,身体又は財産をこれら個々人の個別的権利利益として保護すべきものとする趣旨を含むものと解することができるから,当該水利使用に係る事業によって洪水災害が発生するおそれのある地域に居住し又は財産を有する者は,前記水利使用許可処分の取消しを求める原告適格を有するとした事例 2 電力会社が設置し水力発電の用に供していたダムについて,地方建設局長が河川法23条及び24条に基づいてした水利使用許可処分につき,建築基準法39条に基づいて制定された市条例により第一種災害危険区域に指定された地域に農地を所有する者は,当該ダムによって堆積する土砂のため河床が上昇することを一因とする洪水被害を被るおそれがある地域に財産を所有するわけであるから,前記許可処分の取消しを求める原告適格を有するとした事例 3 電力会社が設置し水力発電の用に供していたダムについて,地方建設局長が河川法23条及び24条に基づいてした水利使用許可処分につき,同許可処分は,既にされた許可処分の延長(ないし更新)という実質を有するから,河川管理者が裁量によりその許否を判断するに当たっては,処分の相手方である電力会社が現に前記ダムを水力発電事業の用に供しているという事情をも考慮し,政治的政策的観点よりも,科学的技術的観点からの安全審査に重きを置き,前記ダムの公益性との比較衡量の上で,前記ダムの危険性が社会通念上容認できる水準以下か否かを判断すべきものと解されるところ,前記許可処分時においても前記ダムの河床上昇への影響はなお存在したが,これによる洪水被害の発生及び拡大を予防するために前記ダムの上流域で行われた総合的な治水事業,危険区域の指定による人命被害の予防及び洪水の際の財産的損害に対する補償措置等を含む堤防計画の実現により,前記ダムの洪水被害への影響は相当程度減少しており,将来生じ得る影響についても,より完成度の高い合理的な治水事業が進ちょくしつつあり,前記ダムが洪水被害に与える影響は,社会通念上容認できる程度に除去されていたといえるから,これらの事情及び前記ダムの公益性を総合的に考慮,判断してされた前記許可処分には,裁量権の逸脱又は濫用はないとされた事例

全文

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