裁判例結果詳細
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行政事件
- 事件番号
平成6(行コ)221
- 事件名
人骨焼却差止請求控訴事件
- 裁判年月日
平成7年12月20日
- 裁判所名
東京高等裁判所
- 分野
行政
- 判示事項
1 特別区が旧陸軍軍医学校の跡地で発見された人骨の火葬又は埋葬に係る費用を支出することが違法であるとして,地方自治法242条の2第1項1号に基づき提起された,区長に対し支出命令の差止めを求める訴えが,当該支出命令の権限は福祉部管理課長に委任されているから,被告とすべき者を誤っているとして,却下された事例 2 特別区が旧陸軍軍医学校の跡地で発見された人骨の火葬又は埋葬に係る費用を支出することが違法であるとして,地方自治法242条の2第1項1号に基づき提起された,助役に対し支出負担行為の差止めを求める訴えが,当該支出負担行為の権限は当該助役に委任されておらず,仮に当該支出負担行為について専決権限を有するとしても,被告とすべき者を誤っているとして,却下された事例 3 地方自治法242条の2第1項ただし書にいう「回復の困難な損害を生ずるおそれ」の意義 4 特別区が旧陸軍軍医学校の跡地で発見された人骨の火葬又は埋葬に係る費用を支出することが違法であるとして,地方自治法242条の2第1項1号に基づき提起された,区長に対し支出負担行為の差止めを,収入役に対し支出の差止めをそれぞれ求める訴えが,それらの行為によって区に回復の困難な損害を生ずるおそれがあるとはいえないとして,却下された事例
- 裁判要旨
1 特別区が旧陸軍軍医学校の跡地で発見された人骨の火葬又は埋葬に係る費用を支出することが違法であるとして,地方自治法242条の2第1項1号に基づき提起された,区長に対し支出命令の差止めを求める訴えにつき,同号に定める差止請求訴訟は,違法な財務会計上の行為がされる前にその差止めを求めるものであるから,差止めの対象となる行為をするか否かを決定する権限を現実に有している者を被告としなければ前記訴えを提起する目的を実現することが困難であるといわざるを得ないことからすると,同号にいう「当該執行機関又は職員」とは差止めの対象となる行為をする権限を現実に有する者をいうものと解するのが相当であり,その権限に属する財務会計上の行為をあらかじめ特定の職員に委任している者は,当該行為をする権限を失っているのであるから,これに当たらないというべきであるとした上,区長が本来有する前記支出命令の権限は規則の定めにより福祉部管理課長に委任されているから,前記訴えは,被告とすべき者を誤っているとして,却下した事例 2 特別区が旧陸軍軍医学校の跡地で発見された人骨の火葬又は埋葬に係る費用を支出することが違法であるとして,地方自治法242条の2第1項1号に基づき提起された,助役に対し支出負担行為の差止めを求める訴えにつき,同助役は,区長が本来有する前記支出負担行為の権限を委任されておらず,仮に,当該支出負担行為について専決権限を有するとしても,現に差止めの対象となる財務会計上の行為をする権限を有する者は,専決者に対する差止請求が認容された場合においても,これに拘束されることなく当該行為をし得るものであり,他面,専決者は,現に権限を有する者に対する差止請求が認容された場合には,これに拘束されて当該差止請求に係る行為をすることができないことになるから,違法な財務会計上の行為がされる前にその差止めを求めるという差止請求訴訟の趣旨,目的に照らせば,専決者は同号にいう「当該執行機関又は職員」に含まれないものと解するのが相当であり,前記訴えは,被告とすべき者を誤っているとして,却下した事例 3 地方自治法242条の2第1項ただし書にいう「回復困難な損害を生ずるおそれ」があるか否かの判断は,違法な財務会計行為を差し止めないことによって地方公共団体の財政にどのような損害を及ぼすかという観点から判断すべきものであり,その判断に当たっては他の手段により事後的に損害が回復される可能性があるかどうかという点を併せ考える必要があるところ,公金の支出に関して回復の困難な損害を生ずるおそれがあるか否かは,第一次的には,当該行為により生ずべき損害額の多寡それ自体を基準として判断されるべきであるから,これが少額であれば一般に回復の困難な損害を生ずるおそれがあるとはいえないし,また,損害額が多額であっても代位請求訴訟の被告とされ得る者の資力等に照らしその損害が事後的に容易に回復される可能性がある場合にはいまだ回復の困難な損害を生ずるおそれがあるとはいえないが,当該行為がされても,法理上,代位請求訴訟による事後的な損害賠償等の請求をすることができない場合には,回復の困難な損害の生ずるおそれが認められる余地があるというべきである。 4 特別区が旧陸軍軍医学校の跡地で発見された人骨の火葬又は埋葬に係る費用を支出することが違法であるとして,地方自治法242条の2第1項1号に基づき提起された,区長に対し支出負担行為の差止めを,収入役に対し支出の差止めをそれぞれ求める訴えにつき,当該費用は,区が被る損害額として必ずしも多額であるとはいえず,また,事後的に区長個人に対し代位請求訴訟が提起されたとしても区長個人の資力等に照らしその負担能力を超えるほどに多額であるということはできず,法理上,事後的な回復が不可能とも考えられないから,前記費用の支出をもって区に回復の困難な損害を生ずるおそれがあるとはいえないとして,前記訴えが却下された事例
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