裁判例結果詳細
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行政事件
- 事件番号
昭和63(行コ)40
- 事件名
緊急裁決処分取消等請求控訴事件
- 裁判年月日
平成5年8月30日
- 裁判所名
東京高等裁判所
- 分野
行政
- 判示事項
1 土地収用法71条と憲法29条3項 2 憲法29条と生活権保障 3 公共用地の取得に関する特別措置法21条1項の仮補償金による補償によって行われる緊急裁決制度と憲法29条3項 4 公共用地の取得に関する特別措置法42条3項により,緊急裁決のうち仮補償金については損失の補償に関する訴えを提起できないとされていることと憲法32条 5 新東京国際空港公団の申立てにより千葉県収用委員会がした権利取得及び明渡しの緊急裁決は,公共用地の取得に関する特別措置法20条1項所定の要件を満たしているとした事例 6 新東京国際空港公団の申立てにより千葉県収用委員会がした権利取得及び明渡しの緊急裁決において,同収用委員会が,損失補償に関する事項につき審理が尽くされていないとの判断の下に,公共用地の取得に関する特別措置法20条,21条に基づき仮補償金を定めて緊急裁決をしたことに,合理性を欠き裁量権を濫用した違法はないとした事例 7 新東京国際空港公団の申立てにより千葉県収用委員会がした権利取得及び明渡しの緊急裁決において,同収用委員会が,一つの収用についての損失補償対象者である土地の所有者とその使用借権者の2名につき一括して仮補償額を定めたことが,土地収用法69条ただし書により個別の補償決定を要しない場合に該当し,適法であるとされた事例 8 公共用地の取得に関する特別措置法20条2項,同法施行規則(昭和36年建設省令第25号)4条が定める様式によらずに緊急裁決の申立てがされても,収用委員会が緊急裁決によって実体判断をした後には,申立書の様式上の欠陥を理由に,同緊急裁決を違法とすることはできないとした事例 9 公共用地の取得に関する特別措置法20条4項所定の期間の経過により,収用委員会は緊急裁決をする権限及び義務を失うものではないとした事例 10 新東京国際空港公団の申立てにより千葉県収用委員会がした権利取得及び明渡しの緊急裁決につき,審理手続上の違法はないとした事例 11 特定公共事業認定と緊急裁決との間の違法性の承継 12 新東京国際空港第一期建設事業は,公共用地の取得に関する特別措置法7条4号所定の特定公共事業の認定要件を満たすとした事例 13 既に土地収用法上の事業認定を受けている者が,当該事業の一部についてのみ特定公共事業の認定を受けようとする場合であっても,公共用地の取得に関する特別措置法39条1項により,同法8条の適用は排除されるのであり,その結果,土地収用法24条所定の事業認定申請書の縦覧手続が行われないこととなったとしても,憲法31条に違反するものではないとした事例 14 新東京国際空港公団の申立てにより千葉県収用委員会がした権利取得及び明渡しの緊急裁決に対する審査請求を棄却した建設大臣の裁決に審理不尽の違法はないとした事例 15 新東京国際空港公団の申立てにより千葉県収用委員会がした権利取得及び明渡しの緊急裁決に対する審査請求を棄却した建設大臣の裁決に理由付記の不備はないとした事例 16 新東京国際空港公団の申立てにより千葉県収用委員会がした権利取得及び明渡しの緊急裁決及び同裁決に対する審査請求を棄却した建設大臣の裁決の取消請求が,いずれも棄却された事例
- 裁判要旨
1 土地収用法71条は,憲法29条3項に違反しない。 2 憲法29条は,私有財産を,財産権として,すなわち経済的な交換価値として保障しようとする規定であって,この保障を通じて非財産的性格を有する生活権が保障されることがあるにしても,直接,生活権を保障する規定ではない。 3 公共用地の取得に関する特別措置法21条1項の仮補償金による補償によって行われる緊急裁決制度は,憲法29条3項に違反しない。 4 公共用地の取得に関する特別措置法42条3項により,緊急裁決のうち仮補償金については損失の補償に関する訴えを提起することができないとされているが,その後にされる補償裁決に対し訴えを提起することができるから,暫定的措置である仮補償金について訴えを提起することができないとしても,これをもって,憲法32条が定める裁判を受ける権利が害されているものとはいえない。 5 新東京国際空港公団の申立てにより千葉県収用委員会がした権利取得及び明渡しの緊急裁決につき,その当時当該土地を緊急に取得する必要性があったものと認められ,明渡裁決が遅れれば事業の施行に支障を及ぼすおそれがあったものと解されるとして,前記緊急裁決が公共用地の取得に関する特別措置法20条1項所定の要件を満たしているとされた事例 6 新東京国際空港公団の申立てにより千葉県収用委員会がした権利取得及び明渡しの緊急裁決において,同収用委員会が損失補償に関する事項につき審理が尽くされていないとの判断の下に,公共用地の取得に関する特別措置法20条,21条に基づき仮補償金を定めて緊急裁決をしたことにつき,損失補償に関する事項につき審理を尽くしたか否かは同収用委員会の裁量的判断にゆだねられているところ,同緊急裁決における調査,審理を通じて,被収用地の損失の補償を適正に算定するための調査が十分に行われたとはいい難く,新東京国際空港第1期建設事業に絶対的に反対する立場をとる関係権利者からの損失補償に関する意見が全く出されていないから,著しく合理性を欠き裁量権を濫用した違法はないとした事例 7 新東京国際空港公団の申立てにより千葉県収用委員会がした権利取得及び明渡しの緊急裁決において,同収用委員会が,一つの収用につき,損失補償対象者として,土地の所有者とその使用借権者の2名がいるのに,各人別の仮補償額決定を行わず,両名につき一括してこれを定めたことが,使用借権に対する損失補償額を算定するには,当該権利の具体的内容としての使用態様,使用状況,使用期間等の事項を認定する必要があるところ,前記使用借権者に同緊急裁決の審理に協力する姿勢がないことにより当該権利の具体的内容を把握できなかったことからすると,土地収用法69条ただし書により個別の補償決定を要しない場合に該当するとして,適法であるとされた事例 8 公共用地の取得に関する特別措置法20条2項,同法施行規則(昭和36年建設省令第25号)4条が定める様式によらずにされた緊急裁決の申立てにつき,同法20条2項が緊急裁決の申立てを建設省令で定める様式に従い書面ですることとしている趣旨は,専ら収用委員会の便宜を図ることにあり,したがって,申立書の様式上の欠陥は,被収用者の法律上の利益に関係ある瑕疵とはいい難いから,収用委員会が緊急裁決によって実体判断をした後には,申立書の様式上の欠陥があっても,これを理由に,同緊急裁決を違法とすることはできないとした事例 9 公共用地の取得に関する特別措置法20条4項は,同法には同項所定の期間の経過によって収用委員会が当然に緊急裁決をする権限を失う旨の明文の規定はなく,また,起業者からの異議申立てがされない限り代行裁決手続に至る一連の規定が適用されないことからみて,前記期間内に緊急裁決をするよう努力すべきことを定めた規定であって,前記期間の経過により,収用委員会は緊急裁決をする権限及び義務を失うものではないとした事例 10 新東京国際空港公団の申立てにより千葉県収用委員会がした権利取得及び明渡しの緊急裁決につき,審理の進行については収用委員会の裁量にゆだねられているものと解されるところ,同緊急裁決の審理経過に,著しく合理性を欠くとか,裁量権を濫用したなどの事情を認めることはできないから,審理手続上の違法はないとした事例 11 緊急裁決は,先に特定公共事業認定がされていることを前提としており,特定公共事業認定と緊急裁決とは,相結合して特定公共事業に係る起業地の収用等という一つの法律効果の発生を目指す一連の行為であり,特定公共事業認定自体は後行の緊急裁決を待って初めて処分による権利義務関係が具体的に形成されるものであるから,先行の特定公共事業認定に違法があるときは,後行の緊急裁決は当然に違法となり,緊急裁決の取消訴訟において特定公共事業認定の要件は審理判断の対象となると解するのが相当である。 12 新東京国際空港第一期建設事業につき,その事業認定の当時,東京国際空港が,航空輸送需要の急激な増加と航空機の超大型化,超高速化という航空運輸情勢の変化に対応できない状況にあったことからして,新空港建設自体に緊急性があり,前記事業に緊急施行性があったことは明らかであるとして,前記事業は,公共用地の取得に関する特別措置法7条4号所定の特定公共事業の認定要件を満たすとした事例 13 既に土地収用法上の事業認定を受けている者が,当該事業の一部についてのみ特定公共事業の認定を受けようとする場合であっても,公共用地の取得に関する特別措置法39条1項により,同法8条の適用は排除されるのであり,その結果,土地収用法24条所定の事業認定申請書の縦覧手続が行われないこととなったとしても,公共用地の取得に関する特別措置法3条所定の住民に対する事業の説明及び同法10条所定の特定公共事業認定の告示によって,関係住民は,自己の土地が特定公共事業対象地に入っているかどうかを知り,不服のある者は不服申立てをする機会を与えられるのであるから,以上の手続は,憲法31条に違反するものではないとした事例 14 新東京国際空港公団の申立てにより千葉県収用委員会がした権利取得及び明渡しの緊急裁決に対する審査請求を棄却した建設大臣の裁決につき,建設大臣が口頭意見陳述を行う期日に意見陳述を行わなかった審査請求人のした改めて口頭意見陳述の機会を与えるようにとの申入れを拒否したこと及び審査請求人のした千葉県収用委員会の弁明書副本の送付の要求をいれなかったことなどに,審理不尽の違法はないとした事例 15 新東京国際空港公団の申立てにより千葉県収用委員会がした権利取得及び明渡しの緊急裁決に対する審査請求を棄却した建設大臣の裁決が,審査申立理由に対し一応網羅的に応答しており,かつ,結論に到達した過程を明らかにしているから,理由付記の不備はないとされた事例 16 新東京国際空港公団の申立てにより千葉県収用委員会がした権利取得及び明渡しの緊急裁決及び同裁決に対する審査請求を棄却した建設大臣の裁決の取消請求が,公共用地の取得に関する特別措置法21条1項等の緊急裁決に関する法令の規定は憲法29条等に違反するものではなく,前記の緊急裁決及び審査請求棄却裁決に公共用地の取得に関する特別措置法の規定の違反等又は審理不尽等の違法もないとして,いずれも棄却された事例
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