裁判例結果詳細
裁判例結果詳細
最高裁判所
- 事件番号
昭和24(れ)2819
- 事件名
物価統制令違反等
- 裁判年月日
昭和26年5月15日
- 法廷名
最高裁判所第三小法廷
- 裁判種別
判決
- 結果
その他
- 判例集等巻・号・頁
刑集 第5巻6号1112頁
- 原審裁判所名
大阪高等裁判所
- 原審事件番号
- 原審裁判年月日
昭和24年3月31日
- 判示事項
一 販売一覧表の内容を示さず証拠に引用した証拠説示の適否 二 販売価格が著しく統制額を超過しているときその販売価額から客器代を控除しなかつたことの適否 三 その物品の販売を営業としない者の販売行為と販売業者販売価格の適用 四 物価統制令第三条違反罪における統制額超過販売の事実の摘示方―統制額の指定官庁を示すことの要否 五 公判廷において弁護人から被告人の利益のため提出された書証の証拠調の請求と証拠決定の要否 六 物価統制令違反罪の判示方 七 罰金不完納の場合の労役場留置期間を定むるにあたり一日に満たない端数を生ずる換算率を定めた判決の適否 八 始末書の内容を示さず証拠に引用した証拠説示の適否
- 裁判要旨
一 原判決は、所論被告人A作成の小麦粉短麺販売一覧表の記載を第一審第一回公判調書中の同被告人の判示第二と同旨の供述記載と綜合して原判決判示第二の事実認定の証拠としたものであることは、原判決自体に徴して明らかである。しかして第一審第一回公判調書によれば同被告人は、判事から右一覧表を示された上、其の表の記載のとおり小麦粉短麺等を販売したことは相違ないと供述している。そして本件記録によれば右販売一覧表には同被告人が昭和二二年二月中旬頃から同年九月中旬頃迄の間五回に亘りBに売渡した原判示第二の事実に符合する小麦粉短麺等の取引をその販売日時、販売品目数量、販売価格を一々明細に表示した記載が存するのである。してみれば原判決は、所論販売表と相俟つて、明らかにされた第一審第一回公判調書中に存する同被告人の判示第二と同旨の供述記載により、判示第二の事実を認定した趣旨であることは明らかであるから、原判決には証拠の如何なる部分により如何なる事実を認定したかを明らかにしない違法があるということはできない。 二 所論小麦粉に対する昭和二一年一一月二〇日物価庁告示第一八五号、並昭和二二年七月六日物価庁告示第三五八号による統制額及び短麺に対する昭和二一年三月二二日大蔵省告示第一三二号並に昭和二二年七月六日物価庁告示第三五九号による統制額は何れも、容器を含まない裸売の価格であることは所論のとおりであるとしても、被告人の販売した価格が著しく統制額を超過しているときは、原判決が被告人の販売した価格から容器代を控除しなかつたからといつて、その違法は原判決に影響を及ぼさないこと明白である。 三 所論昭和二一年三月二二日大蔵省告示第一三二号によれば短麺について、製造業者販売価格の統制額、中央食糧営団販売価格の統制額及び販売業者(中央食糧営団を除く)販売価格の統制額を指定していることは所論のとおりである。しかし、右告示にいわゆる中央食糧営団を除く販売価格の統制額というのは、一応は現実に法規に従つて正当に短麺の販売業を営む者の販売する場合の統制額を意味するのであるが、価格の統制は正常に営業を営む業者の取引を対象とするだけではなく、その他の取引にも及ぶものと解すべきであるから、その物品の販売を営業とする者でなくても、たまたまその物資を度重ねて販売し又は多量に販売したような場合には、その取引については右告示の販売業者販売価格の統制額を適用してその行為を取締るべきである(昭和二四年(れ)第一七八一号、同二六年一月三〇日第三小法廷判決参照)。 四 物価統制令第三条に違反し統制額を超えて物資を販売した犯罪事実を判示するには、その販売した目的物に統制額が存しその統制額を超えて販売した事実を示せば足りるものである。原判決が小麦粉、短麺を「物価庁指定の公定価格より………超過して販売し」と判示したのは右小麦粉、短麺をこれについて夫々定められている統制額を超過して販売した事実を判示した趣旨であつて、小麦粉に対する統制額は物価庁告示により、短麺に対する統制額は大蔵省告示及物価庁告示により夫々指定されていることは所論のとおりであるけれども、犯罪事実の判示としては一々その統制額が如何なる官庁により指定されているかを示す必要はない。 五 公判廷において弁護人から被告人の利益のため提出された書証の如きは、直ちに証拠調ができるもので新期日を指定する必要もなく又証拠調をするため別段の手続を必要とするものでもない。しかも原審第四回公判調書によれば被告人の弁護人杉浦酉太郎が被告人の利益のため所論書証を提出したのに対し裁判長はこれが取調を為した上検事に示し本件記録に編綴する旨告げたとの記載が存するから原審は所論書証については直ちに証拠調をしているのである。〔公判廷で被告人の利益のため提出された書証は裁判所及び検察官が之を閲覧しさえすればその証拠調の手続は履践されたものであつて必ずしもこれを被告人に示しその被告人の意見弁解を聴く必要のないことは判例である(昭和二四年(れ)第一四三五号同二六年三月一五日第一小法廷判決)〕から論旨は理由がない。 六 統制額を超えて物品を売渡した所為を物価統制令第三条違反の罪に問擬するには、被告人が当該物品を統制額を超えて他人に売渡した事実を確定すれば足り、その他人が自己の為買受けたものであるか又は第三者の従業員としてその第三者の業務として買受けたものであるかということは、売渡人たる被告人に対する犯罪の成否に関係のないことである。 七 原判決は、被告人Bに対し、罰金五万円に処し右罰金を完納することができないときは金三〇〇円を一日に換算して同被告人を労役場に留置する旨言渡したので同被告人が罰金を完納しない場合は、一六六日間留置してもなお二〇〇円の残りが生じ一日に満たない金額を生ずることは所論のとおりである。さればといつて、原判決は罰金を完納することができない場合における労役場留置の期間を定めないものとはいえないから原判決が刑法第一八条四項に違反したものといえない。 八 原判決が判示第三の事実を被告人Bの原審公判廷の判示同旨の供述と共に、所論「買入明細一覧表及び小麦粉短麺販売一覧表の各記載」並に「Cの所論始末書の記載」その他を綜合して之を認める旨説示していることは所論のとおりである。しかし、本件記録に存する所論始末書にはCが被告人Bと共謀して、原判示第三の(一)の(ロ)の共犯に係る買受行為をした旨の記載があり、他にこれと矛盾する事実の記載は存したのであるから、原判決が証拠として右始末書の記載と表示したのは、右始末書の、右判示(ロ)の事実を符合する記載全体によりこれを同被告人の右判示と同旨の原審公判廷の供述と綜合して右判示事実を認定した趣旨であること明らかであるから、原判決には、如何なる証拠の如何なる部分で如何なる事実を認定したかを示さないという違法はない。
- 参照法条
旧刑訴法360条1項,旧刑訴法336条,旧刑訴法344条,昭和21年3月22日大蔵省告示132号,昭和22年7月6日物価庁告示359号,物価統制令3条,刑法18条1項,刑法18条4項,刑法18条8項
- 全文