裁判例結果詳細
裁判例結果詳細
最高裁判所
- 事件番号
昭和23(れ)596
- 事件名
強盗
- 裁判年月日
昭和23年10月16日
- 法廷名
最高裁判所第二小法廷
- 裁判種別
判決
- 結果
棄却
- 判例集等巻・号・頁
集刑 第4号439頁
- 原審裁判所名
大阪高等裁判所
- 原審事件番号
- 原審裁判年月日
昭和23年4月10日
- 判示事項
一 刑の執行猶豫の言渡をしなかつた判決と憲法第三七條第一項 二 被害金品が多種多樣な場合の奪取罪についての事實判示の程度 三 辯論の再開と自由裁量 四 證人訊問のため辯論の再開をしなかつたことと憲法第三七條第二項 五 新刑訴法公布後における刑訴應急措置法第一三條第二項の合憲性と憲法第一四條第一項 六 所持罪における幅員的關係の區分と延長的(時間的)關係の區分
- 裁判要旨
一 憲法第三七條第一項にいわゆる「公平な裁判所の裁判」とは、偏頗や不公平のおそれのない組織と構成をもつた裁判所による裁判を意味するものであつて、個々の事件につきその内容實質が具體的に公正妥安當なる裁判を指すのではないことは既に當裁判所の判例とするところである(昭和二二年(れ)第一七一號、同二三年五月五日宣告、同二二年(れ)第四八條、同二三年五月二六日宣告の各大法廷判状)。從つて原判決が被告人に對し刑の執行猶豫の言渡をしなかつたからといつて、所論のように、これを目して同規定に違反するものとすることはできない。 二 奪取罪は犯人が他人の所有物をその者の支配を侵して奪取するによつて成立するものであるから、かかる犯罪事實を判示するに際し、その被害者が數人あり、臓品の種類數量等も多種多樣であるときは、必ずしもその詳細を逐一明示するを要せず、被害者中或者の氏名を表示して他はその員數等を揚げるに止め、その種類數量についても、その中比較的重要な物のみを示して他は雜品としてその總数を概略表示する等これによつて他人の支配を侵してその者の所有物を奪取したことを知り得べき程度に具體的に判示すれば充分であると解さねばならない。 三 證據を取捨選擇し、既に閉じたる辯論を再開するか否かは事實審裁判所の專權に委ねられたことであるから、かりに辯論終結後被害辨償に關する示談書が提出せられ、偶々その辨償額の多寡、示談成立の事情等その書面の内容に不明の個所があつたとしても、他に特別の事情のない限りこれがために既に閉じたる辯論を再開し示談關係者を訊問してその示談の内容を明確にした後でなければ審理を終結し判決をするを得ないという理はない。 四 憲法第三七條第二項の規定あるがため、裁判所としては不必要と思われる證人迄も訊問しなければならぬ譯のものでなく、裁判所が必要と思われる證人を喚問すればよいものであることは既に當裁判所の判例とするところであるから、原審の辯論終結後被害辨償に關する示談書が提出せられ、その内容に不明の個所があつたにも拘わらず、原審が既に閉じたる辯論を再開して示談關係者を證人として喚問する手續をとらなかつたからといつて、直ちにこれを以て憲法第三七條第二項の規定に違反するものということはできない。 五 上告審を以て純然たる法律審とするか否かは立法上の當否の問題ではあるが憲法上の適否の問題ではないから、刑訴應急措置法第一三條第二項の規定が憲法違反でないことは既に當裁判所の判例とするところである(昭和二二年(れ)第五六號、同二三年二月六日大法廷判決)。既に立法上の當否の問題であるとする以上新刑事訴訟法が實施せられる迄はその公布の日の前後を問わず前記刑訴應急措置法の規定が依然有効に適用せられるのは當然の事理であるから新刑事訴訟法公布後においては右規定が憲法違反となるとする論旨は理由がない。 六 所持というような繼續する条が處罰される犯罪にあつては、一回の行爲によつて完結し得る即時犯例えば窃盜罪のような犯罪と異り、時間的關係においても一罪と一部ということが考えられるのでる。すなわち窃盜罪の場合前掲設例のように衣類の窃盜と金錢の窃盜とに區分することを幅員的關係の區分というならば、所持罪の場合あつてはかかる關係の區分の外に、延長的關係の区分ともいうべきものが考えられるというのである。
- 参照法条
憲法37條1項,憲法37條2項,憲法14條1項,刑法25條,刑法235條,刑法236條,刑法246條,刑訴法360條1項,刑訴法350條,刑訴應急措置法13條2項,昭和22年政令165號1條
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