裁判例結果詳細

事件番号

平成10(行ウ)72

事件名

生活保護開始決定取消等請求事件

裁判年月日

平成14年3月22日

裁判所名

大阪地方裁判所

分野

行政

判示事項

1 市立更生相談所長がした一時保護所への収容保護を内容とする生活保護開始決定の後に賃貸住宅を賃借し住所を有することとなった被保護者からの同決定の取消しを求める訴えにつき,法律上の利益があるとされた事例 2 更生施設に収容する方法で生活扶助を受けていた者が,市に対し,市立更生相談所長が正当な理由なく同生活扶助を廃止したことが違法であるとして,損害賠償を求めた国家賠償請求が,棄却された事例 3 更生施設に収容する方法で生活扶助を受けていた被保護者が更生施設の退寮を希望した際に,市立更生相談所長が居宅での生活扶助についての調査義務及び説明義務を怠ったこと,並びに居宅での生活扶助を希望しているにもかかわらず一時保護所への収容を内容とする生活保護開始決定をしたことが違法であるとして,居宅での生活扶助を受けられなかったことにより出損を余儀なくされた敷金及び家賃相当額の損害等の支払を求めた国家賠償請求が,棄却された事例 4 居宅での生活保護を希望する者が,市立更生相談所長がした一時保護所への収容保護を内容とする生活保護開始決定を不服とする審査請求が放置され,請求から裁決まで約1年を要したことにより精神的損害を被ったとしてした府に対する国家賠償請求が,棄却された事例 5 居宅での生活保護を希望する者に対して市立更生相談所長がした一時保護所への収容保護を内容とする生活保護開始決定の取消請求が,認容された事例

裁判要旨

1 市立更生相談所長がした一時保護所への収容保護を内容とする生活保護開始決定の後に賃貸住宅を賃借し住所を有することとなった被保護者からの同決定の取消しを求める訴えにつき,生活保護法(平成12年法律第111号による改正前)62条は,被保護者が収容保護をする旨の決定に従う義務に違反した場合,保護の変更,停止又は廃止することができるが,そのためには当該被保護者に対して弁明の機会を与えなければならない旨規定しているところ,保護の実施機関としては,弁明の結果に基づいて要保護者又は被保護者の実情を再度調査した上で,保護廃止が真にやむを得ないか,被保護者等の実情により適合した内容の保護に変更すべきであるかを検討すべきであって,前記収容保護を内容とする生活保護決定に応じないとの一事をもって,弁明の機会を与えることもなく,いったん開始した保護を廃止することは許されないとした上,前記決定の翌日に前記更生相談所長がした同決定の取消しは,この手続を潜脱して,取消しの名の下に前記生活保護決定を廃止するものであるから無効と解すべきであり,また,前記生活保護決定後,前記被保護者が住居を有するに至ったときは,前記更生相談所長は前記被保護者に対する生活保護事務の権限を失うことになるが,そのことによって同決定の効力が遡及的に失われるものではなく,同決定が取り消された場合,当該決定に係る保護申請後,住居を有するに至るまでの前記被保護者に対してどのような保護を開始すべきであったかについては,取消判決の拘束力に従い,前記更生相談所長が前記申請に対して応答すべきことになるとして,前記訴えに法律上の利益があるとした事例 2 更生施設に収容する方法で生活扶助を受けていた者が,市に対し,市立更生相談所長が正当な理由なく同生活扶助を廃止したことが違法であるとして,損害賠償を求めた国家賠償請求につき,生活保護法7条は申請保護の原則を採用していることからすると,保護の実施期間は,被保護者が保護を辞退した場合には,保護の廃止によって直ちに急迫した状況に至ると認められない限り,保護を継続する義務を負うものではなく,同法26条に基づき保護を廃止することができるが,保護廃止が保護の辞退を理由としてされるものであっても,同条にいう「被保護者が保護を必要としなくなったとき」に当たるものとして,書面で保護廃止の通知をしなければならないとした上,被保護者は,稼働能力があり,ある程度所持金も有していたのであるから,退寮希望に応じて保護を廃止したからといって,直ちに急迫した状況に陥ったとは認められないから,保護を廃止したこと自体は違法ではなく,また,前記収容保護を廃止した決定は,保護廃止決定書を作成交付しなかった点において手続的瑕疵があるが,保護廃止決定書が作成交付されたとしても,被保護者が同決定に対する不服を申し立てて保護の継続を求めたとは考え難いから,保護廃止決定書が作成交付されなかったことにより被保護者の権利,利益が侵害されたとは認められないとして,前記請求を棄却した事例 3 更生施設に収容する方法で生活扶助を受けていた被保護者が更生施設の退寮を希望した際に,市立更生相談所長が居宅での生活扶助についての調査義務及び説明義務を怠ったこと,並びに居宅での生活扶助を希望しているにもかかわらず一時保護所への収容を内容とする生活保護開始決定をしたことが違法であるとして,居宅での生活扶助を受けられなかったことにより出損を余儀なくされた敷金及び家賃相当額の損害等の支払を求めた国家賠償請求につき,前記更生相談所長は,生活保護法25条2項に基づき,保護の実施機関として,被保護者の生活状況を調査し,保護の変更を必要と認めるときは速やかに職権で保護変更決定を行う義務を負い,生活保護法(平成12年法律第111号による改正前)30条1項ただし書により更生施設に保護を委託している場合でも,保護の変更,廃止等の権限は前記更生相談所長に留保されているのであるから,施設との連絡を密にし,保護の変更,廃止等を必要とするような被保護者の状況の変化があったときは,速やかに連絡を受けて自ら調査することができるように態勢を整備すべきであって,被保護者が退寮を希望したときにはその事実を速やかに連絡するよう更生施設を指導すべき義務があり,また,更生施設に収容されている被保護者が退寮を希望した場合には,前記更生相談所長は,被保護者の真意等の調査を行うに当たり,被保護者につき新たな内容の保護への保護変更の可能性があると認められるときは,保護変更申請権を保障するため,当該保護の内容につき説明する義務があるとした上,前記更生相談所長は,更生施設に対し,保護を委託している被保護者が退寮を希望した際にその事実を連絡するよう指導すべき注意義務を怠ったと認められるが,希望による退寮の場合には,敷金給付による収容保護から居宅保護への変更は行わない取扱いであったとの実情の下においては,前記更生相談所長が退寮を希望する前記被収容者に対する調査を実施したとしても,居宅保護への変更が可能であると認識したとは考えられず,また,認識しなかったことにつき過失があるともいえないから,前記更生相談所長が居宅保護について説明しなかったことにつき注意義務違反があるとはいえないことからすると,仮に前記更生相談所長が退寮希望の事実を知り,生活保護法25条2項に基づく調査を行ったとしても,居宅保護への保護変更が行われたであろうとは認め難いのであるから,前記指導義務違反により保護受給権や保護変更の要否等の決定を受ける法律上の利益が侵害されたと認めることはできないとして,前記国家賠償請求を棄却した事例 4 居宅での生活保護を希望する者が,市立更生相談所長がした一時保護所への収容保護を内容とする生活保護開始決定を不服とする審査請求が放置され,請求から裁決まで約1年を要したことにより精神的損害を被ったとしてした府に対する国家賠償請求につき,生活保護法(平成11年法律第160号による改正前)65条1項は50日以内に審査請求に対する裁決をしなければならない旨定めるが,当該規定は訓示規定であり,前記期間内に裁決がされなくとも,審査庁が不当な目的の下に裁決を遅延させた等の特段の事情のない限り,国家賠償法上違法となるものではないとした上,前記被保護者は既に居宅での生活保護決定を受けており,審査の緊急性が乏しく,また,審査が全く放置されていたわけではなく,前記期間経過後も,被保護者から追加資料が提出されていたことなどを考慮すると,前記裁決がされるまでに約1年を要したことにつき,前記特段の事情は認められないから,前記裁決の遅延は国家賠償法上違法であるとまではいえないとして,前記請求を棄却した事例 5 居宅での生活保護を希望する者に対して市立更生相談所長がした一時保護所への収容保護を内容とする生活保護開始決定の取消請求につき,生活保護法(平成12年法律第111号による改正前)30条1項が生活扶助につき被保護者の居宅において行うことを原則としているのは,居宅において保護することが最低限度の生活を保障するとともにその自立を助長するという生活保護法の目的に適うものであるとの考慮によるものであると考えられることに照らすと,要保護者が現に住居を有しない場合であっても,そのことによって直ちに同項にいう「これによることができないとき」に当たるとして,居宅での保護を行う余地はないと解するのは相当でなく,また,生活保護法14条,33条の住宅扶助に関する規定についても,現に住居を有しない要保護者に対して住宅扶助を行うことができないとの限定を付していると解することはできないから,現に住居を有しない要保護者に対して保護を開始するに当たっては,要保護者の身体面,精神面の状況,保護の内容に関する要保護者の希望,収容保護の対象として考えられる施設の内容,居宅での生活保護を実施する場合の住宅の確保の可能性等の諸要素を総合的に考慮して,保護の内容を決すべきであり,前記更生相談所長は保護内容の決定を行うにつき一定の裁量を有するものと解されるとした上,前記更生相談所長は,住居を有しない要保護者に対する保護の内容を決定するにつき,必要な裁量判断を行わず,住居を有しない要保護者に対して居宅での生活保護を行うことはできないとの誤った法解釈を前提として前記収容保護決定を行ったものであるから,前記収容保護決定は違法というべきであるとして,前記請求を認容した事例

全文

全文

ページ上部に戻る