今崎最高裁判所長官による憲法記念日記者会見の概要(令和8年5月掲載)
今崎最高裁判所長官は、憲法記念日を迎えるに当たって記者会見を行い、談話を発表するとともに、以下のとおり、記者からの質問に応じました。
【記者】
司法手続のデジタル化についてお尋ねします。民事訴訟手続ではデジタル化が5月21日に始まるほか、家事分野や刑事分野でもデジタル化が進められると承知しています。今後の課題や期待されることなど、お考えをお聞かせください。
【長官】
民事訴訟手続のデジタル化については、本年5月21日に全面施行され、いよいよ実際の運用段階に入ることになります。また、刑事分野についても、デジタル化に関する改正法が来年3月までに施行されることになっており、その準備が鋭意進められていますし、その後には家事分野等のデジタル化も控えています。
裁判手続のデジタル化は、裁判へのアクセスの利便性を高め、国民の皆さまにとって司法をより身近で利用しやすいものにするという点で、大きな意義を持つ取組であると考えています。また、デジタル化は、単に手続を電子化するのではなく、審理や事務の在り方を点検する契機とし、判断の質を支える基盤として活用されてこそ、その意義が十分に発揮されるものだと思います。
裁判所としては、こうしたデジタル化の趣旨をよく意識し、今後も、関係者の協力を得ながら、円滑な施行と適切な裁判実務の確立に努めていきたいと考えていますし、実際に運用が始まる民事訴訟については、運用を通じて見えてくる課題に丁寧に向き合い、改善を重ねていくことが求められると考えています。
【記者】
憲法についてのお考えを伺います。今年11月、日本国憲法が公布されて80年の節目を迎えます。「憲法の番人」とも呼ばれる最高裁判所の長官として、憲法との向き合い方やお考えをお聞かせください。
【長官】
憲法は、国家の基本を定める最も重要な法規であるとともに、我が国における法の支配の基盤となるものであり、これに日頃から国民の関心が寄せられるということは重要なことであると思っています。
裁判所は、あくまでも具体的事件において憲法を解釈し適用するのが仕事です。最高裁判所長官も裁判官の一人であり、憲法についての考えは、具体的事件を判断する中で必要なときに、その限りで明らかにすべきものだと考えていますので、具体的な所感を述べることは控えたいと思います。
【記者】
刑事事件における保釈の在り方についてお伺いします。大川原化工機をめぐる事件では、裁判所の保釈判断の在り方が問われました。今年1月には、司法研修所において各地の裁判官が実務上の課題を議論する場が設けられたと聞いています。保釈などの身体拘束の現状や課題についてのお考えをお聞かせください。
【長官】
個別具体的な事件についてではなく、あくまでも一般論としてお答えします。
勾留や保釈の判断は被告人の身柄拘束に関わる重要な判断であり、これまでも、裁判官の間では、罪証隠滅や逃亡のおそれなどについて個々の事件の具体的な実情に基づいて具体的かつ丁寧に検討すべきであるという議論がなされてきたところですが、ご質問にあったとおり、今年1月に司法研修所で開かれた研究会において、改めて保釈に関する意見交換が行われたと承知しています。適切な保釈等の運用を確保するためには、引き続き、各地の裁判官の間で不断に議論が重ねられることが重要であり、最高裁としても、議論の場を確保するなどして支援していきたいと考えています。
【記者】
生成AIの活用についてお尋ねします。先ほどデジタル化のお話がありましたけれども、民事裁判で生成AIを日常的に活用できるかについても、内部で検討を進められていると聞いています。生成AIに期待されることや、見えてきた課題など、生成AIの活用の在り方について、現状のお考えをお聞かせいただけますでしょうか。
【長官】
毎回、 AIについてご質問いただいていますが、裁判官の判断作用にAIを用いるということは、やはり相当でなく考えられないというのは、以前から申し上げているとおりです。しかし、それ以外の、裁判官あるいは裁判所職員の様々な事務の補助としてAIを活用する余地については、今後も考えられるのではないかと思っています。
すでに報道もされていますので改めて紹介しませんが、昨年度、裁判所の中でも、特に民事裁判でどのくらいAIの活用ができるかということを、実証・検証するという最初の試みを行いました。その結果として分かってきたことは、例えば、当事者間の主張を整理するというような作業をやらせてみれば、それなりに使えるという一方で、それなりにという言葉でありますように、それではその結果をそのまま使えるかというと、とてもそういった代物ではなかったように聞いています。総じて言えば、使えるかもしれないけれども、まだまだだなというような印象を受ける結果であったようです。
また、そういった個別具体的な検証に限らず、もう少しスコープを大きく考えれば、そもそもAIに裁判官の判断作用には関わらせないということは言いましたけれども、裁判事務の補助として利用していく中で、それとの境界線というものが、あるいは問題になってくるかもしれないと感じることがあります。また、これはよく言われることですけれども、ハルシネーションといったものに加えて、例えば、入力するデータの機密性や、プライバシーを含めた様々な個人情報の扱いといった点について、倫理的な問題も考えていかなければいけないのではないかと思います。さらに言えば、AIはご承知のとおり、日進月歩と言いますか、ものすごいスピードで進化しています。私はかねてからAIは猛獣だと思っているのですが、これをうまく使いこなすだけの力量が使う側にも求められるのだろうと思いますので、そういうものについてのスキルを磨いていくことが必要になってきます。課題としては極めて多くのものがあると思っており、これからさらに検討を進めていきたいと考えているところです。
【記者】
先ほど保釈のお話で、個別の事件に踏み込んでコメントをいただくのは難しいということでしたが、やはり大川原化工機の事件後に、不当に長期間身柄を拘束されないという司法への信頼が一部揺らいでいると見受けられる状況かと思います。そういった状況について、長官として何か課題ですとか、改善すべきとお考えになることはありますか。
【長官】
今挙げられた事件も含めて、国民の方々にどのように受け止められているかということについては、報道等で私も承知していますが、個別具体的な事件について、私が何か申し上げるということは、裁判官の職権行使の独立との関係もありますので、差し控えたいと思います。
一般論としてお答えしますと、先ほどのご質問にありましたとおり、保釈、あるいは身柄に関する判断というものの重大性は、私も当然ですが、裁判官全員が重々承知しておかなければいけないということになりますので、今後もその判断の在り方を不断に検討していく必要があるだろうと思っています。令状判断の難しさというのは今に始まったことではなく、昔から常に議論され、場合によっては批判にさらされてきたという歴史があります。もともと裁判官の判断というのは、基本的には過去の事実を証拠で認定するという事実認定があり、これが普段の仕事なのですが、令状に係る判断というのは、証拠隠滅のおそれ、あるいは逃亡のおそれといった要件に表されているように、未来予測の要素を多く含みますので、かなり難しい判断を求められていると思います。そうした判断の難しさと、他方で、その結果の持つ意味、被疑者、被告人、場合によっては被害者や関係者への影響の大きさといったことも十分に考慮して、やはり裁判官一人一人が、その職責を十分に果たしていくことができるように、その判断の在り方を検討していく必要があると思います。
【記者】
先ほどの質問でもあった憲法についてなのですけれども、高市首相が憲法改正に向けた発議を来年の党大会までにしたいというような強い意欲を示しています。公布から80年ということもありますが、そうした議論の高まりについて長官として所感があればお伺いできればと思います。
【長官】
憲法というのは極めて重要な法規であります。それについて国民の方々が関心を持つということは非常に重要なことだと思っていることは先ほど申し述べたとおりです。その憲法の在り方、憲法の内容をどうするかというのは、まさしく国民が決めることでありますので、私の立場からそれ以上お答えすることは難しいことはご理解いただきたいと思います。あくまで私の仕事は、その時点における憲法の条文を解釈し、個別の事件について判断するということだと考えています。
【記者】
刑事事件の再審事件の関係でお尋ねします。法改正の議論が様々されているということはありますけれども、最高裁判所として、保釈と同様に、司法研修所で研究会等を開かれて、いろいろな運用の議論をされていると承知しています。この点については、再審の運用等の在り方についてお考えを伺えればと思います。
【長官】
再審事件の運用等の在り方については、先ほどの保釈をめぐる判断と同様に、あくまで一つ一つの事件について、その担当裁判官が独立に判断した結果だというふうに思いますので、それについて私がコメントすることができないことはご理解いただきたいと思います。
【記者】
先ほどの保釈の関係のお話の中で、不断に検討を続けていくことと、未来予測の部分は難しいとおっしゃったと思うのですが、改善する場合には、どのような道筋をつけていけば、より良い保釈制度になるか、勾留の議論がより良くなっていくのかというお考えがあれば、お伺いできますか。
【長官】
前提として、私の方で、今の保釈の在り方が良いとか悪いとかという判断をしているわけではないということは、まず申し上げておきたいと思います。その上で、その判断をより良くするという意味で言うと、結局は個々の裁判官の自律に任せるしかないのだと思います。つまり裁判官の職権行使が独立であるということは、個々の裁判官が責任を持って自らの判断を研ぎ澄ませ、洗練させていくしかないからです。ただ、そのためには、もちろん本人としての様々な研さん、論文を読み込んだり、判例を収集したりと、そういった普段の研さんだけではなく、やはり裁判官同士でそういったものを議論する機会が必要であり、重要なのだろうと思います。ですので、組織として言えば、そういった機会を積極的に提供するということが、一つの方策としてはあるかなと思います。また、そのような大げさなことではなくても、裁判官同士では、普段からそういう問題について意識的に議論するという形で、考えを深めていくという日々の取組の方が、私は本質的には重要なのではないかと思っています。ただ、繰り返しになりますけれども、そういったものを含めて、裁判官同士が様々な議論を交わしていく機会を提供していくことは、今後も行っていきたいと思います。
【記者】
その機会というのは今回の研究会ということでしょうか。
【長官】
それは一つの代表的なものになります。
【記者】
先ほどお話のあった再審についてですが、すでに再審で無罪が確定された方々の事件について、これまで個別の事件について検証されたことはなかったかと思います。裁判官の独立の点から難しいかもしれませんが、そういったことを行われるお考えはないでしょうか。また、不当に長く身柄を拘束、受刑をされた方々に対して、何か長官としておっしゃることができることがあればお伺いできますか。
【長官】
まず、最初のご質問については、最終的な判断の結果が確定していなければもちろんですが、確定していたとしても、それを本来の訴訟手続以外で最高裁判所などが評価するということ自体については、本質的に難しい問題があると考えていますので、特にそうしたことを行うことは考えていません。また、2つ目のご質問について、裁判手続の中で結果としてそのようなことになったことについては、私も非常に残念に思っています。